第101話 ピクルスの断面。
世間一般では『脅迫』と呼べる類の交渉をした私は、にっこり笑ってヒナに告げる。
「来るってさ」
「え、ぇあっ、おおおお姉、私いま変じゃないかなっ!?」
「大丈夫。ヒナはいつだって可愛いよ」
突然の想い人襲来イベントに、あわあわしてる妹が超可愛い。
大丈夫、ヒナの為なら私は何回でも奴を脅迫して見せよう。
ぬいぐるみを見に行った時、私は奴の妹さん、ユイちゃん八歳と端末の連絡先を交換してる。
そして、最近は多少の好感度減少があったとて、あの子はお兄ちゃんが大好きなのだ。新しいCDラックを買って楽しそうに改造してる姿なんか見付けたら、しばらくじーっと良い子に見てるのだ。
例えその楽しそうな理由が、新しいCDラックに仕込むセンシティブ本の秘匿性について馳せた想いだったとしても、八歳のユイちゃんには関係が無い。
お兄ちゃんが楽しそうにしてたのぉー☆ って私に教えてくれたなら、あとはこっちで情報を繋げられるからな。
あいつ、色々とCD買い込む趣味があってCDラックも色々とお金掛けてたりするけど、前見た時に買い換えるほど悪い品だとは思えなかったし、新しい物を買うほどギッチリ詰まってた訳でも無い。
そんな状態でCDラック新しいの買って改造までしてたなら、奴の性格なんかを加味して答えは一つ。
センシティブ本の隠し場所、それしかない。
「キズナァァァッッ!」
「お、来たわ」
「あわあわあわわわ………」
ロアの噴水方面からダッシュで叫んでる不審者を発見。初心者の街で騒ぐなよ、迷惑だろ?
…………リスキル騒ぎ? なんの事? キズナわかんなぁーい☆
「まだ爆弾は投下してないだろうなぁっ!?」
「ふ、ごめんな。私の手は今、ライカの毛並みを触るの忙しいんだ。不潔な情報に滑らせる暇なんてない」
「…………良かった。またギルメンに弄られるところだった」
「え待ってなにそれ楽しそう。ごめん今からやっぱ手が滑るわ」
「まってぇぇえええええっっ!?」
ライカに乗ったままエルフもどき(別種の姿)をおちょくってストレスを吐き出した私は、この世界でのヒイナ、ヒナちゃんを紹介する。
「ほれポイポイ。私のヒナちゃんだよ」
「ぇぅ、あ、えっと、あの先輩、ぅぅ、雛兎です……」
真っ赤になって照れてるヒナちゃん超可愛い。こんなん、突発性難聴持ちのラノベ主人公でも恋心に気づいちゃうじゃんね?
おいポイポイ、お前さっさとエルフ諦めてウチのヒナちゃん娶れや。
「ああヒナちゃん、よろしくね。俺はエルオンだとエルフっぽいどって名前なんだ。基本はみんなにぽいどって呼ばれてる」
「ポイポイでもいいゾ。ルッポイでもいい」
「ぁの、じゃぁ、エル先輩って、呼んでもいいですか………?」
「おおお、良いなそれ、ちょっと新鮮」
アレよな、乙女ってのはいつも、自分だけが呼んでる特別なあだ名とか、自分だけが呼んでもらえる特別なあだ名とか、そう言うの大好きだよね。
まぁいいや。私よりポイポイの方がゲームに詳しいだろうし。あとはお若い二人に任せて、マジョリカさんは退室しましょうかねぇ……、ふぇーふぇっふぇ。
「あ、そうだポイポイ、頼みがある」
「あ? ヒナちゃんの事なら任されたぞ?」
「いや、それとは別口」
私はライカの上にヒイロとヒナを残したまま、上から飛び降りてシュタッと着地した。うーん、美しい着地。十点だな。
「四十六回私を殺せ」
「囚人服着てるから何かと思ったが、何したんだ?」
「引退させたい奴に粘着宣言してリスキル祭り」
「おまっ、軽くネトゲのタブーやらかしてんじゃねぇよ!」
「だって私のヒイロを奪おうとしたんだよ?」
「あっ…………(察し)」
幼女姿で両手を腰に当ててプンプン怒る。おこだぞー!
「ま、まぁ分かった。四十六回だな?」
「そ。早く私をシャバに出してくれ」
「了解、面倒だから噴水いくぞ」
「おけーい。……はぁ、早くシャバに出てぇなぁ。なぁ兄弟?」
「そうだなブラザー。さっさとシャバに出て、チーズバーガーでもたらふく食べようぜぇ! なぁブラザー?」
「おっと兄弟、そんときゃピクルスは抜いてくれよ? あれの断面は、ムショに居た看守の顔にソックリなんだっ!」
「「HAHAHAHA! いぇーい! へぇーい!」」
ノリがバッチリあってバチーンバチーンとハイタッチする私とポイポイ。
うん、こういう事してるから付き合ってるって勘違いされるんだろうなぁ。
「切腹!(私)」
「介錯!(ポイ)」
「ギアッ--(私)」
そして移動した先で私は、四十六回切腹し、四十六回介錯された。
………………クソ痛てぇ。
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