第11話 王国案内ツアー
「さてさて、これから王国を案内する訳だけど、流石に王国全部を案内はできないからね。 よく行く場所や有名所でも紹介しとこうかな〜」
「こうやって見回るだけでも俺は楽しいけどな、見慣れない物だらけで。 一体どんな所を紹介してくれるんだイーリル?」
「昨日は寝ずに夜通しでどう案内するか色々と練ったからね、任せてよっ! まずはあそこからかな〜」
「3日に一回は寝なよイーリル、ちなみに僕も教えてもらってないんだけど何処行こうとしてるの? いつも行く様な変な場所には近付いてほしくないんだけど……」
「お前の一言で不安になってきたわ」
こいつらはいつもどんな生活をしてるんだ。
最近アスティが不憫に思えて仕方ない。
「まぁまぁ、どんな所でもきっと楽しいですよ! いや〜久々のラストリアは良いものですねぇ!」
「流石フェトちゃん、分かってるね〜! 私が好きな事は楽しい事、つまり私の行く場所は楽しい所、これ以上ないQEDだよね!」
「そこに安全性は考慮されているか?」
俺の問いは華麗にスルーされ、早速イーリルの先導の元怪しき案内ツアーが始まるのだった。
-◇-◇-◇-◇-◇-◇-◇-◇-◇-
「えー、まずここ、楽しい薬が売っているお店です」
「イーリル……お前……」
「違うからねキサっ!? イーリルその説明はおかしい、普通に薬屋だから! 確かに主人が変人で意味分からない物も売ってるけどここの人も王直属の人だから安心してっ! ていうかなんでここ!?」
「いや、返す物があって……ってあれ? いないみたい。 どうしよう、所持してたら危ないのに」
「イーリルさん、悪い事は言いません。 一緒に出るとこ出ましょう」
「フェト君まで!? 違うからね!? 確か前に開発してた火薬の事でしょイーリル! 誤解しかないからこれ以上口を開かないで!!」
-◇-◇-◇-◇-◇-◇-◇-◇-◇-
「えー、お次はこちら。 植物園"リーリエ"、年中無休で営業してて様々な花や草木に癒される為に訪れる人が多いメジャースポット、管理人は凄く美人さん。 でも実際は裏で様々な植物を扱って到底口に出せないような虫や生物の実験研究を……」
「わーーー!!! わーーー!!! それ言っちゃ駄目なやつだからイーリルっ!!! 前半すごく良かったのにっ!! 何でもないから、聞かなかった事にしてね2人共っ!」
「「………………」」
「分かる、こんな綺麗な所なのに地下ではこの綺麗な植物達を使って汚い生物実験が行われていると思うと不気味だよね〜。 でも逆に怖くて面白いよねここ、夜とか何かの悲鳴とか聞こえ……」
「2人の気持ちを代弁するなら"なんでこんな所に連れて来たんだ"だと思うよ? あとその情報王国でも深部しか知らない機密情報だからね? やだよ僕、また国から追われる羽目になるのは」
「まだ二つしか案内してもらってない筈なのにお腹いっぱいなんだが大丈夫か? この国ってそんなアウトレイジな国だったの?」
「ラストリア……あたしがいた頃とは変わってしまったんですね。 まさかこんな闇が蔓延る国に……」
「いや! 実験といっても決して非人道的な実験とかじゃないからね!? それに人を救うタイプの研究だから! こっちの方がイーリルの実験の10倍はましだから!」
-◇-◇-◇-◇-◇-◇-◇-◇-◇-
「えー、お次がこちらのむぐぅっ!?」
「言わせないよイーリル。 どう考えてもここに来るのおかしいよね」
「なんでこんな何も無くて人も寄らない路地裏に来たんだ? それにここ行き止まりだし。 ……ん? あれ、あそこの床おかしく無いか?」
「あ、本当ですね先輩。 妙に精霊達が出入りしてる……て事はどこかに通じる階段でもあるんでしょうか? ん? ここのレンガ妙に突き出てるような……」
「あっ! 駄目……!」
----ガガガガッ……
「…………なんかフェトがレンガ押したら怪しげな階段が出てきたけど」
「……ぷはぁ! よく気付いたね2人とも? ここは王国の影と名高い特殊部隊"カイン"の本拠地……」
「わーーー!!! わーーー!!!」
「……もう喋んない方が良さそうだぞイーリル。 アスティが半泣きしてる」
「こんな時間に一体誰が入り口を……あれ? 姉御達じゃないっスか!? うぉ、久しぶりっスねー! もしかして依頼受けに来たんですか!?」
「うお、まじだ! 久しぶりっす姉貴!」
「……この人達と知り合いなのかイーリル、アスティ。 エグいほど屈強で視線で人殺せそうな程ヤクザな身なりなんだけど」
「〜〜っ!! なんでこうタイミングが……っ!」
「以前は謀反者をぶちのめす任務手伝ってくれてありがとうございやした! いや〜、まさかあそこまでするなんて……味方であるこちらですらちびっちゃいましたよ。 知ってます? 捉えた謀反者共あれ以来トラウマで女性に会うだけで廃人状態に……」
「その話はまた今度しようかっ! もう用事は済んだから大丈夫だよ、特隊長に宜しく言っておいてくれ、じゃあねっ!」
「いやいや、是非上がってってくださいッス! ちょっと待っててくださいね……ちょっと捕らえた裏切り者の処分してくるんで……」
「もういいからーーっ!!!」
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そんなこんなで数多くの王国(の闇)案内ツアーを受けた所でイーリルはアスティによって大変お叱りをくらい、しょんぼりした顔で戻ってきた。
「まぁイーリル、お前が100%悪いぞ」
「安心してキサ、私はまだ諦めてないから」
「頼むから諦めてくれ」
こいつはまだ案内を続けようとしていたのか。
「うん……今までの事は忘れてとは言わないけど口に出さないでくれると嬉しいかな……。 これからは僕が案内するから、イーリル分かった?」
「えーっ! アスティが案内すると良くも悪くも普通でつまら……」
「分かった?」
「はい……」
アスティの笑顔な筈なのに恐ろしい程の圧に負け、イーリルがついに折れた。
マジで良かった……これ以上変な場所を紹介され続けたら"お前は知りすぎた"とか言われて人知れず処刑されるんじゃないかと未だにヒヤヒヤしている。
その後は常識のあるアスティが様々なショップや娯楽施設、酒場やギルド協会と、馴染みのない場所も分かりやすく説明しながら案内してくれた。
最初は不貞腐れていたイーリルも一緒に案内を受けるにつれて目をキラキラと輝かせ、俺らの中で一番楽しんでいた。
「ふぅ……歩き疲れた。 俺はこんなくたびれてんのに3人はまだまだ元気なこった、羨ましいね」
「言うてキサ先輩三つぐらいしか離れてませんよね? 体力無いんじゃないですかー、女の子に負けちゃ面目が立ちませんよー」
「俺はインドアなんだよ、それにプライドのかけらもないから女の子に負けたってなーんにも恥ずかしくないね。 むしろ面倒な分勝ちたくない」
「その考え方は恥ずべきものですけどねー」
時刻は午後4時ぐらいを回った頃。
外に出てから常に歩き回っていたので俺の少ない体力が限界を迎え、息抜きがてらにショッピングモールの休憩スペースで少し休む事になった。
「お待たせ〜、喉渇いたんじゃない? ほいっと、買ってきましたよ〜。 どぞどぞ」
「飲み物買って来てくれたのか。 ありがとう、助かるよ」
「大体案内したい所は案内出来たし、ゆっくりしていいよ。 僕も少し疲れたみたいだ」
4人用のテーブルに座る俺とフェトの元にイーリル達が買い物から戻ってくる。
一体何を買うのかと思っていたが俺たちの為に飲み物を買ってくれていたようだ。
「それにしてもここまで栄えてたとはな〜。 ここのショッピングモールも広いし色んな店並んでるし、何でも揃いそうだな」
「……でもここってショッピングモールでしたっけ? あたしの記憶だと公園だった気がするんですけど」
「あー、確かに4年程前まではそうだったかな。 ……よく知ってたねフェト君?」
