こんな国、滅べばいい
仲村 嘉高
前編:婚約破棄は王命でした
「ルイーズ・シモン伯爵令嬢!貴女とアルテュール・ド・ベルナール第一王子との婚約を破棄します!これは王命です!」
第一王子の戴冠式の会場に、甲高い
列席者は全て揃っており、後は儀式の始まりを告げるばかり……そんな場で、である。
王と王妃は、儀式を行う祭壇の上に設置された玉座に既に座っている。
王の一段下に、戴冠式用の冠を持った宰相が、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
更に一段下に、当の第一王子と今甲高い声で婚約破棄を宣言した愛らしい女性がいた。
「婚約破棄の理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
列席者の一番前にいた、凛とした姿の令嬢が一歩前に出る。
第一王子の婚約者であるルイーズ・シモン伯爵令嬢だ。
伯爵家の地位で王子の婚約者になれたのは、現伯爵の妻が隣国の王女だからだった。
その為、あまり他の貴族からは良く思われていない。
その証拠に、ルイーズの味方になる貴族は誰一人としていない。皆、ニヤニヤと、それこそざまぁみろとでもいう視線を伯爵家に向けている。
「なぜ、ですって?貴女は私に嫉妬して、有る事無い事を社交界で言いふらしていたでしょう!」
王女がヒステリックに叫ぶ。
「私が王女様に嫉妬する理由が無いのですが」
ルイーズの淡々とした受け答えに、王女は大袈裟なほど嘆いて見せる。
「あぁ、可哀想なアルテュール!貴方はずっと我慢していたのね!」
人形のように動かず、事の成り行きを見ている第一王子ーアルテュールーに、王女はしな垂れかかる。
「もう本当の事を言っても大丈夫よ。あんな女なんて気持ち悪いと!心から愛しているのは私だと!」
王女の爆弾発言に、さすがに会場の雰囲気が変わった。
「そこからは儂が話そう」
王が立ち上がった。
「そこにいるアルテュールは、儂と市井の者との間にできた庶子だったが、他に王子がいなかった為に
そう。アルテュールが5才の時に、いきなり王が「自分の子だ」と連れて来たのだ。
最初は誰もが引き取る事に反対したが、天才と言っていいほど優秀だった為に、そのうち何も言わなくなったのだ。
「しかし、そやつが10才の時に、儂とは何の縁もない事が判明したのだ。アルテュールの母の狂言だったのだ」
王は続ける。
「それでも追い出さず王族として育てたのは、そこにいるマリアンヌがアルテュールをずっと守っておったからだ」
会場からは、さすがマリアンヌ様とか、素敵なお話、など、好意的な声が漏れ聞こえる。
「そうなのです。ずっと一緒に育ち、愛おしく思っておりました。最初は家族として、いつからかひとりの男性として愛してしまったのです」
マリアンヌ王女がアルテュールを見上げる。
「私達は愛し合っております」
見ている女性達から、ため息が漏れる。
羨ましいと。
「でもアルテュールには子供の頃に無理矢理決められた婚約者がいました。それがそこのルイーズ・シモンなのです!」
マリアンヌがルイーズを指差す。
「貴女は、自分が愛されないからと私に嫌がらせをしましたわよね!たかが伯爵令嬢のくせに、母親が隣国の王女だからってやりたい放題。そんな女にアルテュールは相応しくないわ!」
「アルテュールは相応しくない?」
ルイーズが呟く。
「ええ、そうよ。ここにアルテュールと父である陛下のサイン入りの婚約破棄の書類があるわ。さっさとサインしなさい!」
「失礼します」
王家の従者がマリアンヌの手から書類を受け取り簡易サイン台の上に置き、ルイーズの元へ持って来た。
「これは王命で間違いないのですね?」
ルイーズが質問すると、王が鷹揚に頷く。
ルイーズが書類にサインすると、父であるシモン伯爵も寄って来てサインをした。
何かが砕ける小さな音がした。
まるで、がんじがらめになっていた鎖が砕けたような音。
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