233 『ペンギンランウェイ』

 リラの《真実ノ絵リアルアーツ》は、空中や紙に描いた物を実体化する魔法である。

 その性能は描いた物そのままで、リラの想像力の限り思ったままを実現してしまう。

 ただし、リラの理解する範囲の再現になる。

 理解とは、その論理を知っていること。

 つまり銃の構造や理屈を知っていれば、描いた銃は本当に発砲できるものになるのだ。

 そして、論理の理解は実在するものに限らない。

 実体化が実在するものに限らないということでもあり、現実も空想も制限なしといえる。


 ――ぺんぎんぼうやのことは、リラと話して知ってもらえてる。ぺんぎんぼうやのイラストでも動けることは理解してもらえた。だからか、ちゃんとこの着ぐるみは動ける。


 チナミは天守閣でグルグル走って勢いをつけ、滑走路から飛び立つジェット機のように飛び出したが、ここで動いてみた感覚でも、生身ほどの可動域ではないがそこそこに動けるのがわかる。


 ――あとは、気になるのは防弾性。どこまで耐えられるか。でも、当たらないようにするつもりだけど。


 空中を狙われるが、これらの銃弾はかわして着地した。


 ――いざ。


 ぺんぎんぼうやは二足歩行で歩けるぺんぎんのキャラクターだ。

 だが、特徴もある。

 それはお腹を地面にくっつけて、すべって移動することができる。その際、移動スピードも上がるのだ。

 チナミはそれもうまく利用して、敵の間を縫って動き回り翻弄して、ぺんぎんとは思えぬ機敏さで攻撃を繰り出す。

 羽のような手でバチンと叩き、短い足でキックして、地面を滑って移動して頭突きをする。

 銃弾が当たることはない。

 五人ほどをそれで倒したあと、ナズナが様子を見て天守閣から弓矢を放つ。


「《うたた寝羽魔矢エンジェルウインク》」


 ナズナの援護射撃で眠らせる。

 そこに、チナミはまた羽を叩きつける。

 が。

 銃がチナミに当たってしまった。


「しゃあ! 命中! どうだ!」

「チナミちゃんっ」


 心配するナズナ。

 しかしチナミは素早く動いて、銃弾なんて当たらなかったみたいにノーダメージで距離を詰め、銃を撃った相手に頭突きをくらわせる。


「おあッ!」


 この様子を見て、リラはホッと胸をなで下ろす。


「よかった。大丈夫だった」

「やったね、リラちゃん」

「うん。そうしたら、リラとナズナちゃんの分も防弾チョッキを創ろう。いっしょに戦えるように」

「がんばってね。わたし、それまで、チナミちゃんの援護、するよ」


 さっそく、リラは防弾チョッキを描き始める。

 コンセプトは着ぐるみではない。


 ――ぺんぎんぼうやが銃相手にも戦えることはわかったけど、《着ぐるみチャック》は一つしかない。リラとナズナちゃん用の防弾チョッキは、普通に着られるものにしないと。


 問題はデザインだが。


 ――顔を覆うのは難しいけど、腕とか脚までは覆いたいよね。あと、頭はフードを被るのもいいかも。ちょっと可愛くて、でも守れる範囲が広いもの……。


 ワンピースのような上下一体型にして、フードもつけた。


 ――うん、いい感じかも。あとは、マフラーで首元とか口元まで覆えるようにして、手袋もあれば完璧じゃないかな。


 絵を描くのが楽しくて、戦闘中なのをつい忘れてしまう。

 そうしている間にも、チナミはぺんぎんぼうやの鎧で立ち向かい、敵の数を順調に減らしていった。


「あ。後ろ……」


 ナズナがまた弓矢を構える。


 ――あの人、チナミちゃんを狙って銃を構えてる……!


 チナミに不意打ちをしようとしている。

 そのとき、リラが気づく。

 地面に倒れ伏していた一人が、そっと銃をナズナに向けていることに。

 倒れたフリをして、気をうかがっていたのだ。


「危ない、ナズナちゃんっ」


 叫び、リラがナズナに飛びつき銃弾から守ろうとする。


「え?」


 ナズナはチナミが狙われているから、それを守ろうとしていた。さらにそこを、別の相手が狙っていたのである。


 ――やられた!


 チナミもすっかり油断していた。


 ――間に合わない!


 戦場で複数の敵を相手に奮闘していたチナミには、そこまで目が行き届かなかった。

 リラもまた、特製の防弾チョッキを描いていたから気づけなかった。

 リラが叫んだときにはすでに、倒れたフリをしていたそのマフィアは、


「残念だったな」


 ニヤリと口を歪め、トリガーを引いていたのである。

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