第28話 氷見谷のおかげ
「なんで立川くんが泣いてるのよ」
泣いている俺に気付いたか、氷見谷は驚いた表情を見せる。
「………流石に辛すぎるだろ………あんなの」
「だからって、立川くんが泣くことじゃ――――」
「これは同情の涙なんかじゃない!助けられなかった悔しさの涙だ!無能な自分に嫌気がさす…………三ヶ月なんか接点すらなかったけど、それでもどこかあいつの変化に気付いて声でもかけてあげればよかった…………そうしたら…………助けられたのかもしれない………千葉がトラウマなんか植えられなかったのかもしれない……………何もできなかった自分が悔しいよ本当に…………」
「優しいのね、立川くん」
氷見谷はそっと俺の頭を撫でる。
「やめてくれ、恥ずかしい」
「立川くんは悪くない。悪いのは全部あのクソ親よ」
「だけど………」
「心葉も嬉しいと思うわよ?自分の為にこんなに泣いている人がこんな身近にいたなんて」
「あいつなら余計なお世話とか言いそうだけどな」
「流石にツンデレないわよ、この状況だったら。多分、嬉しくて泣くわよ?」
「本当か?」
「心葉、ああ見えて弱い子なのよ?強がってるけどよく泣くし、可愛いんだから」
フフフと含み笑いをする。
「でも、本当にあいつが元気ならよかったよ」
「私のおかげかしらね」
「そうだと思うぞ」
あんな辛い状況から立ち直れたのは、氷見谷の力が大きいのは確かだ。
寄り添って、抱きしめて、落ち着かせる。
それだけの事を氷見谷は出来るだろう。」
「てか、そろそろ頭撫でるのやめてくれないか?
「私の豊満な胸にそのまま飛び込んでくれてもいいのよ?」
「やめておく。千葉にも嫉妬されそうだしな」
頭から氷見谷の手を下ろすと、コーヒーをゆっくりと飲む。
千葉の過去、それに対しての氷見谷の努力。
短時間で色々な事が分かった。
「あ、この事心葉には立川くんがいないときに、話しておいたって言っておくわ」
「分かった」
「ついでに泣いていたことも言おうかしら」
「絶対にやめてくれよ」
「――――気分次第かしらね」
「信用できんな、その笑みは」
ジト目で氷見谷を見る。
俺は氷見谷に信用されているのに、俺は氷見谷をあまり信用していない。まぁ信用できないわけでもないのだが。
「それなら―――」
ここで思い出した事を聞く。
「この際聞いておくが、お前たちがエロい事をする関係になったのは結局いつなんだ?出会いはあんなだったし」
「あー、それはその日の夜だったわね。ひとまず私の家に泊まった時に流れでね//」
「初めて致したカップルみたいな言い方をするな」
千葉との初夜を思い出したか、下半身に手を伸ばして体をビクつかせる氷見谷だった。
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