第23話 コンテナハウスと柚希乃の膝枕

「さて、綾の【蔵屋敷】が予想以上に良い働きをしてくれそうだから、早速コンテナハウスを作っていきたいと思う」

「イエー!」


 家だけに、そんなことを叫ぶ柚希乃。相変わらず感性がおっさんのそれである。


「ねえ、コンテナハウスって何? コンテナに住むの?」


 アイシャが金髪をくるくる弄りながら訊ねてきた。家業が運送業であるだけにコンテナ自体はよく知っているみたいだが、コンテナハウスは知らなかったみたいだ。


「ああ、その通りだ。コンテナハウスってのは、コンテナを改造して住めるようにした簡易住宅だよ」

「住めるの!?」


 綺麗な碧眼をぱちくりと開いて驚くアイシャ。海外生活が長かったんならコンテナハウスの一つや二つくらい見たことあると思うんだが、アイシャの住んでいた場所では珍しかったのか? むしろ高温多湿な日本のほうが少ない気がするんだが。


「ああ。災害時の仮設住宅とか大規模な工事現場にはよくコンテナハウスが採用されているぞ。小さな会社の事務所に使われているパターンも割とあるな」


 あとは趣味で庭や山なんかに建てる人もいると聞く。俺や柚希乃の家は特にアウトドア系の趣味もなかったので、あいにくとコンテナハウスに縁はなかったが。

 ……いや、よく考えたら叶森家の物置がそれに近かったような。


「うちの倉庫が多分コンテナだったよ」

「やっぱりそうだったか」


 コンテナというには若干小さいような気がしなくもないが、まあコルゲート鋼板製なら似たようなものだろう。


「この後のことも考えるとMPに余裕を残しておきたいからな。あまり大きなコンテナハウスは作れない。……部屋は二つでいいか?」

「私と進次で一部屋、綾ちゃんとアイシャちゃんでもう一部屋ってことでおけ?」

「ああ。それで問題なければ、だが」

「私は全然それで大丈夫だけど」

「あたしも良いよ」

「わたしも大丈夫です」


 皆の了解が得られたので、それで作ることにする。イメージするのは防錆塗装の施された鉄製の箱。波状加工によって強靭化させることも忘れない。内部には断熱性を高めるための発泡素材を用いるとしよう。

 以前建てた家よりも科学水準が高いので、その分消費MPも若干多いが……いけなくはないな。


「【SF】、発動」


 両手から放たれた光が地面にぶつかり、周囲を明るく染める。やがて輝きが収まった時には、立派なコンテナハウスが姿を現していた。


「す、すっご……」

「これが【SF】……」


 初めて【SF】を見た後輩二人が驚きで固まっている。確かに何もないところからこうやってオーバーテクノロジー気味の物を生み出すシーンは、見慣れないとなかなか衝撃が大きいのかもしれない。


「さあ、中へ入ってみよう」


 鍵を開けて中に入ると、そこには俺がイメージした通りの内装が広がっていた。


「ダイニングキッチンを兼ねたリビングが一部屋、そこを挟むようにそれぞれの居室を配置してある。風呂とトイレは別で、ちゃんと水も出るぞ」


 コンテナハウスの上に貯水槽を用意したので、水圧をかけるポンプも必要ない。消費MPを削減するための些細な工夫だ。


「窓もあるんだね」

「凶暴な獣やルシオン兵への対策も兼ねて、強化ガラス製だ」


 軍用車のフロントガラス並みには強度がある筈だから、弓矢くらいなら簡単に防いでくれるに違いない。


「ルシオン王国の扱いがもはや獣のそれと変わらないんだね」

「どちらも人の話を聞かないし、俺達を害する存在だ。似たようなもんだろう」

「んー確かに」


 これならたとえ一〇〇人のルシオン兵に囲まれたとしても、問題なく籠城戦が可能だろう。剣や槍で鋼鉄製の壁を突き破れるとも思えない。火を放とうにも、素材が鉄では燃えることすらないだろう。我ながら完璧に近い出来栄えだ。


「あたし達、進次センパイに拾われてまじ幸運だったね」

「本当、そう思います……」


 そう思ってくれるなら俺としても嬉しい限りだ。仲間と信頼関係を築くにあたって、お互いに好意的な感情を抱いているに越したことはない。


「悪いが、今のでMPがだいぶ少なくなった。まだ余裕はあるんだが、念のために少し休憩したい。構わないか?」

「いいよ〜。そうだ、膝枕してあげよっか?」

「頼む」

「あっ、え? う、うん!」


 柚希乃は冗談で言ったんだろうが、そこは冗談の通じないことで定評のある俺である。気にせず思いっきりお願いしてみると、案の定柚希乃は戸惑いつつも快諾してくれた。若干頬が赤いのが面白いな。自分で提案しておいて照れるなんて。


「ねえ、委員長。始まったよ」

「始まりましたね〜」


 柚希乃の膝枕は柔らかくて温かくて、なんかちょっといい匂いがした。おかげでMPはすぐに全快したが、気持ちよかったのでしばらく横になっていたのは俺だけの秘密だ。






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