第8話【できれば下着の洗濯は自分でしてほしい......】
セレンさんとの共同生活が始まって五日後の朝。
俺は学校に向かう前にベランダで洗濯物を干していた。
男一人の今までの生活であれば数日に一回で済んでいたこの作業も、同居人、それも異性がいるとなるとそうはいかなくなる。
セレンさんの洗濯物を手に取るとどういうわけかちょっと緊張し、気持ち丁寧さ三割増しで干す自分がいる。
中でも下着類の時は困った。
いくら息子と母の繋がりとはいえ、俺とセレンさんは血の繋がりの無い異性・異種族同士。
触れてはいけない禁断の果実に手を出してしまった背徳感が俺を襲う。
継母というリミッターがなければ理性がえらいことになってしまいそうだ。
玄関前。
洗濯物を全て干し終え、そろそろ学校に向かおうと通学用の自転車の前かごにカバンを放り込むと、後ろの玄関ドアがガチャリと開いた。
「――おは~よ~ございますぅ~」
普段の凛として清楚で慈しみのオーラ漂うセレンさんと同一人物かと疑う彼女がそこに。
髪はぼさぼさで猫背、まだ眠たそうな目をこすり朝陽の下へ現れた。
「おはよう。リビングのテーブルの上に朝食準備してあるよ」
「申し訳ございません~。私~、晴人さんのお母さんなのにこのような体たらくでぇ......」
「気にしないで。朝弱いんじゃ仕方が無いし、無理しなくてもいいよ」
唸り声を
この通り、彼女は低血圧で朝がとても弱い体質だった。
なので俺が学校で家を出る時間に起きてきたことは今回が初めてのこと。
「......
チラと横目に俺が乗っている自転車に視線を移動させるセレンさん。
そういえば自転車で通学してるの言ってなかったな。
「うん。電車使うにしても微妙な距離だからね」
家と学校の距離は自転車で約二十分。
電車もほとんど変わらないので、トラブルや遅延の多い満員電車で毎朝不愉快にさせられるのであれば、自転車の方が時間に正確でストレスフリーだ。
自然の影響はもろに受けてしまう欠点を除けば。
「......あの、もしよろしければ少々、私をその後ろの荷台に乗せていただいてもよろしいでしょうか?」
「? ......別にいいけど」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします......」
時間もまだ余裕はあるので、俺はセレンさんの要望に応え許可した。
彼女は荷台にまたがらず、横から自身の太ももの上にちょこんと手をおく形で腰を下ろした。
俗に言う『恋人座り』というやつだ。
「座り心地は予想通り厳しいですね......でも......」
セレンさんは突然俺の腰に手を回し抱きついた。
「......やっぱり......このシチュエーションが恋愛漫画で古来より愛されている理由が何となくわかりました。合法的に好きな殿方に抱きつくことができる......これを発見された方はかなりの策士かと」
間近で見る長い耳はより一層神秘さを漂わせ、触ってみたい衝動に駆られてしまう。
「――すいません! 学校遅刻してしまいますね......」
ふと我に返りセレンさんは荷台を降りた。
「あ、いや......」
「それでは、お気をつけていってらっしゃいませ」
「うん.........行ってきます」
久しぶりに家族に見送られて、俺は家を後にした。
腰の辺りにはセレンさんの柔らかい部分のぬくもりがまだ残っており、自転車のペダルも漕ぎにくかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます