第23話


そうしてしばらく平和に過ごしていた頃。屋敷の中が慌ただしくなってきた。


それは、もうすぐカインの誕生日だからだ。カインの誕生日といえば当然俺の誕生日でもあるが、俺にとってはあまり関係のないイベントだ。

どうやら家で盛大なパーティーをするらしく、屋敷が騒然としているのを他人事のように眺めた。



そうこうして関係のない俺は普段通りに過ごしていたわけだが・・・


「テイト!テイトは何か欲しいものある?」


カインが執拗に俺の欲しいものを尋ねてくる。


「ない。」


「そんなぁ。」


そっけなく答えれば、情けない声が返ってきた。


「あ、ちなみに僕はね、テイトの手作りのものが欲しいな。」


カインが一方的に自分の欲しいものを伝えてくる。俺は用意する気などないというのに鬱陶しい。


「俺は存在しないことになってるんだから、プレゼントはいらないし、俺からも期待しないでくれ。」


「そんなの屁理屈だよ・・・少なくとも僕はテイトに用意するからね!」


面倒臭くなってそうあしらえば、カインは少し憤っている様子で部屋を出て行った。


(はぁ、カインが用意して俺が何もあげなかったら俺が悪者になるな・・・何かしら用意しないと・・・)



全くもって面倒くさい。


そう思いつつもカインが欲しいと言っていたのは手作りのものだったか、と思い出す。


「俺に手作りのものって・・・」


一体何なら作れるだろうか。食べ物か、アクセサリーか・・・


「うーん・・・やし、決めた。」


俺はタイをプレゼントすることにした。以前お揃いのタイをザックにやってしまったことにショックを受けていたし、お揃いにしてイニシャルでも刺繍すれば、多少の手作り感は出るだろう。


正直、それですら俺には大変だが。

 

そうと決まれば、俺はさっそく『ジョニーの仕立て屋』へと向かった。

俺を受けていれくれる唯一の仕立て屋でタイを見せてもらい、紺に近い青のタイを二つ購入する。ついでに余っていた金の糸も譲ってもらった。


それからはカインに隠れて刺繍を進めた。知られるとニヤニヤして喜ばれそうで癪だったからだ。


左手と口を使って小さなイニシャルを縫っていく。


大変ではあったが、大した大きさもないそれはあっという間に完成した。それを見て我ながら器用になったものだと感心する。きっとご令嬢たちに比べたら下手くそだろうが、それなりに見られる形にはなったのではないだろうか。


あとは当日に渡すだけだ。媚びているようで嫌だが、俺とお揃いといえば安物でも喜んでくれるだろう。




そして当日、騒がしくなった屋敷の雰囲気に、パーティーが始まったのだとわかる。遠くから聞こえる賑わいとは対照的に、俺はかつての部屋で息を潜めていた。

今過ごしているカインの部屋はパーティー会場から近すぎるので、俺は奥まった場所にある以前の自室に引っ込んでいる。ここならパーティー会場からずいぶん離れているので、間違っても迷い込んでくる人間はいない。


俺がすべきはパーティーが終わった後にカインにプレゼントを渡すということだけだ。


そうして本を読みながらいつ終わるかわからないパーティーからカインが戻ってくるのを待っていると、コンコンと扉をノックする音がした。


(カインか・・・?思ったより早く終わったんだな。)


この部屋を知っている人間は限られている。わざわざノックをするのだから俺がいると知っている人間だ。だからてっきりカインだと思って扉を開けたが・・・



「レイ・・・」


「・・・久しぶり。」


「お前も来てたのか。」


「当然でしょ。カインの親友なんだから。」


扉の外にいたのはレイだった。彼と会うのはカインが怒り出したあの一件以来だ。言葉の端々から以前にも増して棘を感じるが、そういえばあの後カインとレイはどうなったのかを俺は知らない。



「ふぅん。ちゃんと部屋で大人しくしてるんだ。」


レイはこの部屋を見回しながらそんなことを言う。


「ちゃんとって何だよ。」


「ふんっ、カインを僻んでパーティーをぶち壊しに来るんじゃないかって心配だったからさ。」


「・・・・・・そんなことしない。お前も用がないならさっさと戻れ。」


確かに以前の#俺__テイト__#ならやりかねないが、今の俺はそんな不毛なことはしない。・・・そこまでして関心を得たいとも思わないしな。


「どうだか。お前は嫌なやつだからな。・・・お前のせいで僕は未だにカインと仲直りできないんだ。」


「それは別に俺のせいじゃないだろ。」


というかまだ仲直りできなてなかったのか。通りで普段より態度が冷たいわけだ。



「・・・テイトからも言ってよ。」


「何を?」


「・・・僕が謝ってたって。あとこのプレゼントも渡しておいて。」


「そんなの自分でって・・・あ、おい!」


急にしおらしくなったかと思ったら、レイは俺にプレゼントを押しつけて会場へと戻ってしまった。さすがに追いかけていくわけにもいかない俺は渋々そのプレゼントを持って部屋の中へと戻った。

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