198 『アイロニートーク』
リョウメイは微笑でリラとヒナを見送る。
手を振り、二人の姿が小さくなってゆくと。
その手を下ろして、
「ここからはあの子ら次第。辿り着けるとええなあ」
つぶやくと、ヒサシが相槌を打つ。
「そうだよねえ。無事に辿り着けたらいいよねえ。なーんて言ってもさ? リョウメイくん、キミって案外優しいんだね」
「なんのことどすか?」
「だって。陰陽術なんか使って、あの子たちのこと守らせて誘導して、まだまだ関わってるじゃない。構いたくなる気持ちもわかるけど、ちょーっと過保護っていうかさあ」
「さすがは鷹不二氏の。よう勉強してはるわ。なんでもお見通しどすなあ」
「詳しくは知らないんだけどね。陰陽術を使ったってことは、そりゃあわかるよ。ボク、他人の魔法に干渉するタイプだからさ。どうしても魔法には敏感になっちゃうよね。陰陽術も元を辿れば魔法を術式としてシステム化したもので、魔法の一種だからさ。そういうのって忍術に少ーし似てるよね。そんな、他人の魔法に興味津々で敏感なボクだから、見通しはよくないけど『あ、今魔法使ったな』って察するくらいはできたわけよ」
「いえいえ。ご謙遜は結構どす」
そこで一度言葉を切った。リョウメイは自分の魔法についてはあまり語るつもりもないので言葉を濁す。
「まあ言うたら、ちょいとしたお節介どすさかい。詳しいも詳しないもあらしまへん」
「あるでしょう。魔法のお話なんだもん。ボクは知りたいなあ。キミとこうやってやり合うことなかったし、キミの魔法を知る機会もなかったからさ。噂に聞くばっかりで表面しかわからなくて気になってたんだ。そんなわけで、なんだかんだとっても有難い巡り合わせなんだよね。今、ここでの出会いって」
トン、と杖で地面を叩く。
その意図は。
リョウメイには、わかりすぎるほどわかった。
――その杖で叩くゆうことは、うちをその杖で叩いて、魔法情報を読み取ろうてお話やろな。やる気満々なことやで。
魔法情報の読み取り。ヒサシの《
――確かヒサシはん。《
つまり。
――つまりは、二度叩いて真価を発揮する魔法いうことや。うちを潰すのには、それくらいはしておきたいやろな。
リョウメイは冷めた目で杖を流し見て、
「その杖、ええ音させてますなあ」
「いい音出ちゃうんだよ。いい音だから耳に心地良くて、気分がいいとつい叩いちゃう。て、冷たい目はやめてよ。ごめんごめん、わかってるよ。うるさいからやめろってことでしょ?」
「嫌やわ。そんなこと言いまへん」
「ボクって魔法ばっかりじゃなく人の気持ちも察するところあるからさ。茶道を極めるとおもてなしの心が育まれるんだよねえ」
「立派どすなあ。真心は大事やさかい。極めなできひん立ち振る舞いもあるいうことどすか」
「え? 極めたからこそあえてこんな神経に触る立ち振る舞いをするのかって? まあそういうことになっちゃうんだよねえ。そうしないとやっていけないとこもあるし? ねえ」
「またまた、うちはそんなん言うてへんどすえ。冗談が上手やわあ」
いちいちリョウメイの言葉の裏がわかっているのがおもしろい。それでいてふてぶてしいほど口が減らないのがまたおもしろい。ヒサシは気が合うと思ったが、それは味方だったらの話。
――もし味方なら、楽しいおしゃべりができたんやろな。けど、ここは勝負の場。うちらは敵同士。そして、そもそもこの戦いは端から勝利条件がそれぞれに異なる複雑怪奇なもんや。勝ち過ぎても許されず。負けは零落、死の淵に立たされる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます