241 『イフインパクト』
リョウメイはヒサシを見送ったあと、数珠を鳴らした。
じゃらっと音を立てて、ぽつりとつぶやく。
「ふむ、ヒサシはんの足止めは十分……サツキはんとミナトはんもうまくやれそうやな」
数珠を持った手を下げ、
「けど、それはあくまで怪異的に視て、や」
未来視などでは決してない。
すべてが正確に細部まで視えているわけではないのだ。
式神としている怪異たちが物事の良し悪しを占ってくれているに過ぎないのである。
「あとは、あの子らが間に合うかどうか」
思い浮かべた顔は二人。
ヒヨクとツキヒ。
いずれ……それも近い将来、王都少年歌劇団『東組』に加入させるつもりの二人の顔だった。
「ここでヒサシはんを必要最低限やけど制した。その上で、あの子らがサツキはんとミナトはんをサポートできればうちの計画は達成される。ほんま、惜しかったなあ」
計画の達成。
喜ばしい結末。
しかし惜しい……。
リョウメイがついそう思ってしまうのは、昨日の件に関する部分である。
「もし、昨日勝ててたらより効果的やったんやけど」
もし、昨日勝てていたら。
変わってくるのは結果ではなく効果である。
ヒヨクとツキヒが勝った場合、
「自分たちより強い大会優勝者が、自分たちのために道を切りひらいてくれた。特に、ボスの手前という重要な位置で」
とサツキとミナトは思ったことだろう。
厳密に言えば、リョウメイから見てもミナトの強さはヒヨクとツキヒを遥かに凌駕しているので、対サツキといえる。
実際、リョウメイが将来的に士衛組を味方につけたいと思ったら、局長・サツキを攻略しなければならない。
そうした意味でも、狙いとなるサツキがどう思うかの問題であり、サツキに勝つことが効果の大きさを変えるのである。
しかし負けた。
ヒヨクとツキヒは惜しくもサツキとミナトに敗れ去った。
より大きな恩を感じさせられるところを、みすみす逃してしまったわけだ。
「あの子らを大会に出場させるのは吉やて占いで出ていたんやけどなあ。まあ、顔を売った程度でも……いや、強さを実感してもらえただけで充分やったんやろな。うちもこんなことになるなんて知らんかったし」
サツキの意識に働く効果を見込めば、あそこで勝っておくことほど美味しいことはなかった。
だが、成果は充分だとも思える。
――せやから、トータルで、鷹不二氏と碓氷氏の両陣営が士衛組に貢献した総量はイーブンくらいとしてええやろ。
それがリョウメイの読みだった。
――碓氷氏にとって、今回の一件で今後『
あとは……。
――あとは……スサノオはんとオウシはんの戦いがどうなるかや。
リョウメイは目的を果たせたと確信できた。
そのあとは、スサノオとオウシの戦いがどんな結末を迎えるのか。
ただそれだけが気に掛かった。
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