第11話 戦友へ送る
桜の花香る季節。
ふわりとなびく茶色の髪と、宝石のように輝かせた桜色の瞳。
「は、初めまして!
私は中等一年の
……その、ゲート研究部の見学は、ここで合ってますか?」
あぁ、そうだ。丁度一年前だ。
初めてやって来た少女に、喜び、守ろうと。
……そう、思った。
研究熱心な
それで戦闘に発展したり、仲間が増えたり。
沢山の者が彼女に、
仲間が増えて、同じ未来を見据えて。
沢山の、仲間が増えた。
楽しい時間が増えた。
そして、守りたいものが増えた。
……
──私は、どうする事が正解だったんだろうか。
・・・
──ん。
少女が目を覚ます。
「はわっ……っ、えっと、痛い所……ない?」
赤、……いや、マゼンタと言うべきだろうか。
そんな明るい色の髪を持った少女は、青い瞳を天井、それから部屋の景色へと移す。
やがて何かに気づいた様子で、少女は横たわっていたソファから飛び起きる。
「っ! ここは……!?
それに、ヤツらはどこに行ったの!? 」
慌て、気が動転した様子で、少女は
「わわ……っ、お、落ち着いて……ね?
えっと、ここは……使われてなかったお家で、安全だから……? 」
息を吐くと、ゆっくり目を開き、立ち上がる。
「あぁ、ここは安全ネ。一先ず落ち着くヨロシ。」
何時ものように振舞おうとしているが、僅かに表情が険しく見える。
「あっ……!
ご、ごめんなさい!
あたしったら、気が動転しちゃってて……。」
初対面になる人の前で、いきなり肩を掴んで問いかけた事に対し、謝罪する少女。
「えっと、私をヤツらから助けてくれたってことですよね……?
ありがとうございます。
私の名前は
アナタ達は……?」
肩を離された後おどおどとする
「えっと……わ、私は
……よろしく……ね? 」
「俺は
何かを決めたように、強く。
「そして、そこに座る黒髪の子が
金髪の子が
あと二人いるけど、二人はもう休みに行ったから来た時に紹介するネ。」
順に手を向けられ、会釈をする。
「……で、ヤツらってのは『人類の敵』で間違いないアルか?
俺達、『人類の敵』の危険性について調べてるネ。
『人類の敵』、そして君達の戦力について知りたいアル。
俺達は研究者アルが、君達の力になりたいネ。」
「
羨ましいなあ……。」
その表情には「やっちゃった」という言葉が見て取れる。
「あっ、違う! ゲフンゲフン。えーと……
ヤツら……そう、その『人類の敵』は、この街に突如襲来した侵略者です。機械のような見た目をしています。
ヤツらは強くて……普通の人じゃ立ち向かえないから、
私達は『契約者』から力を貰い、『魔法少女』となって魔法の力を使って、『人類の敵』に立ち向かっていたんです。
私達『魔法少女』が力を合わせて、ようやく『人類の敵』の大半を撃退する事が叶いましたが……
やはり敵も強くなっていって、仲間達も次々と散っていき……今やあたし一人になっちゃってっ……。」
話の後半になるにつれ、
「わわっ……な、泣かないで……?」
慌ててハンカチを取り出す
その横で顎を手に置く
「つまりは今は『人類の敵』に対峙するのは君一人……というわけアルな。
気になる事は色々あるけども……、と。」
「よく、頑張ったアルな。」
単純な言葉、されどもその言葉は
「……一人、は辛いアル。俺もわかるネ。
でも安心するヨロシ!今は一人じゃない。
俺達も協力するネ!
俺達の力が何処まで通用するかは未知数アルが、俺達は、
優しく
だが言葉を発したその一瞬、何処か寂しげな様子が伺えた。
「皆さんっ…あ、ありがとうございまずぅっ……!」
涙は相変わらず流れている。だが、それは決して悲しいだとかいう理由だけではない。
──自分はもう一人でじゃない。
その事実だけで、彼女の気持ちは、軽くなった。
しかし、私に疑問が残る。
「ちょっと待って下さい、
その……
私のその質問に彼は笑って返す。
「
彼ならわかってくれるアルよ。
……俺も、お荷物じゃなくなるからね。」
一階からは死角となる階段の傍、
「
「アレでいいんだよ。アイツらはさ。」
そう、アイツらは俺と違う。
……大切なものを、ちゃんと握れる奴らだから。
パンパン、と
「さぁて、今日はもう夜もふけてるし、寝て明日、作戦会議するアル!
せいりゅりゅが人数分の部屋があるの確認してくれてたから部屋については問題ないネ!
難しそうなら俺が背負って部屋まで送るネ。
何処の部屋がいいアルか?」
ソファに座る
「はい、体の方はなんとか……!自分で歩けますっ!
あたしは二階の一室で大丈夫で…… 」
そう言い終わると、彼女はもじもじとした様子で周りに目を向ける。
「あのー……タメ語で話しても良いですか?
この言葉遣い、使い慣れてないから、変な気分になっちゃって……。」
どうやら、敬語を使う事に慣れてないらしく、頬をかく。
「タメでも全然いいネ!んー、二階にはさっきせいりゅりゅが行ったけどまだ部屋はあったアルな?」
「何せさっきまで年下にタメで説教食らった所だもんなぁ?しーきかん?」
むー、と
「びょあっ!?何時からいたネ!?」
「初めまして、俺は
歳そこまで離れてないし、俺もタメで構わない。
……あぁ、あと君の名前は二階から聞かせて貰ったから説明は大丈夫だ。」
二人が一階へと到着すると、
「
目を覚まされたようで、何よりです。」
丁寧な口調で恋に敬意を表す
「
この二人が、さっき鈴春の言ってた仲間の人かな? よろしくね! 」
二人の自己紹介に、笑顔で返す
その笑顔には心からの笑顔ではなく、どことなく焦りも含まれていた。
「ん?どうした?」
職業柄か人の感情には敏感らしい。
「えっ!いやっ、その……」
「その……まだ『人類の敵』を倒せてないよね?
だから、あたしがのうのうとしている間に、
誰かが傷ついてるかと思うと、どうしても落ち着いていられないというか……。
焦っても良い方向には行かないって分かってるのに、どうしてもその気持ちが抑えられないんだ。」
その話を聞いた
「その『人類の敵』の出現条件などはあるか?
それがあれば条件を一時的に潰すでも良い。
幸い今は人数がいるからな。手分けする事も出来る。
無闇矢鱈に動くよりもまずそこから考察していく方が良いだろう。」
その言葉を聞くと
「それが……『人類の敵』の出現条件は分からないの。
ただ、気まぐれに現れて、建物を壊したり、人々の生活を脅かす。そういう存在なんだ。
だから、今まではどうしても、対処が後手に回っちゃって……。
早く気づいて、対処するしかないんだ……。」
俯いたまま、
「ふーむ、厄介アルねぇ……。
その手の異世界生物は知能を持たないタイプのようにも思えるアルな。」
口元を手で覆い、考える仕草を見せた
「……なら、見張りを付ければどうだろうか。
どうせ私は寝付けそうにないし、
タイムテーブル式に入れ替わりで見張りをすれば個々の負担も少なくなるんじゃないかな。」
そう提案したのは、椅子に座っていた
「そ……そう、だね……。
私達の六人で……見張りを、入れ替えるの……どうかな?」
恐る恐る、低く手を挙げながら周りに意見を求める
「あたしも見張りに加わるよ!
怪我だって、ある程度は治ったし…! ってて!」
「
よし、俺達六人で回すか。」
「って事アルから、
「うう……面目ない」
私達が来るまで、一人で戦っていたのだ。
今まで無理をしていた体が、遂に無理できるラインを超えていたため、彼女の思惑通りにはいかなかったのだろう。
「うん……それじゃあ、
お休み~。」
そうお休みの言葉を紡ぐと、
パタリ。
階段を登り、入った部屋の扉を閉める。
初めから決めていたかのように、その部屋に足を進めた
「あはは。
まさかあたしが倒れた後に運ばれる場所がここだなんて。
どういう星の巡り合わせなのかな?