アスティは何故知ってるのか疑問を抱くがフェトも記憶喪失のせいで自分でもなんで知ってるのかよく分からないようだ。
「まぁまぁ、考えても分からない事を延々と考え続けるのは良くも悪くもアスティの癖だよ〜。 ……ぷはぁ!おいしー!」
「それ美味しいのか……? 明らかに失敗した試薬みたいなどす黒い色してるけど」
「美味しいよっ! Monster"ポイズンウーズ味"! 人気過ぎて何処にも売られてないんだよ〜」
考え込むアスティに声を掛けながらイーリルは買ってきた飲み物をゴクゴクと飲んでいるが、その飲み物がなにぶん怪しい。
「アスティ、ほんとか」
「殆どの店で売られてないってところはね」
「嘘じゃねぇかイーリル、そりゃそうだよ明らかに毒みたいな見た目してるもん」
「こんなに美味しいのにおかしいよね? だけど大特価だったし私としては嬉しいけどね、なんと脅威の一本5エン」
「売れ残りの叩き売りじゃないのかそれ、もはや売る労力の方が原価より高いだろ」
イーリルは"美味しいのにな〜"と言いながらゴクゴクと飲み続ける。
「ったく……なんでイーリルは作る物と言いゲテモノしか好まないんだ…………ブフォオッッ!?!? 何これまっっっず!!!」
渡された飲み物を警戒せずに飲んでしまった俺は謎の液体を盛大に噴き出す。
「うわっ!ちょっとキサ! 店の物汚しちゃだめだよ!」
「だ、大丈夫ですか先輩っ!?」
すぐフェトが手持ちのハンカチで拭いてくれる。
「あ、ありがとう……ってそんなことじゃないイーリルお前何買ってきた!? この世の汚物を全部叩きつけた様な味するんだけど!?」
「すぐそれを買ったのが僕じゃないと気づくのが少し嬉しいね……」
アスティは"あはは"と苦笑い。
「ふっふっふ……キサにもこの飲み物の美味しさに気づいて欲しくてね……なんとMonster史上一番レベルの高い味"ダストワーム味"を買ってきまーー」
「ふざけんなぁぁあああああ!!!!」
「あぁ!私のイチオシがーー!」
そのまま8割方残っている飲料を数十メートル離れたゴミ箱に光線の如く見事な投擲で投げ入れるのだった。
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「さて……トイレも済んだしイーリル達の所に戻るか。 それにしても広いな、迷いそうになったぞ」
あの後イーリル達に言って一人でトイレに向かっていた俺。
もう一度店内マップを見て帰り道を確認する。
「えぇと……うわ、こんなに離れてたのか……。 人の波に押されて相当遠くのトイレに来てたみたいだな。 この人の波にもう一度入るの嫌なんだけど……」
まるで数百メートル離れている、俺ここまで来てたの?
こんなんになるなら別の所まで我慢するんだったな……。
「待たせてる訳だし、早く戻らなきゃな」
駆け足で人混みに向かおうとしたその時、平和だと思っていたこの世界に事件は発生した。
「ぐぁぁァぁあォぉおオォオオッ!!??」
「キャァァァアアアッッ!!!!」
「……ん? なんだ?」
異声と悲鳴が混ざった騒音が丁度トイレから出た広場で聞こえてくる。
その場では何かを囲む様に人だかりが出来ており、中には意識無く焦点の合わない目で立ちすくむ二人の男と、明らかにおかしくカクカクと体が刻み揺れる男の姿があった。
その男は次第に怪しげな黒の瘴気を身に纏い始めている。
「なんだありゃ? 只事じゃ無さそうだが……ってえ?」
「タス……タスケ……あ、あガッ……ァァァァアアアアアア!!!!」
「こ、こんな所で……っ!? 逃げろっ! 巻き込まれるぞ!!」
「誰か騎士団を呼んでっ! このままじゃまた被害が……っ!」
……"魔獣化"が始まるッ!!!
「おっとー……平和じゃないな……」
狂い始め徐々に原形を無視して身体が無理に変化していく男。
逃げ惑う人々を見ながら、状況も掴めない俺はただ眺める事しか出来なかった。
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