第二十八エロ ちあ登場

5体のビーンナイトの前に立ちはだかった助態だったが、どう考えても勝ち目はなかった。


そこで助態が考えた作戦が、みんなから集めたアイテムを駆使して逃げるという作戦。


単純だが現実これが効果的だったりする。


まずはさっきと同じようにけむり玉を1つ使って煙幕を発生させる。


しかし知能の高いビーンナイトに同じ手は二度も通じない。


助態がけむり玉を使った瞬間に5体のビーンナイトが間合いを詰める。


その反応を見た助態が思ったことは、


『やっぱり。』


だった。


つまり、助態はビーンナイトの行動を読んでいたのだ。


間合いを詰めてきたビーンナイトに刃玉と空煙を投げる。


刃玉は爆発した後無数の刃物が飛び出すアイテムだ。


空煙は耳をつんざく程の破裂音と煙が辺りを包む。


更に煙幕を発生させ音でビックリさせ、刃物でけん制をする。あわよくばダメージを与えようと考えた。


しかしここで助態の予想外の攻撃が飛んできた。


ビーンナイトの攻撃は、種まき攻撃と手に持つ剣での攻撃だけではなかった。


剣の先からビームソードを発射してきたのだ。


助態はそれに貫かれてしまった。


「くそ…油断した…まさかこんな攻撃方法があったなんて…」


悔し紛れに助態はそう言い、手のひらで覆っていた伸槍の起動部をカチリとノックした。


ノック式のボールペンのように、ノックされることで中に仕込まれたバネが反応して槍の刃が伸びるアイテムとなっている。


これで1体のビーンナイトを倒した。


しかし助態も肩をビームソードで貫かれている。


その傷は大きく、残り4体を倒せず助態は気を失った。



「お?気が付いたかの?」


やけに年寄りじみた話し方が、気が付いた助態の耳に聞こえてくる。


しかしその違和感は声質にあった。


妙に若い声だった。


まだ頭の中が混乱しているが、とりあえず体を起き上がらせようとすると、右肩が痛んだ。


「まだ寝ていた方がよいじゃろ。ちあが見張ってやるゆえゆっくりと寝ておるがよい。」


声の主は、小さくてひんやりとする手を助態の額に当ててそのまま横にさせた。


「それにしても大変じゃったのう。」


助態が寝ないのを見てちあと名乗った者は話かける。


ちあは、まだ幼さの残る声で年老いたような話し方をした。


「あぁ。まさかビーンナイトがあんな飛び道具を持っているとは思わなかった…」


悔しそうに助態が言う。


「じゃがそれは仲間を助けるためのことじゃろ?」


その言葉を聞いて助態は、見てたのか…と少し恥ずかしくなった。


かっこつけるためではなかったが、仲間を助け、自分も逃げて助かる算段が失敗したわけだ。失敗の一部始終を見られただけでも恥ずかしいのに、俺に任せろと意気込んでいた姿まで見られていたわけだ。


顔から火が出るとはこういうことを言うのだろう。と助態は思い、ゴロリとちあに背を向けた。


「自分を犠牲にするとはのう。」


関心したような言い方だ。


どうやらちあの反応は助態が想像していたものとは違っているようだ。


ゴロリと今度はちあの方を向く。


にぃ。と子供っぽい笑みが現れる。


いや、本当に子供だ。


ちあは見た目10歳くらいの小さな子供だった。


「なっ!」


話し方とのギャップに助態が驚くのも無理はない。


驚きのせいで体がこわばったせいだろう。傷口が痛み助態が顔をしかめる。


「痛むのか?」


あまり無理をするでない。とちあは相変わらずの口調で助態を心配する。


「なぁ…ちあって何歳なんだ?」


「ん?見ての通り10歳じゃ。じゃがこの前とある呪いにかけられてしもうての。これ以上成長しない呪いじゃ…じゃが安心せい!勇者のことはちあが命に代えても守るのじゃ!」