ユウリちゃん。」
友人であり、魔法少女でもあった少女の名前を呟く。
──そう、魔法少女だった。
今はもう、少女の体は『人類の敵』の攻撃を受け、焼け焦げて……
あの陽だまりのような笑顔を見ることは、一生叶わなくなった。
「……。」
生前彼女が鞄に付けてたキーホルダーを、きゅっと握りしめる。
家主が居なくなってから時間の経ったソレは、埃っぽくなっていた。
「次は負けない。『人類の敵』は全部倒す。
そしてあたしは──」
──魔法少女としての、役目を終えるのだ。
・・・
話し合った結果、見張りの一番手は
他のメンバーも各々個室へと向かって行く。
「
後ろから彼を呼び止めたのは
「
「……私はもう大丈夫さ。」
「いや、脚が震えてるネ。」
間髪入れない
「だろう、ね。
……騎士として情けない限りだよ。」
己を鼻で笑いながら震える脚に目線を移した
「騎士であるにも関わらず、一人の少女も守れないなんて……ね。」
憂う一紗に
「なぁ、俺達はどうする事が正解だったと、
お前は思う?」
「分からないよ、分かる筈がない。」
その嘆きに
「それが、答えだ。」
「……は?」
「分からない。
つまりあの時の俺達は最善を尽くした。
だから分からないんだ。それ以上の答えは無い。」
──ドッ
震えた手が
「
鋭く睨みつける
その目から逸らす事なく
「そう、今の俺たちではどう足掻いても守れなかった。」
己を壁に押し付けていた
元より押し付けた直後からそこまで力が込められていなかった
「だから、俺達は前進しないといけない。」
壁に押し付けられた事による髪の乱れも気にせず、真剣な眼差しを
「俺達は、もっと強くならないといけない。
…………それが俺の見つけた答えだ。」
もう、誰も失わないように。
「その為にもへこたれてるワケにもいかないネ。
俺達は、
だが
それでも、立たなければいけない。
大切なものを、守る為にも。
・・・
時計の針の音が響く。
この部室には、夕日に焼ける赤毛の青年。
ハリスただ一人。
何時もなら、
それが、酷く長く思える。
……何時も僕と
笑ったり、異世界生物から逃げ回ったり……。
そういう敵が現れるきっかけは、大体僕か
……、
…………。
何時も、ゲートに行く時は、みんな笑ってた。
新しい出会いがあるだろうか。
今度はアタリを引けるといいな。
ゲートで悲しい事があった時、みんなで寄り添ってましたよね。
僕か
それを
だから、次にゲートへ向かう時も、
僕達は笑えたんですよ。
だけど
今日、ゲートに向かった二人は…………、
──苦しそうだった。
「あんな「行ってきます。」
……聞きたくなかったですよ。」
部員達の悲しむ顔は、
苦しそうに足先をゲートに向ける二人の姿は。
……見たく、なかった、のに。
鉛のように重い秒針はゆっくりと音をたてる。
ゆっくり、ゆっくりと。
それはまるで、飲み込みきれないこの感情のように。
・・・
北校の研究室にノックの音が響く。
「どぉーぞぉ。」
気の抜けた男の声、サジューロの声がノックに返すように応える。
扉を開けた来訪者。
「失礼します、サジューロ先生。」
赤い髪、暗がりの研究室でも誰か分かる。
「なんだ?
今回のデータならまだ整理終わってねぇぞ。
手伝いに来たか?」
あわよくば、といった様子で
だが
「J-015の件でな。」
J-015……前回、南校が向かい死者を出した、
その言葉を聞き、サジューロは眉をピクリと動かす。
「あそこ、俺単騎で行かせてくれ。」
──秒針は、ゆっくりと動く。
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