一章②
しばらくすると、厳重な監視のもと、葛が連れてこられた。
相手が漆黒最強ということで、葛の周りを固める術者からはピリピリとした空気が発せられていた。
だが、それは朔も同じで、今にも飛びかかりそうなほど目が据わっている。
それを見た、隣に座る雪笹が危険を感じ、忠告するように
「落ち着けよ、朔」
「俺は常に落ち着いてる」
「どこがだよ。今にも絞め殺しに行きたそうにしてんぞ」
「気のせいだ」
朔は気づいていないが、端から見ているといつ爆発しないかヒヤヒヤするほど怒りのこもった目で、葛を
学祭での騒ぎの最中、華に呪いを与えたことがいまだ許せずにいるのだと、雪笹にはすぐに見当がついた。
華が無事だったからかろうじて大人しく座っているが、もしこれで華の身になにか起きていたらと考えると恐ろしい。
この場で漆黒同士の戦いになれば、止めに入るのは確実に同格の漆黒である雪笹なので、頼むから冷静であってくれと願うのは当然だ。
まあ、他の当主達も、当主に選ばれるだけの実力はあるのだが、この中で最年少かつ朔と友人の雪笹が面倒ごとを押しつけられる可能性が一番高い。
まだ当主になって間もない朔と次期当主でしかない雪笹の二人と比べれば、他の当主達は風格からして一段どころではなく高い位置にいるのは見れば分かる。
そんな当主達を前にしても、葛は気後れした様子は
「これはこれは、皆様おそろいで」
力を使えないように
約一名は射殺しそうな
とてもテロを起こしたとは思えない葛のその穏やかな姿が、余計に不気味さを感じさせる。
「葛……。何故こんなことをしたんだ」
表情を暗くさせながら問いかけるのは、四ツ門の当主だ。
四ツ門
四十代後半であるはずの四ツ門当主にはやや疲れが見える。
葛の起こした事件のせいであることは予想がついた。
葛は四ツ門当主の命令で一ノ宮家に派遣されていたのだから、四ツ門当主の責任問題を、各家代表が集まるこの場で問われてもおかしくはない。
けれど、四ツ門当主が派遣せずとも、葛は問題を起こしていただろう。
それを確信しているので、一番の被害を受けた朔は、四ツ門当主の謝罪を受け入れ、責めたりもしなかった。
それは他の当主とて同じこと。
これを四ツ門だけの問題とは思っていない。
当主達に厳しい目を向けられる中でも、葛はにこりと微笑むだけであった。
「葛!」
まるで深刻さを感じさせない葛の反応に
それでも葛の表情を崩すにはいたらない。
「くっ……」
四ツ門当主が思わず椅子から立ち上がると、それ以上の行動を制止するかのように、二条院当主が
はっと我に返った四ツ門当主は、冷静さを取り戻すように一度深呼吸し、椅子に座り直す。
どうやら荒ぶる感情を無理やり落ち着かせることができたようだ。
「申し訳ありません。少し感情的になってしまいました」
素直に謝る四ツ門当主に対して、二条院当主はこくりと
そして、隻眼となっている目で、葛を見据える。
その威圧感と覇気は、朔ですら真似できない歴戦の
「ある程度の話は朔殿から報告を受けている。だが、どうにも納得がいかない。五家に支配されたこの国が不満だと? ならばどうしてもっと早くに行動しなかった。何故今なのか。それこそ、漆黒として名を
二条院当主が突きつけた疑問は、他の当主も感じていたものだった。
それを代表して二条院当主が問いかけたに過ぎない。
朔にもその疑問はずっとつきまとっていた。
それこそ、まだ朔が当主になり立てで柱石の結界が不安定な時や、まだ漆黒にもなっていない経験も浅く未熟な時に行動を起こされていれば、きっと防げなかった。
朔の父親──先代当主は、朔よりもずっと力が弱かったのだから、対処できなかっただろう。
二条院当主から投げかけられた問いを聞いた葛は笑みを深くする。
「俺が五家を
「三年前?」
不思議がる一同に、葛はさらに言葉を重ねる。
「そういえば、朔様。華が突然
「は?」
「華? 意味分かんねえんだけど」
どうしてここで華の話が出てくるのか、朔と雪笹は疑問符を浮かべる。
その一方で、他の三家の当主達の顔が
そのことに、朔と雪笹は気づいていない。
「朔様のお父上はかなり当主の地位にしがみついておられましたよね? あれだけごねていた方が、ある日突然当主の座を明け渡すと決断したのはいつだったでしょうか?」
こてんと首をかしげ、意味深に問いかける葛に、朔は言いようのない不安を感じてきた。
「えーと、朔の親父さんが当主をおりるって言ってきたのって三年ぐらい前だっけ?」
「ああ」
やや
忘れるはずもない。
当時すでに朔の力の方が上回っていたにもかかわらず、父親は決して当主の座からどこうとしなかった。
そんな父親を説得したのは母親の
「華の方はどうなんだ?」
「十五歳の誕生日に覚醒したと聞いている」
「え、それってつまり三年前……?」
「そうなるな」
明らかに困惑の色を顔に浮かべる雪笹も朔と同様に嫌な予感のようなものを抱いている様子。
朔は、表面的には冷静を装いつつ、ドクドクと嫌な鼓動を感じていた。
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