第54話 クエスト進行。
呼びかけ、瞳が揺れて、しかしぶん殴られる。
私はワイルドハントの攻撃に晒されて吹っ飛ぶ。余裕の不屈発動ですよ全く。低レベルプレイヤーにフルレイドボスの相手は辛いぜ。
「ねぇシリーハント姫、シリーちゃん? シリー殿下が良いのかな。なんて呼べばいいか分からないや」
後続のプレイヤーにマジックショットに乗せたカウンターバーストをばら蒔いて妨害しつつ、私は姫様に声をかける。
「ホントはもっと色々、やらないとダメなんだろうね。もしかしたらシリーちゃんを元に戻せる方法もあるのかも。なのに、こんな中途半端な攻略でごめんね? たぶんこれが私の限界なんだ。私ってぶっちゃけゲーム初心者だからさ」
ワイルドハントの、シリーハントの体が稲妻を纏う。ヤバいこれポイポイが言ってた食いしばり貫通の奴だ! 雷の涙の『雷』ってこれの事かぁっ!?
「うぉぉおおおおおおっ!?」
無様でもなんでも構わない。絶対に当たれない必殺からヘッドスライディングで緊急回避。姫様おっかねぇー!
「ねぇ姫様聞いてよ! あなたはペリアさんって覚えてる? あなたの爪の模様が好きだった牛のおじいちゃんは? みんな、あなたの事を待ってるよ」
あと少し。乱戦レイドのエリアまでもうちょっと。
「私はあなたをお姫様に戻してあげられない。だけど代わりに、たった二つだけ、あなたにしてあげられる事があるんだよ」
食らう攻撃がクソ痛い。食いしばり無効が怖すぎて神経がすり減ってく。
「ほんと、中途半端でごめんね? でも、まずは一つ、受け取って」
レイドエリア突入。
ヒイロはここに最後のフラグが有るって言った。ただ乱闘するためのエリアにそれっぽいイベントフラグがあるとは思えない。
でもヒイロが言ったなら確実にある。イベントフラグ用のNPCもなく、それっぽいアイテムも落ちてないなら……。
「全召喚! モンスターも国民もみんな出てこーい!」
私がフラグを持ってるんだ。
レイドエリア限定のシステム。移住させたモンスターとビーストキングダムの国民を戦闘に参加させられるこのシステム。
つまり、これは国民を街の外に連れ出せるシステムであり、ワイルドハントになってしまったシリーハントと国民を、ただ唯一再会させてあげられるシステム!
「ペリアさんと名前も知らないおじいちゃんと、姫様のことあんまり知らないモブくらいしか居ないけどぉぉおおっ!」
聞き込みは沢山したけど、ここには【ビーストハート】をくれた相手と、その関係者しか呼び出す事は出来ない。
だけど、私が持ってるイベントフラグなんか元々これしか無いんだからっ!
「こ、これはっ、何事だっ!?」
呼び出されたペリアさんは、さすが有事に体を張るべき現役の騎士。突然の事態にも関わらずきっちりと走り出して私に事情を聞いてくる。
「ペリアさん! あなたの願いは聞き届けたよ! それはそれとしてペティちゃん確保ぉぉおっ!! みんな走れぇぇぇぇ!」
呼び出せる相手全部呼び出しちゃったから、ペティちゃんまで来てしまったので急いで抱っこして逃走開始。
事態が飲み込めないなりに指示を聞いて走るペリアさんと、他のNPCの方々。そして超大量の兎系モンスターとダムダムドッグやアックスタック、その他獣系モンスターたち。ロア周辺や西の森の獣系モンスターは、軒並みポップ率ゼロにして来たぜ!
