177 『リメイニングエネルギー』

 まだ傷は痛む。

 それでも動けないわけじゃない。

 むしろ、充分過ぎるほどに回復した。

 サツキはミナトの手を借りて立ち上がると、失われた左目を左手で押さえたまま、ジェラルド騎士団長を見据える。


「左目、返してもらいます」

「その目がない貴様など恐るるに足らず。やれるものならやってみろ。むろん、一人では無理であろうから二人でかかってくるといい」


 ジェラルド騎士団長はミナトに目を向ける。


「当然そのつもりですぜ。『四将』グランフォード総騎士団長と比肩するほどのあなたを軽んじる余裕など、僕らにはありませんので」


 二対一を所望するジェラルド騎士団長。

 だが、 ジェラルド騎士団長の傷も決して小さなものではなかった。

 右胸を刺され、右肩からは真下に斬られている。下に着込んでいた鎖かたびらが傷を最小限に抑えたようで、太ももの傷も剣の軌道が逸れていたせいで致命傷にはなっていない。しかし、総合的にサツキと変わらぬほどのダメージは受けている。

 そのサツキも……。


 ――ここに左目がないとやはり厳しいが、あとは一撃で終わらせる。時間はかけない。次の一撃にすべてをかける……!


 サツキは右手に集めた魔力を練り、圧縮させてはさらに魔力を練り込み、《波動》の力を今できる最大まで高めてゆく。


「準備はできた」


 刀を抜き、手にあった刀を消した。マジックではなく、物の出し入れを自在にできる帽子の効果によるもので、これはすなわち、刀を使わず素手で攻撃をすることを示唆している。

 ジェラルド騎士団長もそれに気づき、


「素手か。どうしても我にそのグローブで触れ、左目を取り返したいらしいな。だが、この我を相手にリーチを補うのは至難の技だ。二人がかりでも無謀。なにせ、そのダメージだからな。いつまでも戦い続ける体力はもはやあるまい」

「それはお互い様です」


 とサツキは帽子のつばをつまむ。

《緋色ノ魔眼》は、相手の魔力の流れを見ることができる。

 これによると、ジェラルド騎士団長の抱えている魔力の量は常人以上、自己治癒力もまた常人以上にあるようだが、さっきの傷がすぐに癒えるほどの自己治癒なんてものは都合良く働かない。サツキの瞳に埋め込まれていた《賢者ノ石》でさえ一つのバトル中に傷を治すのは簡単じゃないのだ。

 当然、ジェラルド騎士団長のダメージもまだまだ癒えない。

 この戦いの中で、ジェラルド騎士団長がまともに戦えるまで回復することはない。

 それでも、ジェラルド騎士団長の全身を覆う魔力は大きく、乱れなどなく淀みもなく、強靱なことが読み取れる。

 生半可な攻撃では容易には崩せないだろう。


「否定はせん。我も戦いを長引かせるつもりはないゆえ、思う存分の最大の力でやり合おうではないか」


 サツキとジェラルド騎士団長、思惑は一致している。

 どちらも戦いを早々に終わらせたい。長引かせても互いの剣が鈍くなっていくばかりで、後に響く。後にすべきことがまだ山積みな両者はここでの決着を内心では急いでいた。

 もし長引けば、ミナトだけが生き生きとする。心臓もないのに水を得た魚のようにますますキレを増して生き生きとしていくだろう。

 しかしやはりそのミナトでもこの戦いの後にすべきことがあるから、次の攻防で決着をつけることに賛成だった。


「ええ。なにも残らないところまでやり合いましょう」

「いくぞ」


 サツキはミナトとジェラルド騎士団長、二人にそう言った。

 これにミナトがうなずき、ジェラルド騎士団長がバスターソードを構え、サツキが地面を蹴った。

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