第十八エロ 人攫いのもとへ

詳しい人攫いの情報はこうだ。


サイネ市を囲む8つの都市の内の北側に位置するユーサー町の近くに、ホワイトマウンテンと呼ばれる雪山がある。


そこを根城にしているという噂があるようだ。


「ユーサーってウサギのカクレ里に向かう時に素通りした場所か?」


助態があへに聞くとあへが頷く。


「私たちの住処の最寄りはユーサーなのできっとそうだと思います。」


断定的でないのは、ウサギのカクレ里にあへは一緒に行っていないからだ。


あの時はラビットハウスのメンバーが案内してくれた。


「ユーサーか…」


情報を聞いてぼそりと口に出したのはティーパンだ。


何やら思うところがあるらしい。


全員がティーパンを見る。


「あ、いや。特段気になるとかじゃないんだけど、あそこはほとんどの部分が永久凍土の地域なんだ。リンネーンとはまた違った形で作物が育たない。住みやすい街とは言えないからそこを拠点にしているのが不思議でね。それにホワイトマウンテン…」


「ホワイトマウンテンってヤバいんすか?」


ぱいおが訊く。


「ヤバいというか、誰も登ったことがないと言われているわね。根城にしているなら山頂じゃなくて麓のどこかと考えるのが妥当ね。」


「ユーサーで食糧とかを補給してるんですかね?」


住みにくいとはいえ、人がいるなら食べ物くらいはあるはずだ。


ユーサーの近くの雪山をアジトにしているということは、ユーサーは補給路なのだろうとする助態の読みを、ティーパンが頷いて肯定した。


「ホワイトマウンテンを根城にしているということは、何かしらの理由があるはず。油断は出来ないね。」


ティーパンが全員に気を引き締めるように言って、必要物資を揃えることにした。



冬用の道具をメインに必要物資を揃えた助態たちは、人攫いのアジトになっているホワイトマウンテンへ向かうため、サイネ市から歩いて4日の距離にあたるユーサー町へ向かった。


「あんた達が街に入った時におっきな影があったから念のために気を付けな。」


街を出る時に門番がそう声をかけてくれた。


「大きな影ってあいつかい?」


もふともが怪訝そうな声を出す。


目の前には巨大な雪だるまがいた。


「こいつはビッグスノーマンだ。でかい影がこいつかどうかは分からんが、こいつは動きは遅いが高い魔法耐性を持っている。それとホワイトボールという高い攻撃力を持つ配下を召喚するぞ!」


ティーパンがみんなに注意する。


高い魔法耐性ということは、ティーパンの召喚獣の攻撃があまり効かないことを意味する。


だからだろうか。ティーパンも召喚獣を呼び出さず、大刀を手に戦おうとしている。


「ホワイトボールを召喚される前に倒すぞ!」


そう言うとビッグスノーマンに向かって走り出した。


並走するようにもふともが続く。


それを見て助態はビッグスノーマンの背後に周り、鉄爆をアンアンに元の大きさにしてもらった。


「アンアンさんは下がっててください。」


そう言って鉄爆を構える。


あへは気配を消して最後の一撃やピンチの者を助ける準備をした。


くびちとぱいおは後方で待機した。


もふともがサンドスローでビッグスノーマンを攻撃する。


投げれる砂が無いので代わりに雪を投げている。


ダメージはないが大した問題ではない。ビッグスノーマンの意識をもふともに向かわせればいい。


しかし――


ビッグスノーマンはもふともの攻撃を無視してホワイトボールを5体召喚した。


ちっ。とティーパンが舌打ちをしつつ1体を大刀で一刀両断した。


「攻撃される前にホワイトボールを倒しな!」


ティーパンが後方待機しているくびちとぱいお、そして助態の後ろに控えているアンアンに向かって言う。


「私たちは本体を叩くよ!」


これは助態に向かっての言葉だ。


ティーパンが大刀を構えて一歩踏み込む。


同時に背後から助態が鉄爆を構えて踏み込んだ。


ビッグスノーマンの意識はどうやらティーパンに向いているようだ。


『いける!』


助態がそう思った瞬間、助態の足元が消えた。


「しまった!」


一瞬のすき。


ティーパンが助態に気を取られた瞬間にビッグスノーマンに殴られて、くびちの元まで飛ばされた。


「何があったの?」


突然飛ばされてきたティーパンが起き上がるのを助けながらくびちが聞く。


くびちともふともは残り4体のホワイトボールの内の1体を倒したようだが、ダメージも受けていた。


ホワイトボールの攻撃方法は、自分自身を相手にぶつけて相打ちを狙うもののみ。物凄い速さでの突進なので、避けるのはかなり難しい。


どうやら1体のホワイトボールは自分の命と引き換えに、くびちにダメージを与えたようだ。


アンアンとあへはさすが異種族、上手にホワイトボールを倒していた。


ホワイトボールは残り1体になっていた。


「勇者が敵の罠にはまった。」


どうした?と聞かれたティーパンが力なく答えた。


ヒュオっと風と雪が吹き抜けた。



助態はビッグスノーマンに攻撃をしようとして、雪でできた落とし穴に落ちた。


落とし穴は洞窟に繋がっていた。


おそらくこの洞窟はモンスターの住処に繋がっているのだろう。


登って這い上がれる高さでもない。


無傷なのが不思議なくらいの高さだ。


洞窟から湧いて出てくるねずみとこうもりの相手をしながら助態はティーパンたちの戦いが終わるのを待つことにした。


ティーパンは残り体のホワイトボールをさっさと倒して、ビッグスノーマンの前に再び立つ。


「どうやらなかなか知能が高い個体種らしいね。」


「そんなのいるんすか?」


同じモンスターでも知能の差があるのは知っているが、そこまで知能が高いモンスターがいるなど初耳だった。


盾を構えながらぱいおが訊くと、あぁ。とティーパンが頷いた。


「結局のところ、人間の村を襲っているのもそういった知能が高い個体種だからね。」


実際に敵対するビッグスノーマンはかなり知性が高いようだった。


自身と対峙するティーパンとの距離がまだあるのをいいことに、再びホワイトボールを10体召喚し、どさくさ紛れて自分は逃げてしまった。


「勇者を落とし穴に落すことが目的だったのか…」


本当に知性の高いやつだ。とティーパンが悔しそうにする。


「おーい助態ー。登ってこれそうかいー?」


もふともが声をかける。


ちょうど吸血こうもりと吸血ねずみを倒し終えたところだ。


「いやー。高くて無理だー。」


その言葉を聞いたティーパンが、ユルルングルを召喚し、その背中を滑るようにしてみんなが穴の中に落ちた。


「多分この穴の中は罠だと思うけど、みんながバラバラになるよりはマシだと思う。」


ごめん。と頭を下げてからティーパンが言う。


罠にかかったのは自分のせいだと。


「正直敵をなめてた。知能が高い個体種がいることは聞いてたけど、この目で見たのは初めてだったっていうのもあるけど。ごめん。」


もう一度ティーパンが頭を下げた。


「いや、落とし穴に落ちたのは俺の責任ですし、ティーパンさんのせいじゃありませんよ。」


素直に謝られて助態が慌てると、なぜかもふともが助態の言葉を肯定した。


「そうそう。どうせ助態なら何もなくても穴に落ちてただろうよ。」


「下から人のパンツとか覗いてそうっすよねー。」


ぱいおまでからかう。


「なにおー。確かに俺がこの世界に来る原因となったのはパンツを覗いたことだけど。」


助態の言葉にティーパンが吹き出す。


「あはは。君は本当に面白いねー。不思議な力があるよ。場を和ませる力だねー。」


ぽんと、助態の背中を軽く叩き、ありがとう。元気出たよ。と言ってサラマンダーを召喚した。


「この子に先導してもらって、先を進もう。」



洞窟は真っ黒だった。


サラマンダーの炎がなければ何も見えなかっただろう。


どこへ続いているのかが不明な洞窟の中は、吸血こうもりと吸血ねずみしかいなかった。


長く続く一本道。


「ビッグスノーマンが俺を罠にはめたかった理由がイマイチ分かりませんね。」


助態が隣を歩くティーパンに言うと、ティーパンも頷いた。


「勇者を殺すことが目的だとは思えないわね。殺すつもりなら落ちた先に剣とか立ててるだろうし。考えられるのはこの先に何かがあるってことだろうね…」


ティーパンが言い終えたと同時に小さな部屋へとたどり着いた。


丸い部屋の壁一面には等間隔で松明が掲げられている。


明らかに何かがあるのは明白だった。


今までは明かりが無かったのに、急に明かりが出てきたことからもそれは確実だろう。


「これが、勇者を落とし穴に落したかった理由か…」


ティーパンが呟いた。


目の前にやや大きめの蛇が長い舌を出して構えている。


この蛇と戦わせたかったということだろう。


「食え。」


ティーパンがそう言うと、サラマンダーが進み出た。


しかし、部屋の入り口からは見えなかったのだが、横方向に亀裂が入っていた。


大きめの蛇はその亀裂から入り込み、サラマンダーの攻撃を躱した。


それどころか、やはり明かりの少ない入口付近では確認できなかったが、助態たちが居る場所のちょうど横の壁にも亀裂が入っており、蛇はそこから顔を出せるようになっていた。


それに最初に気づいたのは、敵をよく感知していたもふともだった。


「ヤバい!横から蛇が出てきやがった。」


時すでに遅く、蛇の両目がギラリと光ったと思ったら、助態の体に異変が起こった。


蛇は睨み攻撃が完了すると、亀裂からどこかへと逃げて行ってしまった。


「あんなモンスター見たこともない…」


ティーパンが呟く。


明らかに助態を狙った行動で、知能が高い個体種であることは明確だった。


「こんな魔法だか呪いも初めて見た…」


変化した助態を見てもう一度ティーパンが呟く。


新種の蛇モンスターの睨み攻撃は、助態を小さくしてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る