街を救い、副ギルドマスターに推薦される

「皆さん待って下さい! 僕らも手伝います!」

「おお、ありがたい! 無茶な願いを聞いて下さってすみません……もし食い止めるのが成功すれば、出来る限りの報酬はお渡しします!」


 クラウゼンさんの細い目尻にしわが寄る。


「それはいーけど、兄ちゃん、何が出来るのさ。あ、あたしはポポ・フローティス! こっちは双子の妹のレポ!」

「あっちは槍、ねえちゃんは斧使いなんですぅ。二人ともドワーフなんで、よろしくですぅ」


 走りながら左右対称で額に指を当て挨拶する二人。

 ポポは赤髪、レポは青髪の……どちらも肌は浅黒い、丸みのある可愛らしい顔立ちの少女達だ。


 僕らは全員に自己紹介を素早くして、すぐに風魔法の詠唱に入る。


「支援魔法を掛けていきます! 《急加速アクセラレイト》! 《黄風の狩衣ライム・クロス》! 《マナ・ブリーズ》!」


 前の二つはそれぞれ、移動速度上昇の《ヘイスト》と行動速度上昇の《スピードアップ》……風属性攻撃力付与の《エンチャント・ウィンド》と風の防御膜を張る《ウィンド・ウォール》の合成魔法。


 そして《マナ・ブリーズ》は周辺から魔力を吸引して回復させスキルの威力、持続力、回転率を高める。


 すると彼らは全員目を丸くする。


「すっげ―!!!!!! 何だこれ無敵じゃん!?」

「負ける気がしないですぅ!」

「これは……ここまで圧倒的な支援魔法を使えるとはっ! しかも、複数の魔法をここまで同時詠唱できるなど信じられない……」


 皆が称賛しょうさんの声を上げ、リゼリィが誇らしげに笑う。


 ちなみに彼女は自分専用の武器なのか、両腕に鋭い爪付きの籠手こてを装着していた。


 土煙が見え、目の前にアーマードボア達の群れがせまって来るのが見えるが、スピードアップの効果のおかげか、やけにゆっくりに見える。


「リゼリィ……あんまり前に出過ぎないでくれよっ」

「はいっ!」

「私が動きを止めましょう! 皆さんはその後に突っ込んで下され! 《グラビティ・スフィア》!」


 ――ズズズオォン!!


 杖をかかげたクラウゼンさんの一撃。

 空中に浮かんだ黒い球が、アーマードボアを押しつぶした……のはいいが。


「はぁっ!? 足止めだけのつもりだったのになぜここまでっ!?」

「すげー……」


 一気に群れの三割が消滅して地面にクレーターが生成された。

 やったクラウゼンさん当人もあごを外しそうに驚いている。


 そして僕もそれを違和感に感じた……支援魔法の効力が上がっている気がする?


 だけど考えている暇は無い……まだまだ多くの猪が壁のように立ちはだかっているんだ。緊急事態に足を止めた猪共に僕達は特攻してゆく。


「何だこの魔法! メチャクチャな切れ味だっ……どうなってんの!?」

「バターみたいにサクサクですぅ……前戦った時はあっちの槍でも一発では仕留め切れなかったのに」


 重量級の巨大な武器を装備している二人が驚きながらもどんどん敵の数を減らしてゆく。


 そして僕達も……!


「《トルネイド》!」

「《十字爪斬》!」


 生み出された竜巻がボアの体を上空へ吹き飛ばし、リゼリィの爪が細切れにする。


 そして、五分もかからない内に周囲は魔物達の灰で埋まり、僕たち以外に動くものはいなくなった……。

 

「――人が悪いですな! こんな実力をお持ちなのでしたら言っておいてくれればよいのに! 明らかにトップクラスの冒険者でしょう……どこの所属なんです?」

「は、はは……お、おかしいな? 皆さんが強いだけじゃ」

「いやいや……あたしらだけじゃ一日に数匹退治するだけでもやっとだったんだぜ? 明らかにあんたの魔法のおかげだよ」

「Bランク程度のあっちらなのに、まるでSランクになったような気分でしたよぅ」


 興奮したように声を掛けて来るクロウィの街の冒険者達。

 もしかして……この左手首の模様が何か関係してたりして……まさかねぇ。


 口々に言葉を否定されて、僕は首を傾げるばかりだった。

 


「――勇者たちの凱旋がいせんだぁっ!」


 街の入り口に集まった住人たちが、僕達を総出で出迎える。


「クラウゼンさん、あんたあんなすげえ魔法持ってたならもっと早く披露ひろうしてくれよっ! 本当にありがとうよ!」

「ちびっ子たちもすごかった! この街から逃げてった奴らに見せてやりたかったぜ! いつでも店に飯食いに来いよ!」


 困った顔で照れながら、でも嬉しそうに手を振り返す彼らの姿を見て、やっぱり冒険者っていいなって僕は思う。


 そしてクラウゼンさんはとんでもない事を言い放つ。


「これは私達の力ではありません。ここにいる彼、フィルシュ・アルエアの支援魔法の功績が最も大きい! 私は彼をこの街の次代のギルドマスター候補である副マスターに推薦しようと思っています! 皆さんも彼を認めて引き立ててあげて下さい!」

「いいぞいいぞ!!」

「街から逃げ出した奴らよりかよっぽど見込みがあらぁ!!」

「ええっ!?」


 今度は僕がぎょっとして目を開けた。


 いやいやいやまさか平のギルド員が人がいなくなったとはいえいきなり副マスターに任命されるなんて!?


 副マスターは、通例ならばギルド内での幹部の過半数以上の投票と、街の有力者による会議での承認が必要とされる重職なんだ。この街で大した貢献もしていない僕なんかがなっていいような役割では……。


「クラウゼンさん、困ります……か、彼女達もいるじゃないですか!」

「あたし達は別にいいぞ? なー妹」

「あったりまえですぅ! お兄さんたち、この街の皆の恩人ですぅ」


 パチーンとハイタッチしてドワーフの姉妹は意志の統一を確認した。

 この子ら、なんて欲が無いんだ……!


「ええ……? ええ~~~~っ!?」

「フィルシュすごいっ……さすが、私の大好きな人、ですっ!」


 歓声が上がる中、僕は訳も分からず辺りを見回し、リゼリィはすごく嬉しそうに隣から抱き着いて顔を寄せる。


 なんなんだ、おかしいぞ……いきなり僕の人生が凄いスピードで動き始めた!


 大変な事になっちゃったよぉ~~~~っ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る