第39話 恩返し?



 にこにこ笑うチョコさんに褒められながら、私は何やら高そうなドレスを正式にアイテムトレード画面で譲られて装備する。


 本当ならこの装備も相応の防御力やステータス補正を持った強力な防具なのだろうけど、半兎人である私には可愛さ以外全て無効化されてしまう。


 椅子から立ってその場でくるっと一回転してみると、過剰なほどフリルがあしらわれたスカートが慣性によってふわっと踊り、何やら自分がめちゃくちゃ可愛くなった気がして気分が良い。


「 か わ い い ぉ 〜 ☆ 」


「そ、そうですかね? えへへ……」


 後はうさ耳に干渉しないようにヘッドドレスを付けて、耳の周りをリボン等で飾り付けれは、立派な『限りなく獣人っぽく見えるリアルな付けうさ耳に見える装飾のガチうさ耳』が完成した。うん、ややこしい。


「とってもとってもかぁいいぉ〜☆ 綺麗だぉ-☆ チョコとユニット組むぉ?☆」


「あ、えっと、私あんまり歌うの得意じゃなくて……」


「残念だぉ〜……☆」


 流石に歌の素人が迷惑かけられないでしょ。チョコさん、同人活動とは言ってもかなり本気でやってるみたいだし。


 セルフプロデュースしながら自分でライブ活動とか、本当に凄いと思う。アイドルになってチヤホヤされたいとか、そんな浮ついた気持ちだけじゃとても出来ないはずだ。


 きっと歌うのが心の底から大好きで、大好きな分だけ本気なんだ。


 そんな所に可愛いだけのキャラクターがお邪魔していい訳が無い。マジで私歌うの微妙だし。カラオケでアベレージ75点だし。超下手って訳じゃないけど普通に下手っていう、コメントに困るタイプの音痴である。


 昔はもうちょっと上手かったんだけどなぁ。


 小さい頃から動物に触れない現実にキレ散らかして、怒鳴り散らしてたら喉を痛めて声が変わっちゃったんだよね。それから歌うのがちょっと苦手だ。小学生五年生くらいの時からはもうこんな感じだったか。


「えと、チョコさんありがとうございます。チョコさんも似たような状況なのに……」


「チョコは大丈夫だぉ☆ チョコはちょっとだけ有名だから、チョコを狙うと大変な目にあうから被害少ないんだぉー☆」


「……あ、そっか、ファンが守ってくれるんですね」


「みんなに感謝だぉ〜☆」


 なんでも、こんな感じの妨害が可能なイベントでも、ちょっとした障害があるだけで驚くほど被害が減るんだそうだ。


 というのも、上位を目指すために妨害してるのに、妨害を妨害されたならそれは明確なロスになる。


 そんなロスを抱えるくらいなら、妨害を諦めてイベントに向き合った方が結果が伴う訳で、要は『妨害する事で得られる利』が『妨害を妨害されて発生するロス』より下回るなら、本当に嫌がらせ以外の妨害は消えると言う。


 なるほどなぁ〜。


 そして、前に野外ライフを見た感じだと、ゲームの中だけでもチョコさんのファンは四桁近く居るはずで、あのライブに居なかったファンがどれだけ居るのか私は知らない。もしかしたら万とか居るのかも。一人を妨害するために最低でも四桁人数、悪くすれば五桁のプレイヤーから妨害を返される。そうなったら、それはとてつもないロスであり、イベントで結果を残すどころの話しじゃ無くなる。


 だから現在ランキング二位のチョコさんは、決闘騒ぎを回避出来てるのか。


 これもまた、ゲームに費やした時間のアドバンテージなんだろう。


 ゲーム内でそれだけのファンを獲得するに至るまで、活動に時間を費やしたからこその結果なんだし。


「とにかく、ありがとうございます。これでイベントに復帰出来ます」


「どういたしましてだぉ☆ でも油断はだめだぉ?☆ 低身長キャラは珍しいし、ヒイロちゃんはピンクで目立っちゃうぉ〜☆」


「あー、そっか、そうですね。ふむ、ヒイロも何か変装してもらった方がいいのかな」


 ヒイロを見ると、任せとけと言わんばかりに頷き、突然光出した。


「ぬぉっ」


「ぉ〜☆」


 眩い光が落ち着くと、ヒイロが居た場所には人型の小さな兎の獣人がいらっしゃった。


「かふっ…………!」


「わぁぁあ可愛いぉ〜!☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆」


 私達よりもロリキャラで、ちまちましててぷにぷにしてそうな兎の女の子。


 身長は多分百にちょっと届かないくらいで、いわゆるケモナーレベル3~4くらいのケモロリ幼女だ。


「ふわふわだぉ☆ もふもふだぉ☆ ちまちまでぷにぷにでろりろりなんだぉ☆ とってもとってもかぁいいぉ〜〜☆☆☆」


「ぐふっ……、それダメって言ったのに……!」


 それは緊急メンテナンス後に見たことがある、ヒイロが権能と言うスキルを使って擬人化した、可愛過ぎる幼女モードであった。


 可愛い。死ぬ。やばい無理尊い。


 私は気が付くと擬人化したヒイロを抱き締めて頬擦りをして、頭を撫でて可愛いお口にちゅっちゅとキスをしていた。


 ちなみに無自覚である。いつの間に私は動いたのか……。


「かわっ、可愛過ぎる……」


「これは命に関わる可愛さだぉ〜☆」


「本当に死ぬダメ無理尊い可愛いしゅきぃ……」


 骨抜きである。私の嫁可愛いマジ無理天使。


「キズナちゃんキズナちゃん早くヒイロちゃんを着飾るぉ☆ 人型なら服も着れるぉ☆」


「え待ってくださいペットってアイテム装備出来ないのでは?」


「装備しなければ良いんだぉ☆ システム的に装備出来なくても『着る』だけなら可能なんだぉ☆」


「神ゲーかな??」


 あ、神ゲーだったわ。


 私とチョコさんは無駄に早口になりつつ、ふんすっとドヤ顔をしているのヒイロにメロメロなままはしゃいでいる。


 装備出来ないとサイズ調整がされないらしく、そのまま着るとダボダボでダサくなるんだろうけど、そこはオシャレは任せろと豪語するチョコさんの手腕で、あっという間にヒイロはフリルまみれの可愛いうさ耳幼女(高ケモ度)に変身した。


「ふぅ☆ これで『チョコ色の髪のうさ耳さんとピンクの兎さん』から、『ピンク色の兎型獣人系NPCを引き連れたアルビノルックのうさ耳お姫様』に変身したぉ☆ もうよっぽどの事が無いとバレないぉ☆」


「いや本当にありがとうございましたチョコさん。何かお礼出来れば良いんですけど……」


「ライブに来てくれるだけで嬉しいぉ☆」


 行きますとも。通いますとも。


 私だって本当ならそこまで戦闘に力を入れないで遊ぶつもりだったんだ。


 このイベントが終わったら私は、ヒイロとイチャイチャしながら色んなもふもふを楽しみつつ、チョコさんのライブに通う感じのプレイスタイルになるんだろう。間違いない。


「ふっふっふ、これでもう怖くないぞ。反撃開始じゃぁー!」


「ぉ〜☆」


 ◇




「えへへ……☆ あの時のお礼くらいは、出来たかなっ?」



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