第二十六エロ 森の中の攻防

ティーパンが大刀を掲げて助態の隣にやって来る。


ちょうどユルルングルとジャックランタンが3匹のハイエナエースを引き離したところだ。


「全員で2匹を囲んで逃がさないようにするよ!」


ティーパンが鋭く指示を出す。


助態とアンアンがハイエナエースの背後を取り、もふとも・純純・くびちが正面から見て右側を、ルブマとぱいおが左側を取った。


正面にはティーパンが構える。


2匹のハイエナエースは囲まれても動じず低い声で唸りながら囲まれた箇所をウロウロ回る。


「抜けれる場所を探してるよ!油断するんじゃないよ!」


ティーパンが言うのと同時にもふともがサンドスローによる目潰しをした。


牽制にもなるいい手だ。


「やるね!」


そう言い置いてティーパンが目を潰された方のハイエナエースを大刀で切る。


『切る…というよりも潰してる感じだな…』


その攻撃を間近で見ながら助態はそんな感想を持った。


「勇者様!」


アンアンの声にはっとした助態が身をかがめると、そのすぐ真上をハイエナエースが飛んで行った。


あと少し遅ければ首を噛みちぎられていたかもしれない。


しかし…


「1匹逃がしてしまいました。」


「今のは仕方がない!この1匹は必ず仕留めるよ。」


助態の言葉にティーパンが更に気を引き締めるように促す。


ちらりとティーパンが隣の戦場を見ると、ユルルングルとジャックランタンもまだ3匹のハイエナエースと戦っていた。


そちらは壮絶な戦いだった。



1匹のハイエナエースがユルルングルに噛みつく。


ガキンッ――


しかし、ユルルングルは銅の体を持っているためハイエナエースは噛みつけない。


ほとんどの獲物をその牙と顎で噛み砕いてきたハイエナエースにとってみれば、これは屈辱的なことだった。


ギロリとユルルングルを睨むが、もう1体の召喚獣ジャックランタンがその間に割って入る。


カボチャの中に灯っている炎をハイエナエースに飛ばした。


飛び出た炎はカボチャの形になり、鬼火のように自分で動き出した。


追いかけられるようにハイエナエースはその炎から逃げ出した。


ジャックランタンの中にあった炎が消えていた。


この炎が復活するまでしばらく時間がかかる。


その間、ジャックランタンの攻撃方法は体当たりくらいしかない。


しかしそのジャックランタンの体も銅ほどではないにしろ硬い。


更に1匹のハイエナエースを戦線離脱させたこともでかい。


結果的には助態がハイエナエースを1匹、ジャックランタンがハイエナエースを1匹の合計2匹を逃がした形だがこれが吉とでるか凶と出るか。


「よし!逃げた2匹が戻って来る前にこの3匹を倒すぞ!」


視界の端でその戦いを見ていたティーパンがそう宣言した。



ティーパンが宣言してからのジャックランタンとユルルングルの動きはさすがだった。


体当たりくらいしか攻撃方法がないはずのジャックランタンが1匹のハイエナエースに果敢に攻撃を繰り出していた。


硬いその体をハイエナエースは噛みちぎれずにいた。


その様子を目の端で見ていた助態の頭に1つの仮説が浮かぶ。


「もしかして、ハイエナエースって噛む攻撃しかないんですか?」


「半分正解だ。」


飛びかかって来るハイエナエースを大刀で見事に捌きながらティーパンが続ける。


「ハイエナエースは知能が低い。他にも攻撃方法はあるんだが、とりあえず真っ先に浮かぶ噛みつき攻撃を優先的にしてしまうんだ。だが気をつけろ。追い込まれたハイエナエースは厄介な攻撃を繰り出してくるからな。そうなる前に倒す!」


大刀を真上から真下に叩きつけるように振り下ろすと、ハイエナエースは一刀両断された。


更に隣の戦場でも、ユルルングルとジャックランタンが勝利してティーパンの元に戻って来た。


「よくやった。さて、ここにはいつまでも居られないね。」


ユルルングルとジャックランタンを一撫でした後に還らせたティーパンが、辺りをぐるりと見回す。


逃げて行った2匹のハイエナエースが戻ってきてないか警戒してるのだろう。


「2匹が仲間を連れて戻ってきたら厄介だ。荷物をまとめたらすぐに離れるよ。」


しかし、モンスター達はそう簡単に人間に安心感を与えてはくれないらしい。


逃げて行った2匹が仲間を連れて戻って来たのだ。


その数はさっきの倍の10匹。


しかも5匹と5匹に分かれて5匹は助態たちの荷物を狙った。


「まずい!荷物をやられたら終わりだ!」


5匹はちょうど全員の荷物をまとめようとしていたルブマ・純純・もふともの元へ向かい、残りの5匹が助態たちを足止めした。


「私が活路を見出す!荷物の元へ行け!」


大刀を振り回して5匹のハイエナエースの元へ向かうティーパンの後を、助態たちが追う。


「ウチ、ティーパンさんを助けてくるっす。」


そう言ってぱいおもティーパンの隣を並走する。


「こっちは任せてくださいっす。」


そう言ってティーパンの左側でスキル、我慢を発動した。


これでぱいおはしばらく攻撃を防げるだろう。


荷物を守っているもふともがサンドスローで牽制をしている。


その砂をぱいおの後ろを走るくびちの魔法、そよ風で威力を高める。


ルブマがアーチャーだったのも運が良かった。


ハイエナエースが近寄る前に弓矢で威嚇射撃をしていた。


その間に何とか純純がみんなの荷物をまとめる。


それを見た10匹のハイエナエースが散り散りに散開して闇に潜んだ。


「知能があるやつがいるね…」


魔力を回復する薬を飲んだティーパンが悔しそうに呟く。


荷物は旅をする人間の命綱だ。それを狙うなんて通常のモンスターでは考えられないらしい。


更に闇に潜んで散開していることから、戦術指南も受けているのだろう。


全員が片手に簡易式の松明を持って前方を照らした。


深い闇に灰色のハイエナエースが溶け込んで全く見えない。


不気味な風が森の奥へと流れ込む。



――ヒュオッ。


不気味な風で松明の火が揺らいで見える範囲が変わった。


それはつまり視界の変化を意味する。


ハイエナエースはその一瞬の隙を見逃さなかった。


「くっ。」


その発達した歯は、容易に人間であるティーパンの腕を噛み砕く。


しかしティーパンも歴戦の猛者だ。


腕に噛みついているハイエナエースをそのまま地面に叩きつけ、隣にいたルブマの弓矢の矢を奪い取りとどめを刺した。


これで残り9匹。


「大刀が使えなくなった。誰か武器を持っていないか?」


「アタイの短剣でよければ貸そうか?」


もふともがひょいと短剣を投げ渡す。


ティーパンは短く、サンキュ。と礼を言って短剣を鞘から抜く。


「ふぉぉぉぉぉー!助態さん貸し1つっすからね!」


その少し離れた隣ではぱいおが鎧に覆われた腕をハイエナエースに食われている。


「分かった!後で俺のエクスカリハーを存分に眺めさせてやる!」


助態がぱいおを囮にして横からハイエナエースに松明の火を点けた。


ぱいおに噛みついていたハイエナエースはキャンキャン言って逃げるところをルブマの弓矢に居抜かれた。


これで残り8匹になった。


残りのハイエナエースは未だに闇に潜んでいる。


「ちょっと助態さん!なんでウチが助態さんのキングコブラを見なきゃいけないんすか!そんなの見たくないっすよ!」


「あぁ?ぱいおは変態だから俺の股間に興味あんだろーが!」


「ないっすよ!どんだけ自意識過剰なんすか!後でどっかのガチムチに掘られてるところ見せてくださいよ!それで今の貸しはチャラにするっす。」


「な!俺の初体験を無理やり奪うって言うのか?そんなの横暴だろ!」


「言っておきますけど、ウチ助態さんには全く興味ないんすよ?本当ならガチムチ同士のが見たいのに、助態さんで我慢するんすからね?譲歩してるのはこっちっすよ?」


「いつまでも馬鹿なことしてないの。」


くびちが助態とぱいおにゲンコツを食らわせて黙らせた。


だってくびちさーん。とぱいおが言うが、くびちがぱいお好みのガチムチの顔に変身して黙れ。と一喝して黙らせた。


「燻る火種が大きくなる時、風の中より目覚めん!」


魔力が回復したティーパンがサラマンダーを召喚する。


サラマンダーの尻尾の火で辺りは多少明るくなった。


更にサラマンダーは森の闇の中へと歩を進める。


そのため、闇に潜んでいた2匹のハイエナエースが見つかった。


その内の1匹を素早くルブマが倒す。


「アンタ意外と弓の腕あるんだ?」


もふともがルブマの隣で褒める。


「当初は力が弱くて弓が引けなかったのですが、みんなと冒険している内に自然と弓を引けるようになったんです!」


ふん!と鼻から息を出しながら両手を腰元に引いて自信たっぷりに言う。


サラマンダーもあっさりと見つけた1匹を平らげた。


それを見て残りの6匹が逃げて行った。


ようやく戻った平穏。


しかし新たな問題が出てきた。



「まずいわね。」


それは、ティーパンの一言で出てきた問題だった。


「どうしたんすか?」


松明の火を使って新しい焚き火を作っていたぱいおが、背中越しに訊く。


「魔回薬が残り1つしかない…」


魔回薬とは、魔力を回復させるティーパンがよく飲んでいるあの飲み物だ。


魔力は体力同様に自然にも回復するが、今みたいな連戦ではどうしても回復アイテムに頼らざるを得ない。


「知能が高いやつがいるって話しだったけど、もしかして魔回薬を使わせることが目的だったなんてことは?」


もしかしてという感じで、くびちがティーパンに言う。


「…可能性はあるね。」


少し考えてからティーパンも頷く。


しかも今ティーパンの片腕は使えない。


更にここは森の真ん中。


近くのフォレストの村へ戻るにしても3日はかかる。


「私の魔力不足も原因の1つだ。魔力の温存もするけど、これは私への試練だと受け取るよ。気にせず先に進むよ。」


食糧はあるので、とりあえず食べ物を食べて体力だけでも回復させることにした。


「魔力ってどうやって回復するんですか?」


「そうだねー。体力と一緒だから、アイテムを使わない場合は休憩したり休んだり、食べ物とか飲み物でも多少は回復するかな。魔力を使わなければ普通に歩いてたり戦闘中でも自然と回復するからそこまで気にしなくていい。」


助態の質問にティーパンが答え、ただし。と続ける。


「さっきみたいに連戦になったり、戦闘中に魔力が尽きたら回復は見込めないと思った方がいい。」


ひとまず、ティーパンの魔力回復が最優先となったため、ティーパンには寝て休んでもらうことにした。


それなりに戦力になることが判明したルブマはその代わりに見張り役となった。


メンバーの中で一番敵を察知する能力に長けているもふともも一緒に見張る。念のために助態とアンアンも見張りに加わった。


先ほどの襲撃もあったので、見張り役は多めに配置した。


夜は静けさを増していった。

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