第29話 大型トレーラー
「なんか、できちゃったな」
「できちゃったね……」
「まだドローン帰ってきてないですよ」
「ねねね、時間あるなら、あたし試しに運転してみてもいーかな?」
それから約一時間後。コンテナハウスの外には、日本でも国道などの幹線道路でよく見かける大型トレーラーがどどんと、姿を現していた。
サイズはかなり大きい。俺達が普段生活しているコンテナハウスがまるまる載っかる大きさだ。
形はセミ・トレーラーと呼ばれるタイプで、前のトラック部分と後ろの荷台部分が折れ曲がるように連結されている。これならわざわざ綾に頼んでコンテナハウスを出し入れしなくても、常時外に出したままコンテナハウスごと移動することが可能になる。綾の【蔵屋敷】を圧迫しないで済むので、他にも色々なSFアイテムをどんどん作って貯めておくことができるようになるわけだ。
他にも、体調が悪くなったり疲れたりしたらコンテナハウスで横になりながらの移動もできるし、バイクでの移動と違って転けたり、いきなり野生の獣に襲われたりする心配もない。
何より、トレーラーでの旅はロマンだ。バイクもロマンだが、異世界の荒野を駆け抜けるのはやはり大型トレーラーであるべきだよな。
「そこはかとなく世紀末な感じがしなくもないけど……」
「いいか、柚希乃。俺達は戦時中で、しかも割と滅亡寸前まで追い詰められてるようなオワコン国家に召喚されてるんだぞ。この世界の文明水準だって現代地球と比べたら低過ぎて話にならないし、これを世紀末と呼ばずして何をそう呼ぶんだ?」
「……確かに。冷静に振り返ってみれば、私達かなり悲惨な目に遭ってるね」
できることなら、日本に帰りたい。今の俺達では無理かもしれないが……ルシオン王国の連中が大規模な召喚に成功しているのだ。俺達にだって同じことができない道理はないだろう。
「ね、ね、進次センパイ!」
「ああ、運転か。いいぞ。あと俺も隣に乗せてくれ」
「うん! どうせだし皆で乗っちゃおうよ」
このトレーラー、大型というだけあってちゃんと四人乗りである。
「進次! 高い!」
「あー、そりゃそうだよな」
当たり前ではあるが、ドアを開けると座席は頭くらいの位置にあった。柚希乃に至っては、タイヤがもう首くらいの位置にある。
「こ、怖いから支えてて〜っ!」
「おう」
全員の中で一番低身長の柚希乃が震えながらそう言っている。仕方がないので背中に手を添えて支えてやる。
――――つるっ
「ふぎゃ!」
「ああっ……」
案の定、足を滑らせてこちらに落ちてきた柚希乃。支えるために伸ばしていた手が、彼女の尻を「むにゅっ」と鷲掴みにする。
「あわわわわ、進次! 手! 手!」
「そんなこと言ったって、離したら落ちるだろ」
「エッチ、ばか! 私のお尻は高くつくぞぉ」
「いいから早くどこか掴んでくれ。危ないから」
うんしょ、と頑張って手を伸ばしてなんとか手摺りを掴むことに成功した柚希乃。そのままひょいひょいと登って後部座席に乗り込む。俺の手から柔らかい感触が離れていった。うむ、残念だ。今晩はこの感触を思い出しながら妄想に耽るとしようか。
「進次、変なこと考えてるでしょ」
「いや、そんなことはない」
健康な男子高校生であればごく普通の、まったく変ではない当然の欲……感情を抱いていただけだ。ここ数日は一人になる時間もあまり取れなかったし、いい加減に溜まったものを吐き出したい俺である。
「…………」
訝しげにジト目で見つめてくる柚希乃。心なしか、頬がちょっと赤い。恥ずかしかったのかな?
「あのー、あたしも乗りたいんだけど……」
「ああ、すまん」
アイシャに急かされたので、急いで助手席に乗り込む。
「視線の位置が随分と高いな」
これなら運転中もかなり遠くまで見渡せる。夜間はともかくとして、日中であれば悪路でも問題は少ないだろう。
「じゃあ、運転するね。エンジン起動は……あっ、ここだ」
――――キュキュキュ……ブルルルンッ
ディーゼルエンジン特有の乾いた音を立てて、金属の巨体が振動する。車内は割と静かで、居住性も高そうだ。
「じゃ、行くよ〜!」
クラッチペダルを踏み、シフトレバーを一速に入れてトレーラーを発進させるアイシャ。バイク同様、運転は初めてだろうに完璧な操作だ。少しもカクつくことなく滑らかに車体が動き出す。
「巨大メカのコックピットみたいだね」
「そうだな。操縦している感が半端ないぞ」
後ろに座っていた柚希乃が身を乗り出してそう話しかけてきたので、俺もそれに応じる。街道から思いっきり外れているので路面状況は最悪に近いが、サスペンション性能を重視したこともあって車体の揺れは思ったよりも小さい。
走破性こそ二輪車や戦車のような無限軌道車と比べると劣るが、某世界最大手自動車メーカーの国産陸上クルーザーのようなサスペンションを参考に色々と手を施した甲斐があったというものだ。
「いやっほぉおおう! 最高だねぇ〜〜っ!!」
エンジンをブン回してトレーラーを運転するアイシャが超ハイテンションでそんなことを叫んでいる。バイクに乗っていた時も思ったが……どうやらアイシャは乗り物に乗ると性格が変わるみたいだな。
普通なら事故を心配すべきなんだろうが、そこは【操縦】の『恩寵』持ちの彼女のことだ。問題はあるまい。
そのままS字クランクに急制動、地面の凹凸を利用した坂道発進なんかをアイシャと交代しつつ練習することしばし。
一通り運転技術をマスターし終えたあたりでポケットに入れていたスマホが振動する。
「む、ドローンが帰ってきたみたいだ」
「じゃあ、回収して早速出発だね!」
新しいおもちゃを買ってもらったばかりの子供のような笑顔でそう言うアイシャ。操縦することに関しては神がかり的な適性を持つ彼女のことだ。これで旅路は随分と楽になることだろう。
「ああ。まずはアイシャが運転していいぞ。ただし疲れたらちゃんと交代しろよ」
「もちろんだよ、進次センパイ!」
嬉しそうなアイシャを運転席に残して、俺達はトレーラーを降りる。綾に頼んでコンテナハウスを一旦【蔵屋敷】に収納してから、再度トレーラーの荷台上に設置する。
「問題なく設置できたな」
「良かったです。……というか【蔵屋敷】って取り出す位置もミリ単位で指定できるんですね。自分の『恩寵』なのに知りませんでした」
そう感心したように言う綾に、俺は自分の考えを述べてみる。
「多分、それは綾の『恩寵』が成長しているんだろう」
「成長ですか?」
「ああ。俺の【SF】もかなりできることが増えてきただろう。そんな感じで、『恩寵』は使えば使うほど成長するものなのかもしれないな」
実際、綾の【蔵屋敷】の使用頻度は俺の【SF】と比べても遜色ないくらいには多い。アイシャに至っては四六時中使っているようなものだから、成長速度は著しい。
逆に柚希乃なんかは敵に襲われない限りはあまり【
なんだかんだ真面目な柚希乃らしいな。
「よし。ドローンも回収したし、出発しようか」
「はい」
俺達は再びトレーラー(今度はコンテナハウスも積載済みだ)に乗り込む。今度は俺と柚希乃が後部座席、アイシャと綾が運転席と助手席だ。
「さあ、新天地目指して出発だ!」
「「「おーっ!」」」
距離的には二日か三日くらいで着くだろう。もう現時点で既にかなりルシオン王国からは離れているので、流石にもうルシアン兵の心配をする必要はない。
希望と僅かな不安を胸に、俺達は今度こそ明確な
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