コント×コント=?⑪
―――え、誰が俺に会いたいって言うんだ?
電話を切り考えてみるが心当たりは特にない。 楽士ではないかとも思うが、それなら先生が連絡してくるのがおかしい。
―――俺、何か問題を起こしたっけ・・・?
思い浮かんだのはイベントで一緒になった後輩をパシリにする先輩のこと。 暴力を振ったわけではないが、トラブルと言われればそうだ。
―――・・・まさか先輩に意見したから!?
―――先輩はあれくらいでブチ切れるヤバい奴だったのか!?
悪い思考がぐるぐると回りながらも養成所へと辿り着いた。
「お待たせしました!!」
不安に思いながら確認してみるが、その先輩の姿はない。 レッスン場には先生の隣に見知った男性が一人いた。
―――もしかしてあの人が俺に会いたい人?
―――というか、どこかで見たことがあるような・・・。
記憶の片隅に残っていたのは、イベント会場の裏口で迷っていた人だった。
―――あの時の!!
―――何か無礼なことをしたか!?
―――確かに急ぎだったからちゃんと案内はできなかったけどさ・・・ッ!
不安になりながら二人に近付くと男性が一枚の名刺を渡してきてこう言った。
「突然押しかけてすみません。 また貴方を見つけられてよかったです」
「はぁ・・・」
―――そこまで俺を恨んでいたのか・・・。
「よろしければウチへ来ませんか?」
「・・・え?」
思いもよらなかったその言葉に慌てて名刺を見ると、そこには超有名なお笑い芸人事務所の名前が書かれてあった。
「えぇ!?」
「私はそこの最高責任者を務めておりまして」
「最高責任者!?」
よく分からず助けを求めるようにして先生を見る。
「よかったな、光生! 光生と楽士に大手芸人事務所からスカウトが来たぞ!!」
「えぇッ!?」
思わぬ出来事に二人を交互に見る。
「え、それって本当ですか・・・?」
「もちろん。 撤回などしませんよ」
「そんなことが・・・ッ!」
「入ってくれましたらすぐにマネージャーを付け、受けられるお笑いの仕事を全力でサポートします」
社長なのかは分からないが、スカウトで目に留めてくれたためか優遇されるようだった。
「そこまでしてくれるんですか・・・」
「はい。 そう言えば、相方さんはどこにおられるのですか?」
「あ・・・」
男性は辺りを見渡すが当然楽士はいない。 そうなれば光生としては居ても立っても居られない。 先生も光生のことを分かってくれていたようだ。
「連絡してこいよ。 楽士に」
「ッ、はい!!」
―――まさかこんなことが起こるなんて!!
―――それにしても、どうして俺たちに目を付けてくれたんだろう?
―――今日披露したネタは別に新作のものでもないのにな。
―――後で聞いてみよう。
レッスン場を出ると早速とばかりに楽士に連絡した。 楽士は思った以上にすんなりと電話に出た。
『・・・光生か? どうかした?』
「楽士、聞いてくれよ!! スカウトされたんだ!!」
『スカウト? どこの?』
「聞いて驚くな? あの超有名な芸人事務所からだよ!!」
事務所名を言うと楽士は椅子が転がるような音と同時に驚いてみせた。
『凄ぇ・・・ッ! 凄いじゃんか、光生!!』
「だろ!?」
『これでもう光生の将来は安泰だな!!』
あの老人は光生をスカウトしたわけではないのだ。 楽士とのコンビとして誘ってきているのは明白だった。
「いや、楽士もだぞ?」
『え?』
「俺たち二人をスカウトだからな!? 楽士が受けないって言うなら話が流れてしまうかもしれないけど」
『え、マジで・・・ッ!?』
「マジマジ!! スカウトだからチャンスが多く訪れるかもしれない。 俺たちは一気に伸びるぞ!!」
『・・・』
黙り込む楽士に静かに尋ねかけた。 冷静に考えれば楽士はただ単に引退しようとしていたわけではない。 彼女のお腹には新しい命が既にあり、苦渋の決断として決めていたのだ。
一人舞い上がっていて、楽士もこれで戻ってきてくれるとは思っていた。 しかし、事はそう単純ではないと思い直す。
「・・・どうする、楽士は? 別に絶対に戻ってこいとは言わない。 楽士の幸せと将来を第一に考えてほしいから」
『俺は・・・』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます