第86話 記憶力魚かよ!
「あの~、目の前でヤる前兆みたいなこと始めないでもらっていいかな?」
やられたことある人なら分かると思うけど、結構気まずいのよこの状況。
まぁ、こんな状況にある人なんてこの世に存在しないだろうが。
「それもそうね。私も理性を保たなければ」
お茶を飲むと一度ため息を吐き、冷静になる氷見谷。
「いや、お前はとっくに理性なんてないだろ」
「あるわよ」
「どこが」
「もし、私に理性が備わってないなら、今すぐにでも心葉をいただくわよ」
「おい言い方やめろ」
「それをしてないってことは、理性があるって事でしょ?」
「いやまぁそうなんだけどさ」
所々で理性がないんだよなお前。
「そうゆう事で、心葉、今日はご飯もエッチもお預けよ」
と、氷見谷は千葉の頭を撫でる。
すると、千葉はしょんぼりとした顔を浮かべながら、
「……………今日は我慢するわ」
「聞き分けがいい子は私、好きよ」
「今度出来るって約束があるからね」
「心葉が元気にあったらいくらでもしてあげるから」
「絶対だからね」
「えぇ、絶対。でもその時は…………………」
氷見谷は千葉の耳元に顔を近づけ、
「容赦しないからね」
囁くと、千葉の耳をハムっと咥えた。
「―――ひゃう」
「おい」
「もっと可愛い声聞かせてよ」
「……………んっ―――っちょっと――」
「お前らよー」
「心葉、脱いで」
「……………うん」
「やらないって言った途端から始めてんじゃねーよ!」
部屋の中に俺の絶叫がこだました。
こいつら…………もしかして自分が言ってた事この一瞬で忘れた?
なに、ニワトリなの?それかそれ以下の記憶力しかないの?
「ちょっと、どうしたのよ」
「もしかして気でも狂った?」
大声を出したことに驚いたか、千葉と氷見谷が俺を凝視してくる。
「どうしたもこうしたもねーだろ!お前ら記憶力魚かよ!」
「魚?どこがよ」
「どうみたら私達が魚なのよ。本当に頭がおかしくなったのかしら」
「少しは黙れないのかお前ら!千葉は病人なんだからベッドで寝とけ!氷見谷は用が終わったなら帰れよ!」
「安静にしてるわよ、ちゃんとベッドの上にいるじゃない」
「私はもうすぐ帰るけど、だったらあなたも帰ればいいんじゃないの?」
「うっせ~な俺はもう帰るよ!」
ムカついた俺はバッグを持ち、部屋を出ると扉を勢いよく閉める。
せっかくの休日に善意で看病してやったのに、最終的この結果かよ。来て損した。
チッと舌打ちをする俺の背後、千葉の部屋からは2人の喘ぎ声が絶え間なく聞こえてくるのだった。
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