エルフ継母とクーデレ腐れ縁同級生がなぜか俺にかまってくる。

せんと

プロローグ

 自宅のリビング。

 カウンターキッチンからトントントンとリズムの良い包丁の音が、綺麗な鼻歌と交じりあって聴こえてくる。

 料理中のはずなのに、その様子はまるでちょっとしたアーティスト。ここはコンサート会場か。

 ASMR効果抜群で聴いていて癒される。


「.....どうしたのですか? 私の顔に何か付いていますでしょうか?」


 彼女、セレンさんと目が合って、俺は恥ずかしくて思わず目を逸らしてしまった。


「いや、別に......」

「フフ、変な晴人はるとさん。もうすぐ夕飯できますから、テーブルの上の片づけをお願いしますね」

「あぁ......うん」


 そう言ってセレンさんは俺に微笑み、再び視線をまな板に向けて作業を再開する。

 見惚れていたなんてい言えるわけがない。

 さらさらとして艶やかな金色の髪に同色の優しさを帯びた瞳に遠慮がちな鼻立ち。

 ぴんと尖った耳は彼女が『エルフ』であることを証明している。


「今日のメニューは晴人さんが大好きな肉じゃがです。味も晴人さん好みにしてありますので楽しみにしていてください」

「わざわざ俺の味の好みに合わせなくていいのに」

「何をおっしゃいますか。食事とは食べる方に元気と笑顔を与える、生物が生きて行く上で大事な行為です。そして晴人さんは私の子供です。親が子を優しくするのは当たり前ではありませんか」


 子供。

 はい、そうです。俺は書類上エルフさんの子供ということになっている。

 もちろん血の繋がりはなく、彼女は俺にとって継母けいぼという存在。

 

「だったらさっき鍋に入れてたニンジンは何かな?」

「――気のせいではないでしょうか?」


 わかりやすい間をどうもありがとう。

 彼女は俺が大嫌いなニンジンを鍋に投入していたことがバレてしまい、視線を彷徨さまよわせる。


「それにこの国には『獅子は我が子を先人の谷へ突き落とす』ということわざがあるではないですか。いつまでも好き嫌いして食べないのは教育上良くないと思います」


 子供への優しさどこ消えた?

 に来てまだ三ヶ月足らずだというのに、もうそんなことわざを知っているのか......恐るべきエルフの探求心。というより、職業的なものかもしれないな。


「だったら俺も今度夕飯当番の時に、エルフさんの苦手なもずく出すね」

「う.........それだけはご勘弁を」


 ニンジンのお返しにエルフさんの嫌いな食べ物でからかうと、彼女は瞳を潤めて懇願した。

 酸っぱい物、特にもずくが大の苦手なようで。

 初めて口にした時は苦い顔で涙を流しながら律儀にも完食していたのが衝撃的だった。

『出されたものは残さず全部食べる』のが彼女の食事に対する信条らしい。

 

「あんな酸っぱくて細切りのスライムみたいな食べ物......二度と堪忍かんにんできる自信がありません」

「だったら人にやられたら嫌なことはしない。いい?」

「はい.........申し訳ございませんでした」


 しょぼんとした表情で素直にぺこりと謝罪するセレンさん。


「でもまぁ、入れちゃったものは仕方ないから。今回だけはセレンさんの優しさに免じて食べてあげる」

「晴人さん.........ありがとうございます」


 セレンさんの沈んだ表情がみるみるうちに晴れ、声にも明るさが戻った。

 実のところ、本当は俺はそこまでニンジンが大嫌いというわけではない。

 成り行きでセレンさんにそう思われてしまったのだが......面白いからその設定を貫くことにした。

 今みたいにセレンさんをからかう絶好のエサにもなるので。


「こっちは片づけ終わったけど、そろそろご飯よそおうか?」

「はい。よろしくお願いします」


 俺はカーペットの上から立ち上がり、セレンさんのいるカウターキッチンの元へ。

 食欲をそそる肉じゃがの醤油ベースの匂いがずっと俺の鼻腔を刺激し、そろそろ空腹が限界値を迎えそう。


 ほんの少し前までは全く想像できなかった、年上の異性、しかもエルフとの共同生活。

 最初はまともに包丁すら握れなかったセレンさんが、この三ヶ月間で和食をほぼマスターし、今では細かな味の調整もできるほどに成長。

 それでいて仕事の方も順調にこなしているのだから......全く、この人の純粋さと真面目さには本当に頭が下がる。



          ◇


 カクヨムさんのラブコメでは最近NTRやざまぁ、悪役令嬢にヤンデレ等が流行していますが、作者は基本的にそんなの気にせず自由に執筆しております。


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