186 『エンバラッシング』

 サツキはクコと合流した。

『洗礼者』ヨセファの魔法《人格ツボ押しパーソナル・フィンガー》で人格を変えられていたクコだが、その人格というのが赤ん坊だった。幼児化してしまったのである。

 このとき居合わせていたのが鷹不二氏のスモモであり、このままではどうにもならないと思ったスモモはサツキを探していたのだった。

 目的はもちろん、クコを元に戻すため。サツキなら《打ち消す手套マジックグローブ》を使うことで、かけられた魔法効果を消し去ることができると知っていたからだ。

 しかしどうやって合流したらよいのかわからない。街が碁盤の目状に区切られ次々に各地での入れ替えが起こるマノーラでは、確実に出会う方法などなかったのだが。

 こうして、運良く巡り会えた。

 幼児に危機感などないが、スモモの心労は察せるものだった。


「本当にありがとうございました。クコの面倒を見てもらった上、ここまで連れてきていただいて」

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 感謝と謝罪をするサツキとクコを、スモモは陽気に笑い飛ばした。


「いいって。ほんと気にしないでよ。これもなにかの縁ってことでさ」

「いやあ、おもりをしながらの道中、お疲れ様でした。小さな子供って目を離せないもんですし、大変だったんじゃないですか?」


 ミナトが笑顔で聞くと、スモモはおかしそうに、


「それがさあ。案外クコちゃんの場合、都合がよかったんだよ」

「都合がいい?」

「クコちゃんをサツキくんのとこに連れて行くってのはすぐに思いついたんだけどね、サツキくんが心配だからかなぜなのか、サツキくんのとこに行くって勝手に歩き出してさ。目的はわたしと同じだしちょうどよかったの」

「なるほどねえ。そいつは確かに都合がいい。動かない子を歩かせるより、勝手に歩く子について行くほうが楽ってもんだ」

「どのみちどこへどう行けばいいかわからないなら、離れないようにすればいいだけだからね」


 と、スモモとミナトが笑っている。

 クコは恥ずかしそうに、


「もうそのへんで許してください」


 と両手で顔を覆った。

 これにはサツキやアシュリーも笑ってしまう。

 雑談も済んだところで、サツキはクコにジェラルド騎士団長のことを伝えておくことにした。


「そういえば。さっき、俺とミナトはジェラルド騎士団長と戦った」

「え! あの『独裁官ディクタートル』ジェラルド騎士団長ですか!?」

「うむ」

「それなのに、無事だったなんて! いえ、それはつまり、サツキ様とミナトさんがジェラルド騎士団長に勝ったということですか」

「一応な。だが、いろんなものが複合的に絡み合った結果でもある」


 チラと、サツキの頭にヒサシの顔が浮かぶ。リディオとラファエル曰く、あの大事な局面でジェラルド騎士団長の魔法に関する重大な情報を教えてくれたのは、なにを隠そう鷹不二氏の『茶聖』ヒサシなのだから。

 これが大きな助けになったことは、あえて今言わず、サツキは話を続ける。


「とはいえ、ジェラルド騎士団長は俺たちに心から敵対する気もなかったようだし、戦ったあとには話も聞いてくれた」

「どうでした?」

「向こうもかなりの傷を負っている。今すぐこの戦いで味方するのは厳しいが、俺たちのことをわかってはくれた。あとでクコとリラからも話を聞かせてあげてほしい」

「もちろんです! わたしに話せるならなんでも!」


 これらの会話から、クコがジェラルド騎士団長の実力を相当高く評価していることがわかる。噂を吟味するだけでもすごい人だとわかっていたが、やはり王家のクコも認めるほどの人物らしい。


「詳しいことはこの戦いが終わって、別の機会を設けて話し合いたいと思っているが……。どうもこのマノーラという舞台装置を動かしているのは、サヴェッリ・ファミリーのボスだって話だ」

「特殊な魔法を使ってそれをしているそうですぜ。それと、あらゆる者を利用する非道な男。そうも言ってました」


 と、ミナトが付け加える。


「なーるほど」


 うなずいたのは、スモモだった。

 鷹不二氏における通信役には、なにか気づいたことか知っていることがあるらしい。


「ヒサシさんから、とっておきの情報があるんだよね」

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