第3話 気乗りしないお食事

「サリ様、お食事のお時間です」

離宮にいるときはよかった。シェフは私が食べたいものを何でも作ってくれたし、時間が合うときは使用人も含めて皆で食事を摂っていた。食事のマナーさえ守ればその時だけは侍女長も優しかった。アットホームな貴族のような食事、それが離宮での食事の風景だった。

「サリ、最近はどうだ?」

大きな広間に大きな長いテーブル。その大きさにそぐわない数の椅子3脚とその人数よりはるかに多い豪華な食事の山。

上座に座るのは、国王陛下。その斜め右に、御年18になる王子アレックス。

その向かいが皇女である私の席だ。

「充実しております」

伏し目がちに言う。目を合わせるとウソがばれるからだ。

そんな私の姿を正面からじっと舐めまわすように見つめていた王子がクスッと笑う。

「講師の先生方を困らせてはいけないよ」

伏していた目を手前に座る王子に向ける。ニヤッとあざ笑うような厭らしい表情を一瞬見せた。

「この国を担う一国の皇女なのだから、最低限の教養は身に着けてもらわないとね、意味は分かるよね、これくらいさ」

食器の音がカチャカチャと広間に響く。食べ物を口に運び、クチャクチャと咀嚼音が不快感を生む。

一国を担いその国を背負う王子がこんな初歩的な食事マナーも守れない野郎だってことが一番やばい気がする。

「申し訳ありません」

・・・が、一応平謝りをする。

「まあ、よいではないか」

と、陛下。

「この暮らしが始まってまだ数日だ、気も休まっておらんだろう」

なあ、と、こちらに目を向ける。

「お気遣い痛み入ります、陛下」

重苦しく、楽しくもない。作り立ての豪勢な食事がそんな無意味な会話の下で

ただただ冷め切っていくのを見つめていた。


食事を付き合い程度に数口済ませ、席を立つ。ここに来てから満足に食事が摂れていないが、この空間に耐えられない。

陛下と王子に挨拶を済ませ広間の外へ出ると、しばらくして王子も後を追うように出てきた。

「もし、勉強が難しいなら僕が見てあげてもいいよ、手取り足取り・・・さ」

目線が私の体を上に下に行き来している。気色が悪い。

私はニコッと満面の笑みを浮かべる。

「口元と襟元と両袖にソースがついていますよ、殿下」

王子が口元に気が向いたところで小さくフンと鼻を鳴らして踵を返し、私はその場を後にした。













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