第21話 (勇者視点)剣聖に負けて防具までボロボロになる

「へっ……命乞いするなら今のうちだぜ、剣聖フレイア様よ」


 ロベルトは剣を構え、舐めたような視線を送る。


「その台詞、そっくりそのままお返しします」


 二人は剣を構え、向き合うのであった。二人共、手にした武器は十全な力を発揮していない。武器の条件としては五分五分だろう。武器の条件が五分五分なのだから、最終的に勝敗を分けるのが何なのか、言うまでもない事であった。


 ――それは無論、使い手の技量である。


「いくぜぇ! おらあああああああああああああああああああああああああ!」


 ロベルトはフレイアに先制攻撃を仕掛けた。


 キィン! 甲高い音が響いた。


 平然とした様子で、その剣はフレイアの剣によって、受け止められたのだ。


「ぐっ……」


「大雑把な剣です……至極読みやすい」


「ふ、ふざけんなっ! 調子乗ってるんじゃねぇ!」


 フレイアに煽られたロベルトは一層の事、剣を振るう手に力を入れるのであった。しかし、その力任せの剣は悉く、フレイアによって防がれてしまう。


(な、なんでだ……なんで! どうしてこの俺様の剣がこのフレイアには通用しねぇ!)


 ロベルトは嘆いた。だが、それも当然の事であった。なぜならロベルトはロキが作った聖剣エクスカリバーの余りに有り余る性能に甘え切っていたからである。


 その剣があるというだけで勝ててしまう。その為ロベルトは自身の剣を磨く必要など微塵もなかったのである。


 その甘えた環境から剣の腕など上がるはずもない。普通の相手ならばそのメッキで出来た剣でも通用しうるだろう。


 しかし、相手は剣聖とまで呼ばれたフレイヤである。本物の剣の使い手である。そのようなメッキで出来た剣が通用するはずもない。


「く、くそっ!」


 ロベルトが繰り出す剣は悉くフレイヤに叩き落されるのであった。聖剣エクスカリバーに本来の力があればそれでも互角以上に闘えたかもしれないが、それを悔やんでもどうしようもない事ではあった。


「こ、こんなはずじゃ……この剣が、聖剣エクスカリバーが錆びてさえいなけりゃこんな事には……俺様が絶対に勝てるはずなのに……」


 しかしそれでもロベルトは自己保身の為言い訳せざるを得なかったのだ。


「何を嘆いているのですか。その聖剣も誰が作ったと思っているのですか……」


 フレイヤは呆れて物も言えないと、言った様子であった。


「終わりにしましょう。今負けを認めるなら怪我をさせずに済ませてあげます」


 フレイヤはロベルトを冷たい眼光で睨みつける。


「ふ、ふざけんな! 俺様が負けるわけねぇだろっ!」


「では、少し痛い目を見て貰います」


 受けに回っていたフレイヤが反撃に打って出た。剣が走る。その剣はあまりにも早く、ロベルトが受けるのは困難であった。


「ぐわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 ロベルトが斬り裂かれる。普通なら致命傷ともいえるような攻撃であった。だが、ロベルトが身に着けている防具は超希少金属である『ヒヒイロカネ』で作られた伝説級の防具だったのだ。


 故にフレイアの剣を以ってしても、致命傷には至らなかったのである。そしてついにはフレイヤの剣がボロボロになり、その寿命を終えようとしていた。すぐにでも折れてしまっても不思議ではない。


「ちっ……防具が一級品なだけの事はあります。ですが幸い、あなたを殺さないで済みました。まだ必要な事を話して貰う必要があります」


 フレイヤは剣先をロベルトの首筋に突きつけた。


「な、なんだよ……。何を話すんだよ」


「私が勝ったら本当の事を話して貰う約束でしょう。ロキ様は今どこにいるのです? あなたはロキ様に何をしたのです?」


「そ、それはよぉ……その」


「正直に言いなさい……確かにあなたを殺すまではできませんが、死なない程度に痛めつける事くらい造作もないのですよ」


 剣が僅かにめり込む。それだけで首から血が滴ってきた。本気だ。


 ロベルトは悩んだ。だが、必要以上に痛みを感じるのをロベルトは忌避した。仕方なく、ロベルトは本当の事を告げる事にした。


「ロキは今……SS級の危険ダンジョン『ハーデス』にいる」


「なっ!? な、なぜ鍛冶師であるロキ様がそんな危険なところに一人でいるのですか」


「そ、それは……その……」


「あなたの差し金ですか?」


「……ち、違う。あ、あいつが一人で行ったんだ。必要な素材があるとかで」


 この期に及んでロベルトは嘘を吐くのであった。いくら何でも外道者(アウトロー)達の裏で糸を引いていたという事実を馬鹿正直に話すと、いくら何でも評価が地の底に落ちてしまう。今でも落ちかけているが……。


「なぜ止めなかったのです? 仮にも仲間でしょう!? 支援職であったロキ様が単身でそんな危険な所に行ったらどうなるか、まさか想像できなかったわけではないでしょう!?」


「そうよ! それに、だったとしたのならなんで今まで嘘を吐いて黙っていたのよ!」

 

 セリカは責める。


「これはパーティーメンバーに対する重大な裏切り行為。どうして嘘を吐いて誤魔化したのよ! 本当はロベルトがロキに一人で行くように仕向けたんじゃないの!」


 ルナリアもロベルトを糾弾した。そしてその内容は図星であった。


「ぐっ……!」


「もういいです。ロキ様がその地下迷宮(ダンジョン)にいるのは間違いないなさそうですから。そこに向かうまでです」


(へっ……馬鹿が、ロキの野郎はとっくに死んじまってるぜ。あんな危険な地下迷宮(ダンジョン)であの雑魚が一人きりで生き残れるわけがねぇだろうが)


 ロベルトはほくそ笑む。こうして新たにパーティーを加入したフレイアは離脱していった。


 しかし、残った二人との関係も既に壊れかけていた。パーティーが散り散りになるのも、もう時間の問題なようだ。


 残る二人のロベルトに対する信用は既に地の底まで落ちかけていたのだ。

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