第15話「大好きです!」

15話「大好きです!」



――ミハエル・オーベルト視点――



「レーア様は傷物なんかじゃありません!レーア様はずっと僕の憧れで……!

女神のように尊い人で……!

だけど、僕はしがない地方の貧乏男爵で……僕と公爵家の令嬢であるレーア様では釣り合いが……」


握った手からレーア様のぬくもりが伝わってくる。


心臓がバクバク言ってる口から心臓が飛び出してしまいそうだ。


「私は身分など気にしません。

私はミハエル様を愛しております。

ミハエル様も私が好き。

愛し合うもの同士が結婚するのは自然の流れではないのですか?

それとも……昨日、私の手を好きといったのは嘘だったのですか?」


レーア様が涙で潤んだ瞳で僕を見る。


どうしよう!


レーア様を泣かせてしまった!


「嘘ではありません!

僕はレーア様が好きです!!

大好きです!!」


はっ……!


言ってしまった!


レーア様の目を見て好きだと言ってしまった……!


恥ずかしいよ!


恥ずかしくて死んじゃうよ……!


手で顔を覆いたいけど、レーア様に両手を握られているから、それもできないよ〜〜!


このときの僕の顔はりんごよりも真っ赤だったと思う。


「では、私との結婚を了承してくださるのですね?」


「はい、喜んで」


好きな人に手を握られて、目の前でにっこりと笑われたら、嫌だなんて言えるはずがない。


「やりましたわ! 

チェイ!

今度こそミハエル様の了承を確実にいただきましたわ!」


「私も聞きましたよお嬢様!

録音もばっちりです!

今度こそ絶対に言い逃れなどさせません!」


レーア様とチェイさんが手を取り合ってはしゃいでいる。


「よかったね、レーアちゃん。

わしもこれでようやく肩の荷が落ろせるよ」


髭を生やしたダンディーな紳士が現れた。


えっ? この人どこから現れたの??


というかどちら様ですか??


「お父様、どうしてこちらに?」


レーア様はダンディーな紳士を『お父様』と呼んだ。


ということは……このお方が剣歯虎サーベルタイガーすら一撃で殺すと噂されているカイテル公爵っっ!!


国王陛下が一目もに二目も三目も置いているという……あの有名なカイテル公爵っっ!!


「レーアちゃんのことが心配だから、見に来ちゃった」


カイテル公爵の口から『来ちゃった』という言葉が出るとは思わなかった。


カイテル公爵、可愛らしく言ったつもりなのでしょうが、全然可愛くないですよ。


「ついて来ないでと言ったのに……」


「レーアちゃん、冷たい」


カイテル公爵が瞳をうるうるさせる。


えっと……カイテル公爵って、こういうキャラなの?


僕が抱いていたイメージとちょっと違うな。


一つだけ分かったのは、カイテル公爵は親ばかだってこと。


しかも子離れできてないタイプの親ばかだ。


「チェイだってついてきているじゃないか」


「チェイは私のメイドなので、ついて来るなとは言えませんわ。

カイテル公爵家の当主であるお父様はべつです。

先触れもなくお父様がいらしたら、オーベルト男爵家の方々は驚いてしまいます。

ミハエル様もきっとご迷惑だと思っておりますわ」


レーア様、僕に話を振らないでください。


「ほう……そうか、オーベルト男爵の迷惑ね」


カイテル公爵が僕を見る。


その目は鷹が獲物を狩るときの目と同じだった。


「オーベルト男爵、いや義理の息子になるのだからミハエルくんと呼ばせてもらおう。

構わないかね?」


「ど、どうぞ……!」


今の僕は蛇に睨まれたカエル、嫌なんて言えるわけがない! 


「ミハエルくんは義理の父になるわしが、突然訪ねてきたら迷惑かね?

わしがここにいるのが邪魔だというのかね?」


カイテル公爵が殺気を含んだ目で僕を見据えた。


「ま、まさか……!

そそそそそそそそそそ、そんなことはありませんよ!

オーベルト男爵家にようこそ……お義父様!」

 

「はぁっ?

誰が『お義父様』だって?」


『お義父様』と呼んだ瞬間、カイテル公爵の目から殺人光線が出た!


振り向くと僕の後ろにあったガゼボの柱が溶けていた!


「すみません!

ようこそおいでくださいました!

カイテル公爵」


僕は慌てて言い直した。


「ほら〜〜、ミハエルくんもこう言ってわしを歓迎してくれてるじゃないか〜〜」


カイテル公爵は眉間に寄ったしわを瞬時に消して、ニコニコ笑顔でレーア様の方を向いた。


この人、変わり身が早いな。


「大勢で押しかけてすみませんね〜〜。オーベルト男爵〜〜」


カイテル公爵の後ろから、品のいいご婦人が現れた。


この方もどこから現れたんだろう??


すごく綺麗な人だな、どことなくレーア様に似てる。


「お母様まで、いらしていたの?」


「だって〜、パパが暴走しないかママ心配で〜〜」


美しいご婦人はカイテル公爵夫人だった。


「私もミハエルくんて呼んでもいいかしら?」 


「どうぞ」


「ミハエルくん、ごめんなさい。

主人が迷惑をかけてしまって〜。

怖くなかったかしら〜?」


「大丈夫です」


おっとりしているように見えて、結構な力持ちさんなんだな。


「ほら、あなたも謝って〜」


「ママ、わしは悪くないよ!」


カイテル公爵夫人は、カイテル公爵の首根っこを掴み、無理やり頭を下げさせた。


「ごめんなさいね〜。

主人はまだ子離れが出来ていないのよ〜。

特に娘のレーアのことは目の中に入れても痛くないくらい可愛いがっているから、時々暴走しちゃって〜」


「はぁ……」


「私のことはお義母様って呼んでね」


「はい、お義母様」


「わしのことは絶対に『お義父様』とは呼ばないように!」


カイテル公爵に睨まれた。


「もうあなたったら〜、ミハエルくんが萎縮しちゃうじゃない〜」


お義母様がカイテル公爵の耳を引っ張った。


「いたたたた!

痛いよママ!」


なんとなくカイテル公爵家の力関係がわかったような気がする。 



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