第39話 秘密の研究

 塔の裏側、立ち入り禁止地区には、昨日見たままの石棺があった。

 俺は遠くから目礼し、横を通り過ぎる。


 ミアが積んでくれた木材の山は、一括採取ツールですぐに回収できた。

 確かに、あんなに簡単にマメが出来ていた俺が、超スピードで塔を作るなんて想定外だろう。

 そうだな……。いつか、もう少し仲良くなったら、俺がプレイヤーであることは彼女に話してもいいかもしれない。


 木材を集め終わった後は、さらに塔に近いエリアへ移動する。

 賢者の塔が直ったせいで日陰になって見づらいが、明らかに金属の破片のようなものがいくつも落ちている。

 バラバラになっているコレは……ソーラーパネルだ。

 つまり、塔のどこかにエネルギー生産システムとしてソーラーパネルを置き、蓄電機を中層階に置いていたのか。


「なんで……」


 ソーラーパネルを設置するなら、屋上が定石だろう。

 そして、蓄電器はソーラーパネルに併設したほうが効率が上がる。


 だったらソーラーパネルも蓄電器も、どちらも最上階にあったほうがいいはずだ。なぜ蓄電機を中層階に置いたのだろう?

 しかも、図面では倉庫らしき場所が上層階にある。


 もしかしてここ……最初はもっと短い塔だったんじゃないのか?

 倉庫が足りなくなって、後から拡張したとか……。それで、蓄電装置まで移動するのは面倒ということになって、みたいな……。


 俺は塔を見上げた。

 だとしたら、あの設計図は……?


「まあいいか」


 考えても仕方ない。俺は肩をすくめ、ソーラーパネルの残骸を拾おうとした。


「お~いっ!!」


 ふと声がして、手を止め、顔を上げる。

 塔の窓から、ミアが手を振っていた。


「ラグ、できた! ごはんどうする!?」

「おー」


 息を胸いっぱいに吸い込む。


「こっちは、まだソーラーパネルの材料を拾えてない! さきに昼ごはんは食べててくれ!」

「は~い!」


 遠くからでも、ミアの顔が明るいのがわかる。

 プラムとの時間が、やっぱり彼女は好きなのだろう。


 ミアの姿が窓辺からいなくなったのを確認して、俺は再び金属片を拾い始めた。




 ◇◇◇




 ミアがプラムと編んでくれたラグは、どこか不器用ながら、温かみのある仕上がりになっていた。


「一人で?」

「賢者様と」


 だろうと思った。

 ミアはニコニコ顔が止まらない。


「午後からは、棚を作ったりソーラーパネルを直したりの予定だけど……ミア、棚は作れるか?」

「……いや」


 一気に彼女のテンションが下がる。


「……そう落ち込むなよ。ほとんどの人間は棚なんて作ったことないんだ。ミアができなくても普通だって」

「でも、お前はできる」


 じーっとミアを見た。ミアも俺を見ている。


「……もしかして、俺がプラムを『取り上げる』と思ってる?」


 ミアの瞳が、ふわっと大きくなる。

 図星か。


「俺はプラムと友達だけど、ここにずっといる気もないし、ましてプラムを連れてどこかにいこうとも思ってないぞ」

「……」

「プラムからなんて聞いてるかは知らないが、俺は……」

「賢者様の、大切な客人で、仲間……」


 ミアが、むっ、と口を尖らせる。


「確かにそうかもしれないけど、プラムにとってはミアのほうが大事だと思うよ」

「……そう、かな」

「そうでしょ。こんな――」


 賢者の塔をへし折った獣人より、とは、ちょっと言えそうになかった。

 だが、俺の言葉でミアは少し自信を取り戻したのかもしれない。さっきより、少しだけ血色をよくして「そうかな」と微笑んだ。




 ◇◇◇




 その夜、俺はプラムの前で状況報告をしていた。


「塔の外形は一通り修復、棚は――」

「ああ、ああ。ミアからおおよそのことは聞いておる」

「じゃあ、そういう感じで進んでますよってことで」

「さすがに早かったのう?」

「……自動建築機を使った。プラムが、ミアにインベントリのことを言っておいてくれたおかげもある」

「そうじゃろう、そうじゃろう」


 プラムは、まっすぐな胸を大きく張って、ふんと鼻を鳴らす。


「あと残ってるのは、エネルギー生産施設くらいだ。ソーラーパネルと蓄電設備を元に戻さなきゃいけないが、これは完全に『クラフト』でやらせてもらう。それなら、1日あればなんとかなりそうだ」

「好きにせい。ワシは塔の設備が戻ってくれれば、それで万事OKじゃからな」

「それで、ミアのことなんだけど……」

「ん? なんじゃ、何か気に食わんことでもあったか?」

「いや、明日は大工とかじゃなくて……それこそ、魔法みたいな仕事になるから、ミアには別の仕事を割り当ててやってほしい」

「別ぅ?」


 プラムは口を尖らせる。ミアが昼間に見せた表情とそっくりだ。


「ミアはお主の手伝いでもあるが、何よりサボらんように見張らせる意味合いが強いんじゃぞ?」

「ここ数日で分かっただろ? 俺は仕事をサボらない。特に――自分で壊したモノを直すことに関しては」

「責任感が強いのはええんじゃがのう……」


 頬杖をついたプラムは、はぁ、と肩を落とす。


「まあええわい。明日までに、何か考えといてやる」


 さて、とプラムは立ち上がる。


「報告は以上か? ワシはまだ研究の続きがあるから、ラボに戻るぞ」

「……エネルギーがないのに?」

「ちょうど『あとちょっと』のいいトコなんじゃ……今日は寝られんかもしれんのう……あー、お肌に悪い……」

「そういや、研究って何してるんだ? MOD弄り……アイテム研究みたいなこと?」

「うーむ……」


 プラムは首を傾げる。


「まあ、そうと言えばそう、みたいな感じかもしれぬな」

「曖昧だな」

「極秘なんじゃよ、この研究は」

「ルグトニアの王様が噛んでるって」

「そーそー。アヤツに機密漏洩がバレたらマズいんじゃ」


 彼女はやれやれといった顔で首を横に振った。


「じゃが、完成すればお主にとってもメリットがある。その時は、ルグトニア王の次にお前に教えちゃる」

「……楽しみにしておくよ」


 俺の言葉に満足したのか、プラムは「ほれ、明日もチャキチャキ働くために、さっさと寝んか」と、笑顔で俺を追い払った。

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