第17話

さて、生徒会の仕事も一段落し、定期テストも無事に終わった心地よい昼休み。

珍しくアクア様は、教室でランチを召し上がっていた。


「どうしましたの?パール様。いつも中庭で召し上がっておりますのに」


1人でランチボックスを開くアクア様に声をかけたのは、クラスの女子生徒、スピネル様だ。

彼女も名のある貴族のご令嬢であるからして、今の言葉は直訳するとこうなる。



『いつもみたいに中庭でイケメン侍らせなくていいわけ?邪魔なんだけど』



「……女性は恐ろしいですね」


アレクのボソッとした呟きは聞こえないフリをさせて頂きます。

だってわたくし、賢いので。


『私』の感性で言うと、貴族の物言いは『京都の人の言い方』と似ている、と言えば伝わるかしら。

……なんだか、色んな人に怒られないか心配な事言っちゃった気がするわ。やっぱり今のナシで。


「実は、この後、生徒会室でジーク様にお勉強を教えてもらう予定なの」


だが、そんな『聞く人が聞けば分かる言い方』なんて、庶民の出であるアクア様には通用しなかったみたい。

ふわりとはにかんで、嬉しそうに言葉を続けた。


「今回の定期テスト、残念だけど、順位が3位だったから……不安だって言ったら、ジーク様がお勉強を教えてくれるって」


「生徒会室は飲食禁止でしょ?だから、早くご飯を食べて集合しようねって約束したの。中庭より、教室の方が生徒会室に近いもの」

と嬉しそうにはにかんで言うアクア様は確かに可愛らしいわ。外見だけなら。

クラスの男子生徒が思わず頬を赤らめてしまうのも、まぁ分かる。


けれど、例のごとく──彼女の発言は配慮に欠けている。


「っあなた──!」

「スピネル様、ご心配には及びませんわ」

「ラピス様……!けどっ!」


可愛らしいお顔をかっ!と赤くさせ、アクア様に突っかかろうとするスピネル様に声をかけ制止する。

アクア様は何故スピネル様が激昂したのか分かっていないらしく、「?」と小首を傾げていた。


……ああ、本当にもったいない!!

淑女教育をきちんと身につければ、とてもとても美しくなる方なのにっ!!

それか、咲く場所が城下の街でしたらそのままで完璧なのよ……場所にそぐわしい装いを身につけてこそが一流だと思うのよ、私!!


心の中で荒ぶる『私』を押さえつけ、扇で優雅に口元を隠す。

秘するが花、ってね。


「あの、私、変なこと言っちゃったかな……?」

「ええ、そうねぇ。……パール様、貴族の嗜みのお勉強は進んでいらっしゃるかしら?」

「え?……ううん、あんまり。だって、ここは学校でしょ?学校でお友達と楽しく過ごすだけなのに、そんなのあんまり必要ないと思って」


あっけらかんと言い放つことが、どれだけ罪なことか──この方は分からないんでしょうね。

ざわりと教室が波立つが、わたくしがすいと片手を上げるとピタリとそれも静まり返る。


さて、この方とこうして顔を合わせるのも、久しぶりね。



カーーーン!


なんてゴングの音が聞こえた気がしたのは、気のせいかしら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る