第4話 日本も無関係ではない『ベトナム人英国コンテナ死亡事件』

皆さんは、2019年10月にイギリスで発生した『ベトナム人英国コンテナ死亡事件』を覚えているでしょうか。


日本でも報道されましたが、被害者に日本人はいなかったし、そもそも、遠く離れたイギリスでの事件だったので、はじめて耳にした方も多いかもしれません。


この事件は、ロンドン近郊においてトレーラーの冷凍コンテナから39人のベトナム人の遺体が見つかった、というものです。


そして、この39人のベトナム人のほとんどが中部出身者でした。



以下が、事件の概要です。


この冷凍コンテナは、ベルギーのゼーブルージュ(Zeebrugge)港から船に積み込まれ、午前零時半ごろ、英テムズ川沿いのパーフリート(Purtfleet)港に運び込まれた。


その後、コンテナは、密航ブローカーの男(25歳・北アイルランド出身)が運転するトラックに積み込まれたが、男が運転するトラックは、出発してから三十分ほどたった頃にエセック州ウォーターグレイド工業団地(Waterglade Industrial Park)付近で停車した。


これは、男が、コンテナ内にある書類を確認しようとしたからだった。


そして、コンテナのドアを開けた男は、自分が、「生」の冒涜者になったことを知る。


彼の目の前には、数多くの「生」が消え去った ベトナム人の身体が横たわっていたのだ(死因は、窒息死と言われている)。


慌てた男は、すぐに救急隊に連絡した。


その後、救急隊は、冷凍コンテナの中にある女性8人と、男性 31人(15歳の少年2人を含む)のベトナム人は遺体を確認した。



この39人のベトナム人の中に中部出身のAさん(女性)がいました。


彼女は、亡くなる直前にベトナムにいる両親に向けて、携帯電話から次のメッセージを送りました。


“Con xin lỗi bố mẹ. Đường đi nước ngoài của con không thành. Con chết vì không thở được. Con thương bố mẹ rất nhiều”.(ごめんなさい、パパママ。私の海外渡航は失敗。息ができなくて死にそう。私は、パパママをとても愛しているよ。)



これは、ベトナム等でも広く報道されたAさんの最後の「言葉」です。


実は、彼女は、元技能実習生でした。Aさんは、三年間、日本のC県にある食品加工工場で技能実習生として活動していたのです。


つまり、彼女は、日本から帰国した直後にイギリスに密航したことになります。


Aさんは、実習先の会社で「将来の夢」というテーマの作文を書いていますが、そこには、自分の店を持つこと、そのお店の名前や内装について希望がある言葉が並んでいました。


彼女は、実習先の会社同僚には「また日本に戻ってきたい」と伝えていたようですが、それが実現する可能性はほとんどありませんでした。


なぜなら、技能実習は、制度上、原則三年間となっているからです。


これは、技能実習制度の目的が「人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)の移転による国際協力を推進すること」(技能実習適正化法第 1条)となっていることにあります。


そのため、Aさんは、日本で学んだ「技能等」をベトナムへ移転する役割を担っており、再度来日することはできませんでした。


しかしながら、この技能実習制度の目的は、形式的なものであり実質的には「使い捨てを前提とした単純労働の供給源(労働力需給調整手段)」となっているのは、もはや「周知の事実」でしょう。


この「周知の事実」については、またあらためて、お話しできればと思います。

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