2014年3月2週

『ちーちゃん!明日家行くね!』

『お昼ちーちゃんの家で食べたいから、11:30頃着く予定! 』

「はい」

『食べたいものある?途中の駅で買ってくよ! 』

「特に」

『じゃああやちの好きなのもって行くね!シュークリーム!』

「りょうかい」


あれから2週間。

あのお風呂事件から2週間。

あやちからラインが来ない日はない。

というか、数時間おきに連絡が来る。

マメだなーって思う反面、こんな適当に返してるのによくめげないなとも思う。

これに関しては申し訳ない気持ちもあるけど、文字を一々打つのが面倒くさいって知ってるので、勘弁してもらってる。

さっき返したラインも、わたしにしては頑張った方。

打つの面倒だから、既読スルーしたりとか、返事は後でいいやってそのまま無視したりとか。

あやちもそのあたり分かってくれてるから、本当に必要な連絡は電話してくれる。

電話は嫌いじゃないので、全然OK。


前にあんな風に、遠ざける感じであやちを振ったわけだけど。

よく考えると、このレベルのやり取りで許してくれる恋人って、メチャクチャ楽じゃない?

今まで付き合ってた男たち、みんな気持ち悪い連絡ばっかだったから。

人に言わせれば『付き合ってるなら普通じゃない、これくらい?むしろなんであんたは返事してあげないわけ?』ってことらしかったけど。


ピンポーン

「ちーちゃん! 開けてー! 」

「はいはーい。寒かったでしょ。中入りなよ。」

「うん、ありがと。でも、先に。ちゅっ。」

「んあっ。……あやちー。まだ玄関閉めてないよ?恥ずかしくないの?」

「恥ずかしいなんて言ってたら時間はどんどんくなっちゃうからね!いいの!」

「まーそんなもんかね。とにかく上がりなよ。」


2週間前のあの日から、わたしたちはわずかながらルールを作った。

縛るためのルールというよりも、自由にするための、気負いしないためのルール。

そして、わたしがあやちへ恋心を向かせるためのルール。


『あやちがお土産を持ってきたときは家の玄関でチュー(嫌じゃなければ)(口以外)』


全然拒否してもOKという条件付きで、ドアチューが決定された。

恥ずかしさ極まりないけど、告白の返事を待ってもらってる以上これくらいはと妥協。

これがあるからあやちはいつもお菓子を買ってくる。

チューのために、いつもいつも違うお菓子を吟味するのも大変だなとは思う。

けど一昨日聞いたら『選んでるときも楽しいからいいの!それにそこまで高くないし、どうせあやちは一人で食べちゃうから、せっかくだからちーちゃんと食べたいだけ!』だって。

健気かよ!

良い彼女だなー。

何て献身的な彼女なんだー。

こんな彼女がいる男がいたら羨ましいな。


「シュークリームだっけ?」

「そう!でも先にお昼ご飯ね!何食べる?」

「あやちは今なんか食べたい?」

「ん-。あ、焼きそば残ってたよね?」

「あるけど。また焼きそば?」

「ん-ん。そんな1日おきに焼きそばはさすがに飽きちゃうから。そばめし!」

「おー、いいんじゃない?わたし作ろっか?」

「やったー。ちーちゃんの手料理ー。」

「そんな。誰が作っても同じ味になると思うよ?」

「そんなことないもん!ちーちゃんの愛情味がする!」

「そんな隠し味入れた覚えないけどね。」

「なんでもいーの!ちーちゃんのごはん美味しいから!」

「はいはーい。じゃあテキトーに待ってて。」

「はーい。」


料理当番は決まってるわけじゃないけど、お菓子をもらってる以上さすがに全部任せるのは申し訳ないので、うちで食べるときはわたしが作ることが多い。

焼きそばとほとんど味は同じなのに、食感がちょっと違うだけで、なんか違う料理を食べてるみたいになるから便利。

焼きそばが安売りしてたのを勢い余って買いすぎちゃったけど、これで消費できそう。


そして、あやちの定位置はわたしの後ろ。

そこまで広い訳じゃないキッチンの後ろに立たれると、もっと狭く感じるけど、エプロン姿が見たいって言うから仕方ない。

でもあんまりエプロンするの好きじゃないし、仮にしてても後ろからじゃエプロン見にくいし。

ちょっとよく分からないけど、楽しそうだからいっか。


「やっぱりちーちゃんのエプロンの縛り目を後ろから眺めるのはいいものだね!」

「結び目なんて、だれが結んでも同じじゃない?」

「ちがう!ちがうよ! ちがうよ!だめだな、ちーちゃんは!違いが分からない女だよね! 」

「はいはい。わたしはどうせ違いが分かりまs「あー、ごめんー!!!」…………。あやちはいつも元気だよね?」

「そりゃ、毎日のようにちーちゃん成分を摂取してますから!心も体も元気いっぱいだよ!」

「なんてコスパが良い娘なのかしら。ご飯いらないじゃん?」

「あー、ご飯はいるの! ちーちゃんの手作りご飯食べないと死んじゃうー!」

「あー、もう分かったからー!服引っ張らないで!もー、おとなしく向こうで待ってて!」

「はい!」

「返事だけはいいんだから。」


あやちのスキンシップが増えて、テンションも上がって、部屋の中がにぎやかになってる気がする。

でも別に嫌じゃない。

にぎやかなことはいいこと。

このテンションに、わたしもいつの間にか笑顔にされてる。


『「か……かの……じょ……。」』


いつまでも待たせ続けるわけにはいかないけど。

どうしたもんか。

このまま日付だけが止まったまま、時間が過ぎていけばいいのに。


「はい、ホワイトデーのクッキー。」

「めっちゃかわいいじゃん!ありがと、ちーちゃん!」

「あやちは?作ったんでしょ?」

「うん!もちろん! はい、ちーちゃん。ホワイトデーのシュークリーム!」

「え、これ買ってきたんじゃないの?」

「違うよー!せっかくホワイトデーだし、ちーちゃんにあやちの女子力アピールしなきゃだし。頑張ってみました!」

「え、すご。マジで凄いじゃん。」

「おお!ちーちゃんのあやちへの好感度が上がったね?」

「これは好感度じゃなくて、尊敬度が上がったね。」

「うー。嬉しいけど。嬉しいけどー!そうじゃないー!」

「いいじゃん。尊敬も一つの感情表現だよ!きっと……。とにかくありがと。」

「どういたしまして!味見はしてあるから、まずくはないはずだよ?」

「じゃあ早速頂いていい?」

「あー、でも、目の前で食べられるのは緊張しt「いただきまーす。」あああ。あやちのことめっちゃ無視するじゃん。」

「うわ!うーわ!」

「え?」

「めっちゃおいしい!」

「……。ホント?「ホントホント。」良かったー。」

「シュークリームって家で作れるんだね?」

「調べたら、結構簡単に作れたよ?たぶんちーちゃんも作れるよ?」

「いやー、自分で作るのはちょっと……。また作ってね、あやち!」

「ちーちゃんのためならいくr…………。ヤダ!ちーちゃんがあやちと付き合ってくれたら作ってあげる!」

「お、アピールしてくるね?」

「もちろん!時間は有限だからね!」

「これからも、美味しいお菓子もとい、アピール期待してるよ!」

「もー!ちーちゃん、お菓子のことしか頭にないもん!そんな人には作ってあげない! 」

「ええー。ちーちゃんのことも、お菓子の次くらいに好きだよ?」

「お菓子よりも好きになってよー!」

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