4月16日 エスプレッソの日

 手を洗って戻る頃には知らない老婦人が向かいに座っていた。

「あら、すみません。気づかなくて……」

「いえいえ、僕が動きますよ」

 置いていた荷物を取ろうとしたら、彼女が制止する。

「いや、そんな悪いわ」

 彼女が立ち上がろうとするので周りを見渡した。どの席もまばらに埋まっている。

「もし良かったら相席いかがですか?」

 驚いている彼女をなだめそのまま座っていてもらった。

「ごめんなさいね、こんなおばあちゃん」

 彼女は丁寧にカバンを隣の椅子に置き直す。

「いえいえ。いいですよねこの端っこの席」

 そう言いながら彼女の向かいに座る。

「ごめんなさい、私来るのは初めてなのよ」

 コーヒーに砂糖とミルクが届いたのを見て、彼女はエスプレッソを一杯注文した。

「主人がね、ここのエスプレッソが好きだったの」

 そう言って彼女は店内を見渡す。

「あなたは常連さん?」

 僕は一口目をブラックのまま飲む。

「叔父の影響で、今ではすっかり常連です」

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