第十六エロ サイネ市の人攫い

助態はサイネ市に入れずにいた。


その理由は、巨大な鉄の塊を持っているから。


明らかに殺傷能力がある武器を持って町に入れるわけがなかった。


そういうわけで助態は、アンアンを呼んでほしいと門番に頼んだわけだが、何しろこの街はでかい。いつ見つかるか分からない。


「くっそー。あいつら俺を置いて行きやがってー。」


門番にジロジロ見られながら一人ブツブツ文句を言っていると、街の中から見覚えのある姿がこちらに近づいてくる。


アンアンだ――


ほっと安堵の息を漏らす助態だが、アンアンの表情は穏やかではない。


他のメンバーもいるが、どうも人数が合わないように見える。


『街を散策でもしてるのかな?』


なんてことを考えながらこちらに向かって走って来るアンアンを待っていた。


「ル…ルブマさんが人攫いに攫われたわ。」


喘ぎ喘ぎアンアンが言う。


先ほど胸の奥に感じた重い感じはこのことだったのだ。


「悪い。純純も攫われた。」


両手を膝につきながらもふともが言う。


「私がついていながらごめん。ぷーれいも攫われた…」


ティーパンも頭を下げた。


困惑する助態にくびちが説明をした。


どうやら街についてから4つのグループで行動をしていたらしい。


アンアンとルブマ、純純ともふとも、ティーパンとぷーれい、そしてくびち、ぱいお、あへの組だ。


一瞬目を離したら純純とルブマとぷーれいが攫われていたのだそうだ。


そこの広場で合流し、助態のところまで来たということらしい。


不穏な空気がみんなの中に流れた。



「えっとさ、人攫いって何?複数いるの?」


混乱する助態に教えてくれたのは、仲間たちではなく門番だった。


「人攫いってのはそのまんま人を攫うって勘違いされるかもしれんがそうじゃねぇ。売れそうな種族を攫っては売り物にしちまう連中のことだ。主に牙狼族が生業としてやってるな。それに人間を攫うのは珍しいこった。よっぽど抵抗しないと思われたのか、美人さんだったかのどっちかだな。」


門番がくびち、もふとも、ぱいお、ティーパン、アンアン、あへと順番に見て言う。


「な、なんだい。アタイらは魅力的じゃないって言うのかい?」


キーっともふともが食い掛かるのをくびちが、やめなさいよみっともない。と抑えている。


「いや。気を悪くさせたならすまねぇな。ただあんたらのメンバーが不思議だったもんでよ。人間に他の種族が一緒。しかもかの有名なティーパンさんまでいる。そんなメンバーを攫うってのが不思議でなぁ?」


「やっぱ他の種族ってそんなに凄いんだ…それにティーパンさんも…」


改めて助態がティーパンとアンアンを尊敬の目で見ると、門番が驚いたような言い方をした。


「当たり前だろう?兄ちゃん!いいかい。人間を助けてくれる種族ってのは基本いない。俺たち人間だって豚や犬を食用や飼う目的以外で助けようとしないだろう?それと同じだ。基本他の種族には無関心なのさ。なんい兄ちゃんはティーパンさんだけでなく、他の種族とも仲良くやっている。いくら勇者と言えど、俺はそんな話し聞いたことないね。」