「待て待て待て!」


次から次へと訳の分からない言葉を並べるちあを制止して、助態が話しを整理した。



どうやらちあは正真正銘の10歳らしい。まだ小学生の女の子に助態は助けられたことになる。


それよりも驚きなのは、この年にして最高ランクの大魔導士だという。くびちの魔術師とちあの魔導士ではどう違うのか聞こうとしたが、話が長くなりそうなのでやめた。


幼き天才の異名を持ち、ティーパンと同じくらい有名なんだそう。


呪いも本物で、呪いを解くために旅をしていたところ、助態を見かけたのだそう。


最も旅とは名ばかりで、森の中を迷っていたらしい。


そのあたりは10歳そのもの。


「ちなみに、精神年齢や体力も10歳と変らないから、夜になるとすぐ眠くなるのよ。」


ちあに助けられた後、その足でガイラの町まで行き、ティーパンのこの言葉を聞くまで助態は、ちあを何か得体の知れない物だと考えていた。


どうやらティーパンとちあは顔見知りのようだ。


「あ!ティーパンー!」


と顔を見るなり走り出して抱き着いていた。


『確かにこの姿を見ると子供そのものだな。』


「言っておくけど、魔力は私よりもはるかにあるわよ?」


そっとティーパンが助態に耳打ちをする。


もしかしたらティーパンよりも強いかもと。


行く当てがないちあは、助態たちの旅の仲間になることを快く引き受けてくれた。


こうして助態たちのパーティ―にもう1人の強キャラが誕生した。


ガイラの町で補給を済ませたメンバーは、進路を更に東に取る。


「この先は私も行ったことがないなー。」


ティーパンが予想外の発言をする。


「あれ?フォレストの東には何度も行き来してたんじゃないんですか?」


助態が聞くと、さも当然のようにティーパンが答える。


「してたよ?ガイラより東は行ったことないけどね?」


『意味ねー!思わせぶりな発言ってこーゆーことだよ!』


心の中で思いっきり毒づき、笑顔で行きますかと大人の対応を見せる。


町を出てしばらく歩くと早速モンスターに遭遇した。


「ちあがちゃちゃっと片付けるのじゃ。」


そう言ってちあが身の丈ほどある木の杖を構えて前に進み出た。


そういえばと助態は思い出す。


自分は気絶していたため、ちあの実力を全く知らないのだと。


目の前のモンスターはエロサル3匹に発情ウサギ5匹、ゴブリン10匹に激辛スライム3匹と、危険度はDランクばかりだが数は多い。


にも関わらず、ちあは自分1人で戦うと言う。


「ふっふっふ。ちあにかかればこんな敵一瞬なのじゃ。」


片手を広げて顔の半分を覆いながら、何やらごちゃごちゃ言い出した。


「創生の炎、神聖なる水、爆ぜて混ざり合え!ことごとく灰に帰す!暗黒之炎(ダークフレア)!」


杖先から黒い球体の炎が飛んで、モンスターを一瞬の内に焼き払った。


「いきなり魔導レベル9のスキルとはやるねー。それにしても相変わらず詠唱に凝ってるの?魔導に詠唱は必要ないでしょ?」


ぽん。とティーパンがちあの頭に手を置きながら微笑む。


「かっこいい詠唱を考えることこそ、大魔導の務めなのじゃ!」


キラリと八重歯を見せながらちあもにこりと笑った。


青く長い髪の毛が、濃紺のローブと三角帽子によく合っていた。


助態はティーパンの言葉で全てを理解した。


どうりでちあは怪我をしているわけでもないのに、片目に眼帯をしていると思った。


ちあは中二病が入っているのだ。


もっとも、まだ10歳なのだから中二病とは言わないのかもしれないが。


「なんにせよ、こりゃかなりの戦力だな。」


頭の後ろをぽりぽりと掻きながら呟いた後、助態もお疲れさん。とちあの頭を軽く撫でようとした。


「なななななな!何をするのじゃこのケダモノ!」


急にちあが怒りだした。


「へ?」


差し出した手を拒否された助態は、そのままの恰好で固まる。


「確かに助態さんはケダモノっすけど、いきなりどうしたんすか?まさか助態さん、10歳の女の子にまで欲情したんすか?」


ぱいおが白い目で見る。


「ルブマさんでもなかなかヤバいと思うんすけどねぇー。」


ニヤリとぱいおが笑う。


「どういう意味ですか!私は別に子供じゃありません!」


ルブマが怒る。


「いや。欲情してないから。お疲れって労おうと思っただけなんだが?」


「嘘なのじゃ!ちあを孕まそうとしていたのじゃ!」


ちあが喚き散らす。


「はぁ?何でだよ?」


助態も必死に否定するが、それがまた怪しくも見える。


「アンタいくら何でもちあを相手にそれはやめときな?」


もふともが思いっきり引いている。


「仕方ないのじゃ。」


助態が否定をするよりも前に、ちあが言う。


「ちあは助態に孕まれそうになったのじゃから、助態にはその責任を取ってもらう必要があるのじゃ。」


八重歯をチラリと見せ、えくぼを作りながらちあが助態を見る。


「な、何だよ責任って。」


「助態のお嫁さんになるのじゃー!」


そう言ってきゃーっとティーパンの後ろに隠れた。


「あらあら?この子を泣かせたら私許さないわよ?」


意地悪くティーパンが言う。


何でこうなるんだよぉー!


助態は心の中だけで大きく叫んだ。


ガイラの町から吹き抜けた風がそっと助態の髪をなびいて去って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る