第21話 六聖者

 ざわっ。


 フローラ(ロイ)が招待された王宮の舞踏会で、会場からざわめきがおきた。


 そう無理もない。


 本来婚約者であるフローラをエスコートするはずのデナウ王子が聖女をエスコートしながら会場に現れたからだ。


 ここにいる貴族の何人かはデナウが国王にフローラを大事にしろと注意を受けていた事実を知っている。


 それなのに王宮主催の舞踏会で、デナウは婚約者のフローラを無視して聖女をエスコートするなどという愚行にでたのである。

 

 国王に注意されたのも知らない貴族たちは、王子が聖女をエスコートするさまをほほえましいだの、綺麗、きらびやかだの誉めたたえていたが、王の命令を知っている貴族達からすればこれは間違いなく国王陛下に対する裏切り行為だった。


「王子、国王陛下の命令を……」


 貴族の一人が王子と聖女に耳打ちするようかに言うが、


「うるさいっ!

 聖女エミールの素晴らしさとあの女の浅ましさを見比べれば父上もわかってくれるはずだっ!!」


 と、デナウ反論されて終わってしまう。


 その様子をエミールは満足そうに見ていた。


 会場の誰もが、エミールとデナウはお似合いだ、綺麗だ、素晴らしいと誉めたたえ、

 それでいてフローラは「可哀想に」「仕方ないわよ、何もできないお飾りですから」

 「父親にすら憎まれているのですものね」と陰口をたたかれている。


 もちろんそれらはデナウとエミールが裏で手をまわし、わざとフローラに聞こえるように言わせているのだが。


 七賢者が護衛についたことでフローラは思い上がりを見せるようになった。


 どうせ一人の時は何もできないくせに、エミールとデナウに逆らうようになったのだ。

 いまこうやってあの女の傲慢なプライドをへし折ってやらないと、前みたいに言う事を聞かせる事ができない。


(せっかく不正までして豊穣の聖女になったのに、日陰の存在になるなんて絶対いや。

 フローラを元のなんでも言う事を聞く女にもどさないとっ)


 エミールがちらりとフローラを見ると、今日は七賢者のセルクはつれていないらしく、一人椅子に腰かけワインを傾けていた。


(ほーら、やっぱりセルクがいないと何もできないじゃない)


 エミールは意地の悪い笑みをうかべた。


「可哀想に、誰も声をかけてくださらないなんて」


 舞踏会会場でワインを飲んでいると、遠巻きにしている令嬢の悪口が聞こえてくる。


(ああ、めんどくさい。なんだこの子供のおままごとみたいな嫌がらせは)


 ロイは鼻高々にダンスを踊るデナウ王子と聖女エミールを見てうすら笑いを浮かべる。


(もうちょっと何かマシな嫌がらせをしてくるとおもったが……。この程度か?

 わが国でこんな嫌がらせをしていたら、全員牢にぶちこんでやるのに)


 救いようのない馬鹿だったためもっと何か常人には思いつかないような奇抜な嫌がらせをしてくれるのかと内心心躍らせていたロイにとってデナウとエミールの嫌がらせは想定の範囲内だった。面白くともなんともない。


「あら、フローラ様。誰もお相手がいらっしゃらないのですか?」


 聖女の取り巻きの貴族が面白そうに声をかけてくる。

 ファルバード家の領主になんでこんな事できるんだ?とロイは思うが馬鹿の取り巻きはもっと馬鹿なのだろうと納得することにした。


 そしてそんな声にこたえるように


「お相手がいらっしゃらないという事で、私と踊ってくださいますか。フローラ様」


 と、フローラの後ろから声が聞こえた。

 フローラが振り向くとそこには長い銀髪の美しい男性が立っていた。

 神々しい神官服に身をまとい、胸には聖王国の紋章を身に着けている。

 聖王国の六聖者だけが身に着けられる聖なる勲章。


「なっ!?大神官エルティル様」


 突然の大神官の登場に舞踏会会場からざわめきがおきる。

 そのざわめきをしり目に、フローラは大神官エルティルの手をとった。


「はい。喜んで」


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