第12話 お前も俺から、自分の大切なものを守りきってみせろ

――現在――


 木々の間に徐々に光が差し込み始める。もう、サンたちを囲んでいた夜の闇はすっきり晴れていた。


「やっと来たか。思ったより遅かったな」


例の獣人は、自らの剣を地面に刺して、切り株に腰をかけ、彼らのことを待っていた。


 彼の隣には、スアロが腕を縛られて、座っていた。


 サンは、その獣人の目の前に立ち、彼に対して、こう告げる。


「早かった方だろ。そんなことより、最後までそんなダサい仮面つけて戦う気かよ」

「悪いかよ。俺のポリシーだ。ケチつけるんじゃねえよ」

「いいんだよ、もう。全部わかってるんだ。だからもう下手に隠さなくてもいい」


言葉を紡ぎながら、サンは覚悟を決める。大好きだった彼を、ここで敵と見なす覚悟を。


「なあ、フォンなんだろ。俺は今、あんたと戦わなきゃいけないんだろ?」


目の前の獣人は、それを聞き、ゆっくりと仮面を取った。その鼻にはいつも見慣れていた、大きな傷がついていた。紛れもなく眼前の男は、フォン以外の何者でもなかった。


「よくわかったな。そうだよ。俺がお前の倒すべき最後の敵だ」


 ジリジリと互いを見つめ合う。フォンとサン。木々の間に差し込む陽光が眩しい。


 フォンは、切り株に座ったまま、真っ直ぐにサンを見据えて言った。


「しかしよく、俺だと分かったな。お前と会っていた時と今では、姿をだいぶ変えている。声だけで気づくことはできないと思ったんだが」

「もちろん声はきっかけに過ぎなかったよ。でも、あんたがフォンなんじゃないかって疑った時、ある仮説を立てたら全ての疑問が解決したんだ。正直自分でもとんでもない考えだと思ったんだけど、でも、色々な可能性を考慮しても、こうとしか考えられなかった」

「ほう、どんな考えなんだよ、サン。聞いてやる」

「あんたは、鳥の獣人でもライオンの獣人でもない。幻獣図鑑28ページ、空と陸の王の体を持つ生物、『グリフォン』。あんたはその獣人なんだろ?」


 サンは、フォンの視線を真っ直ぐに見つめ返して、そう言葉を放つ。


 するとフォンは、表情を崩し、にこやかに笑いながら言った。


「なるほど、幻獣図鑑か。勤勉なファルなら持ってそうだな。いかにも。俺はグリフォンの獣人だ。上半身には鷲の因子、下半身には獅子の因子が入っていて、その因子をコントロールすれば、鷲の姿にも獅子の姿にもなれる。やたら力が強いのもグリフォンの特性だ」

「全く、通りで馬の肉が好きなわけだよ。なんでそんなマイナーな肉が好きなんだろうとは思ってたんだ」

「はあ、そんなことまで書いてあるのか、幻獣図鑑は。一度ファルに借りて読んでみれば良かったな」


 あの日々と何も変わらない明るさを見せるフォン。サンは、そんなフォンを見て、拳を握りしめる。


 本当はこんなこと信じたくなかった。嘘だと言って欲しかった。


 しかし、今回の計画の首謀者がフォンだというのなら全てに筋が通る。ファルと旅したこともあるフォンなら、先生のスケジュールをそれとなく聞き出すことも可能だ。また、サンがいないタイミングでフォレスを襲わせたのは、きっとサンの中に眠る力を恐れたからだろう。


 だからこそ、サンは、キリキリと音を立てて何かに締め付けられる胸を抑え、フォンに問う。


「なんでだよ!! なんでだ! フォン! なんであんたが、こんなことをしてるんだよ!! なんで!」

「なんで、か……」

フォンはぼーっと上空を見つめる。そしてサンに視線を戻し、いつもの優しい声を放つ。

「守るためだよ。大好きな奴らを守るためだ」

「そのためには、他のやつらがどうなったっていいのかよ!」

「ああ。俺には全てを犠牲にしても惜しくないくらい、大切な奴らがいる。そのために俺は戦うんだ。だからな、サン――」


 フォンは、切り株から立ち上がり、サンの方にスアロを投げる。人質などいらない。実力で勝負しよう。彼は、そう言いたいのだろう。


 そして彼は、ゆっくりと例のロングソードを構えて、サンに向かって声を放つ。


「お前も俺から、自分の大切なものを守りきってみせろ! いくぞ! サン!」

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