第93話 完全なデジャブ


「まぁ茶番はそこまでにしましょう」


 やれやれと手の平を上に向けると、ハァとため息を吐く氷見谷。


「どこが茶番だよ」


「今のやり取り全部よ」


「なら最初からめんどくさい事やめろよ、前もそうだけど」


「前も言ったけど、私がこのくらいのことで勘違いするとでも?」


「しないなら最初からダルい事するなって言ってんの俺は」


「今回に関してはリアクションは20点と言った所ね。でも心葉の喘ぎは一万点だわ。立川くんテクニシャンなのかしら」


「変な方向に話を進めるな!」


「あれはただ手が当たっただけだから!」


 俺達は氷見谷を同時に怒鳴る。

 どうして事を小さく収められないのか氷見谷は。そんなに俺の反応を見て楽しみたいのか?


 特に面白い要素もないのに?

 あと、リアクションと千葉の喘ぎ声に点数をつけるな。


「でも、私のおかげで助かったでしょ?」


 組んだ腕に豊満な胸をどっさりと乗せながら言う。


「………否定できないな」


 氷見谷があの場に来なかったら、今頃ロッカーに居ることが見つかって大惨事になっていたことだろう。

 多分、『立川と千葉がロッカーでヤッてた』みたいな噂が流れる。

 そうならなかったのは、氷見谷のおかげだ。


「首を垂れて詫びよ」


「何故そこまで上から目線」


「一回言ってみたかったセリフなの」


「話してる時に遊ぶなよ」


「硬いわね。そんなんじゃモテないわよ」


「普段のお前よりは硬くねーよ。あと………モテは関係ないだろ」


 モテるモテないの話は今してない。モテない俺の傷をえぐるな。


「てか、早く授業行った方がいいんじゃない?」


 時計を見ながら、青ざめる千葉。


「まだ時間あるんじゃないか?」


 と、俺は時計を見るが、


「全然ないわね」


 氷見谷はさりげなく廊下に出ながら言った。


「早く行くしかねーじゃん」


「でも3人で一緒に行ったらそれこそ怪しまれるわよ?」


「なら千葉は仮病使ってるんだし、少しくらい授業遅れてもなんも言われないだろうから最後に行け」


「なんで私が最後なわけ!?」


「仮病使ってきたんだからそんくらいはしろよ」


「心葉、私からの頼むわ」


「……………羽彩が言うなら分かった」


 少し駄々をこねたが承諾した。

 なんで俺の時は嫌って言ったわけ?誰が言っても変らないだろ。


「じゃ俺先行くからな」


 廊下を駆け足で去ろうとすると、


「立川待って!」


 千葉に止められた。


「んだよ、まだ文句を言うのか?」


 呆れた表情をする俺に、


「違うわよ!」


「ならなんだ」


「私もあんたも担任に提出してなくない?」


「………………だな」


 顔を見合わせると、俺達は冷や汗が止まらなくなるのだった。




 結局、授業終わりの放課後に提出しに行ったら、担任に少し怒られる俺たちであった。

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