「そっか。情報ありがとね。」


アンアンに鉄爆を小さくしてもらってから街へと入り、通り過ぎざまに助態が礼を言う。


「あぁ、それと。牙狼族は尻尾と耳を隠してしまえば見た目は人間と変らない。見分けるのは困難だから気を付けな。」


最後にそう忠告してくれた。


勇者の宿命ねぇ…という言葉をティーパンだけが聞き取っていた。


ティーパンは横目で門番を見ながら黙ってみんなに付いて行った。



「まずは人攫いの情報を集めないとな…」


辺りをキョロキョロ見渡しながら助態が言う。


当面の間は、みんなで固まって行動をすることになった。


「あーあー。ショッピングモールとかライブハウスとかもっかい行きたかったけどなー。」


助態がぼやくとぱいおがそれに答えた。


「ほんとウチらってこの街に縁がないっすよねー。こんなに華やかで広いのに一度もゆっくりしたことないっすもん。」


「まさか人攫いがいるなんて誰も思わないよなー。」


「治安が悪いとは聞いてましたが、人攫いとかそういう治安の悪さとは思わなかったっすね。」


うんうん。とぱいおが頷きながら言う。


助態たちが向かっているのは酒場だった。


情報を集める定番だ!と助態が言ってみんなの反対を押し切って酒場へ向かっている。


酒場は賑わっていた。


これぞ酒場!と助態は思いながらカウンターのマスターに、酒を注文しながら人攫いの情報を訊ねた。


すると、こことは別のもう1つの酒場があることを教えてもらった。


実はこの賑やかな酒場(豪快な酒)は、純粋にお酒を楽しむ人たちで溢れているんだそう。


南門から中央広場までの通りには、サキュバスのオ・ミ・セがあり、その向かい側にヒソカな酒飲みという情報通が集まる、やや辛気臭い酒場があるのだと教えられた。


助態たちは、ヒソカな酒飲みで情報を聞くことにした。


しかし助態は気付かなかったが、ヒソカな酒飲みの名前が出た途端に、他のみんなの表情が引き締まっていた。



「あのさ助態?」


珍しくもふともが言いにくそうに口を出す。


「本当にヒソカな酒飲みに行くの?」


物凄く嫌そうだ。


他の者もみんな嫌そうだった。


驚いたことにティーパンも嫌そうにしている。


「ヒソカな酒飲みって何か問題あるの?」


みんなが顔を見合わせて言いにくそうにしている。


「私が説明しよう。勇者を街の外に置いてけぼりにした後、私たちも真っ先に酒場に向かったんだ。勇者と同じ考えだったからだ。そこで私たちが向かったのがヒソカな酒飲みだ。」


ティーパンがそう言って続けた。


「もちろん私達があの時知りたかった情報は、モンスターが活発化した原因やモンスターの住処が変わった要因について。」


ちらりとティーパンが助態を見る。


「端的に言えば、勇者がこの世界に誕生したことが原因だということが分かった。」


生暖かい風が助態を撫でる。


助態の思考が追いつかない。


「え?な、何で?何で俺が原因なの?」


「分からないの?」


困惑する助態に今度はくびちが言う。


「勇者はモンスターを倒すもの。今までこの世界には勇者がいなかったのよ?それが突然現れたとなれば、モンスターだって今までとは生活の仕方を変えるでしょ?」


「で、そのせいであそこの酒場にはモンスターの生態系が変わったことが原因で仕事を失った人たちが大勢いるんすよ。」


今度はぱいおだ。


「つまり、助態さんに恨みを持ってる人ばっかなんす。」


ビシッと助態を指差してぱいおが言う。


「昼間っから飲んだくれてるような連中だ。何をしでかすか分かったもんじゃない。アタイに言わせりゃ、あの酒場の誰かが純純たちを人攫いに売ったと思うね。」


ふん。ともふともが鼻を鳴らして続ける。


「だから、あそこには行かない方がいいんだよ。とゆーか、アンタは宿屋で待ってるべきなの!何遍も言ったろ?」


思い返してみれば、人攫いの情報は自分達がやるから助態は宿屋で休んでて欲しいと、みんなから言われた。


「いや、でもそれで、はいわかった。ってならなくね?」


助態が言い返すと、ぱいおが大きなため息をついた。


「助態さんって、ほんとクズっすね。んで、人のこととか考えらんないんすね。ウチも結構他人のことどうでもいい派っすけど、他人の好意には気づきますよ?」


「好意?何言ってんだ?」


助態が本当に分からなそうな顔をしているのにイラついたぱいおが、助態の顔面をパンチした。


「みんな助態さんにこの事実を知られないように気を使ってたってことっすよ。」


生暖かい風が今度は、ぱいおのピンクのツインテールを揺らした。


助態はやっと気が付いた。


自分がこの世界にやって来たことでモンスターが活発化した。


そしてそのせいで職を失った誰かが人攫いに純純たちを売った。


それはつまり、助態がこの世界に来たせいで純純たちが攫われたことに等しかった。


それを知られないために、みんなは助態に宿屋にいるように言っていたのだ。


それを助態は聞かずに酒場へ向かうと言った。


向かった酒場が豪快な酒だったから、誰も何も言わなかっただけだったのだ。


「勇者様、私と一緒に宿に戻りませんか?」


何も言えずに固まっている助態に優しくアンアンが声をかける。


無言のまま俯いている助態を置いて、くびち・もふとも・ぱいお・ティーパン・あへがヒソカな酒飲みへ向かう。


「いで…」


ぽつりと助態が言葉を落とす。


全員の足が止まる。


「それは違う。」


はっきりとは聞き取れなかったはずなのに、ティーパンがきっぱりと否定した。


「助態さんどこまで自惚れてるんすか?」


はぁ。とため息交じりにぱいおも言う。


「さっきの門番も言っていたでしょ?モンスターが活発化したり生態系が変わるのは、勇者の宿命よ。」


ぽんと肩を軽く叩いてティーパンは、先を歩くくびちたちの後を追った。


助態はさっき零れ落ちた言葉をもう一度呟いていた。


――俺のせいで…

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