「これは、何事なのかっ!」
「だから、ペリアさんが会いたかった人を連れて来たよ! 後ろ見て! 姿が変わっても美しいお姫様が居るでしょ!」
走りながら事情を説明しろと睨んでくるペリアさんに、ありのままを言い返した。
「………………うそっ、だろう?」
走りながら振り返るペリアさんは、目にしたワイルドハントの暴威をまざまざと見せ付けられ、私の言葉をにわかには信じられない。
「爪の模様! 兎っぽい! あと凄い綺麗! おじいちゃん、ワイルドハントの爪は姫様と同じ模様じゃないっ!?」
すぐには信じて貰えない。だから私は思いつく限りの類似点を上げて、姫の爪が大好きだったちょっとアレなおじいちゃんにも声を張る。
「……………ぉぉぉおおッ! アレは姫様のっ、姫様の爪じゃぁ!」
お年を召してるので走れないおじいちゃんは、大量の兎が成す絨毯に運ばれながら、ワイルドハントの爪の模様に涙を流す。
「姫様じゃぁっ、姫様じゃァァァァァァっっ! おいたわしや姫様ァっ! あぁああああぁぁぁあああっっっっ!」
今この瞬間もワイルドハントの攻撃が呼び出したモンスターを襲いまくってるが、愛の傷によってダメージが全部私に移り、余裕の不屈発動とラビットフルハート、そして万単位で居るヒールラビットのラビットハートが発動して全回復する。
ただ食いしばり無効の雷スキルを誰かが食らうと私が死ぬので、それだけは絶対に回避してくれ! 頼んだぞみんな!
「うぉぉぉお退けや禿げ猿がァァァッ!」
「ギャァァァアッ!?」
「おいぃぃいっ!? レイドボスのトレインは流石に晒し案けギャァァァァァアアアアッッッッ………!?」
レイドエリアに居る他のプレイヤーを蹴散らしながら突き進む。この後何をしたら良いかもう、私には分っかんないけど、少なくともワイルドハントを落ち着けなきゃいけないはずだ。
「ペリアさん呼び掛けて! いまそこに居るのは姫様なんだよ!」
逃げればいい物を、わざわざ走り回る私に狙いを付けた他のプレイヤーが立ちはだかるのを、私はカウンターバースト乗せマジックショットで迎え撃つ。マジで今は邪魔するな! 私もいっぱいいっぱいなんだよ!
流石にこんな大乱戦の中では、私を追って来ていた元仲間も私だけを狙う余裕は無い。
「…………本当に、姫様なのかっ!?」
「そうだよ! シリーハント王女は、理性を壊されても国の王足らんとしたんだよ!」
時空の歪み。動かない現王。そして『異界からやって来て自分を襲う大量のプレイヤー』。理性を壊されても王であろうとするシリーハントはきっとこう思うだろう。
-異界から大量の人間が襲って来た。国を守らなくては。
「シリーハントは今でも国を思ってるんだ! 禁術に壊されてもシリーハントはシリーハントであろうとしてるんだよ!」
イベントページには、ワイルドハントは国土に住まうと書いてあった。そう、住んでたんだ。この国の土地に、愛する国に。
「ひめ、さまっ…………?」
時空が歪んでプレイヤーがやって来るまで、モンスターに貶められてもひっそりと、理性を失っても国を襲うこと無く、ただそこに居た。愛する国のそばで、モンスターとしての本能を捩じ伏せて。
「今でもシリーハントはみんなが好きなんだよ! モンスターになっても、国のそばに、国を襲わずそこに居た! ずっとずっと、みんなのそばに居たんだよ!」
ペリアさんの瞳に涙が溢れる。
「…………ひめっ、さまぁっ」
ほんの少しは届いただろうか? 姫の心と、騎士の心に。
あとは野となれ山となれ。気合いは充分。邪魔する奴はかかって来いやぁ!
「姫様ぁぁぁああああああああっ!!」
「ガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!」
騎士と姫君。その叫び声が重なり合う。
さぁ、好きなだけ語り合い給えよ。肉体言語でね。ペリアさんのダメージは私が請け負うからさ。
…………でも例の雷スキルは勘弁な。
☆【チェインクエスト・母の願い】クリア。
☆報酬【ビーストハート】×10000個入手。
☆【チェインクエスト・獣騎士の忠誠】が発生。自動でクエストが開始されます。
☆【シークレットイベント・隠された簒奪】更新。
☆条件達成。【シークレットイベント・真なる王】が開始されます。
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