第30話 許さない

「姿が消えたどういうことだ!?」


 気配とともに忽然と消えたフローラに、セルクは慌ててそばにいた執事の襟首をつかんた。


 先ほどまで確かに隣にいた。


 ロイには魔法で防御結界を張っていた、それなりの上位の魔法でもセルクが検知、防御できるようにしていたはずなのに、魔法が検知されることもなく、いきなり姿が消えたのだ。


「わ、私にもわかりません!」


(私の魔法をすり抜ける事ができるのは……まさか呪具をつかっているということか!?)


 呪具は神話時代の遺跡から出土する神の魔道具ともよばれるものだ。


 黒の塔の魔術師さえその全容は把握できておらず、対抗する手段はまだあまり確率されていない。

 フローラが突然消えたのが呪具によるものならば、フローラに入ったロイの身があぶない。


「くそっ!!!」


 セルクはロイを探知すべく、魔法を展開させるのだった。



★★★



「陛下これはどういう事か説明を求めても?」


 真っ白な空間で、フローラの体のロイとデデル国王は対峙していた。

 ロイの少し離れた場所で、国王デデルが偉そうに玉座のような椅子に座りふんぞりかえっている。


「何、あの七賢者は少し邪魔だったので、席をはずしてもらったのだよ。

 ここは呪具の使用者とその関係者しか入れない場所だ」


 そう言ってデデルは面白そうに黒い光を放つ宝珠のようなものをとりだした。

 

「それより、なぜおまえの父が私のいいなりだったか知りたくはないかフローラ」


 その顔に浮かぶ笑顔の中の瞳はまるでフローラを魔物が捕らえた獲物をもてあそぶ時のような眼で、ロイは身構えた。


「ええ、それはぜひ」


「生まれてすぐ魔力をもちすぎて死にそうだったお前を、我が国に伝わる呪具をつかって助けるのと引き換えに私と【従属の契り】をしたのだよ」


「私が魔力過多病だったと?」


「そうだ、その魔力の多さゆえ母体はすぐ死にお前もすぐ死ぬ運命だった。

 それが故アレスはわが王国に伝わる魔力を吸い取る呪具にすがった」


 その言葉とともに、幼き赤子を抱いたアレスの姿が現れる。


『お願いいたします。陛下。どうか娘の命を』


 映像に移るアレスは小さな赤子を抱いたまま、跪いた。

 アレスに抱かれる赤子はロイから見ても、魔力が暴走していていつ死んでもおかしくない状態だ。


「なかなか滑稽な図だった。

 あの氷の騎士が、私に跪いて、娘の命を救ってくれと懇願したのだよ。

 あの氷の騎士アレスが」


 映像に移るアレスの姿を笑いながらデデルが告げる。


 その言葉とともに、娘を抱きながらデデルに頭を踏まれた状態のアレスの姿が映し出された。


(なるほど。娘の命を救うために、デデルと【従属の契り】を結んだわけか)


【従属の契り】は絶対契約。契約者が願いをかなえている間は従属者は決して逆らう事のできない誓約。

 フローラの魔力を呪具で奪い取っている間は、アレスはデデルを裏切れない。


 何故アレスがこの国に捕らわれ、理不尽な事もすべての飲み込み王国の剣をやっていたのか……その答えはフローラだった。


「……ゲス野郎だなお前」


 相手の弱みに付け込んで、無理やり従属させる。

 ロイがもっとも嫌う事だ。

 部下にしたいのなら誠心誠意接するべきでこんな下種なやり方は許せない。


「まさか、愚息がアレスを殺してしまうとは思わなかった。

 だがわが国にはまだファルバード家は必要だ。何が言いたいかわかるだろう?」


 そう。アレス亡きあと、呪具の魔力を国王が持っている必要などない。

 フローラにあの呪具に眠る魔力かえせばフローラは死ぬ。


「つまり、次は私に従属の契りを結べと?」


「その通りだよ。七賢者と六聖者と人脈のあるお前なら我が国の最高の盾になると思わないか?」


(なるほど、こいつゲスだな)


 だからセルクと引き離し、呪具で契約したものしか入れない空間に呼び出した。

 フローラと従属の契りを結びさえすれば、セルクも国王の言う事を聞くしかないとふんでいるわけか。


「死にたくなかったら【従属の契り】をしたまえ、そうすれば命だけは助けてやろう」



 国王がフローラの魔力で黒い霧をはなつ宝珠のような呪具を掲げて言う。


「さぁ、従いたまえフローラ。君に拒否権などないのだよ。父親同様私の奴隷になると……げふっ!!」


 次の瞬間。

 国王の体は飛んでいた。

 何が起きたのかわからなくて、一瞬白目をむくが、頬の痛みにすぐ理解する。

 フローラに殴られ宙をまっていたのだ。


 フローラは何事もなかったかのように呪具を手に取った。


「き、きさまぁ!! その呪具は王家の秘宝!!

 私がその気になればたとえ手にしてなくても魔力を解放できるのだぞ!!」


「だから何だよ?」


「は?」


「こんな魔力ごときでお前みたいに汚い豚にひれ伏せ。

 冗談じゃない。やるならとっととやれ。魔力を解放してみせろ」


「いいのか!? 死ぬぞ! お前は死ぬんだぞ!?」


「だからどうした? この屑っ!!」


 フローラの放った魔法が国王の脇腹を貫いた。


「がはっ!? 何を!?」


「呪具の関係者しかはいれない【契約の間】にきたのは間違いだったな豚。

 ここは俺とお前しか入れない。

 ここならお前を殺しても誰にもわからない

 せいぜい無様に苦しんで死ね」


「まさか!? し、しぬんだぞ! 私が死ねばお前もだ!」


 顎からけられて再び国王の体が宙に舞う。

 激しい痛みに国王はのたうち回る。


 違うっ!違うっっ!!違うっっっ!!!


 こんなはずではなかった。

 フローラもアレス同様ひれ伏すはずだったのに、なぜ自分は痛めつけられているのだ。

 しかも18歳の小娘に。

 

「お前、アレスに似たような事をしていたんだろう?

 体に魔物にやられたしちゃおかしい傷跡があちこちにあった。

 わざと傷跡が残るように傷つけられたえぐい傷。

 あの時は意味がわからなかったが、やっとわかった。

 従属させた快感に酔いしれるためにわざと傷をつけたんだろう?

 そして魔法で消せなくなるまで痛みに耐えさせて放置させた。

 その傷のあとで自らの所有物だと誇示するために」


 フローラの瞳に冷酷なものがともる。


「アレスにしたのはもちろん許さん。

 だが、フローラにまで同じ事をしようとしていたのなら……ぶっ殺す」


 ぞくり。

 18歳の小娘とは思えない殺気と魔力を放つフローラに国王デデルはがくがくと体が震える。

 絶対的恐怖。ファルバード家の家のものだ。その気になれば国王などすぐに殺せる。


「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁ!!小娘がぁぁぁぁぁぁ」


 国王が叫ぶと同時、術具が発動し、魔力がフローラを襲うのだった。



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