117 『コンフィーネ』
剣と剣がぶつかり。
魔法が発動した。
少なくとも、サツキの《緋色ノ魔眼》はそれを察知した。
ただし変化はまだない。
兆候さえない。
フレドリックの剣がサツキの刀から離れ。
二度目の衝突時――
それは起こった。
――遠近感が……ッ!
小さく息を呑む。
あっと思う間に、フレドリックの剣がサツキに迫った。
原因は速度であり、遠近感であり、魔法の力によるものだった。
この戦いで。
サツキは目を閉じていた。
目を閉じ、魔力だけを見ていた。
魔力を可視化できるサツキには、魔力のシルエットが見える。
遠近感を奪われたせいで、景色のすべてを見ようとすればめまいがする。
それを回避するために不要な視覚情報をシャットアウトし、全方位の魔力のシルエットだけで周辺状況を把握した。
そんな中で、もっとも読めないのが可変するものの存在である。
特に魔力。
魔力は可変だ。
より正確に言えば、この場合、魔力の形状が可変だという話であり。
魔力のみを実体化して形状可変のものとして扱うケースもあれば、魔力をまとった物体の中にはその形状を変えるものもある。
今、フレドリックはそうした魔法を使った。
フレドリックの剣が見せたそれは後者であり。
つまりフレドリックの剣は形状を変えたのである。
ひるがえって言えば、フレドリックの魔法は物体の形状を変えるものだと推定される。
だが、仔細はまるでわからない。
――一見、大きくなっただけに思われる。そのせいで、剣が届くのがわずかに早まった。
これが速度の力。
キンと剣と剣がぶつかる。
剣の重たさも、非常に判断がしにくいほどだった。
――剣の大きさは五割増し程度。それによって生まれるパワーがどれほどなのか、重量まで変化しているのか。
それらはまだわからなかった。
「いい目をしてる! だが!」
フレドリックが剣を引き、また叩きつけるように打ってきた。
距離が近い。
たったの一メートルほどしかないのではないだろうか。
そんな距離感で大きな剣を使われたら、そこに重さが加わったら、フレドリックの膂力と合わせればサツキには弾き返すのも厳しくなる。
「れあああ!」
「はああああ!」
サツキがパワーで迎え撃つ。
しかし、フレドリックの剣は思った以上の大きさになった。
一気に元の二倍以上になっている。
――倍以上、だと……!
さっきまでが一・五倍だったから、剣を約一メートルとしても一メートル五十センチ。
それが二メートル十から二十センチ程になった。
五十センチ以上リーチが変わることは大きな意味を持つ。
剣を迎え撃つときに振ったサツキの刀が、その振りが小さいうちに剣とぶつかるのである。
パワーを乗せきる前に衝突する。
この差はかなり大きなものだった。
重さは。
刃がぶつかって、理解する。
――重さは、変わらない……?
と思う。
それでもサツキのパワーで弾き返すのは厳しい。小さな剣の振りで耐えるのが精一杯で、《波動》の力を高めるための時間も足りない。
「れあああ!」
「ぐっ」
押し潰されてしまいそうになる。
踏ん張って、手に魔力を集め、その魔力を《波動》に変え押し返す。
それによって、身体を引くだけの余裕が生まれた。
「うあッ!」
サツキがフレドリックの剣から逃げようとすると。
二倍以上の大きさを持つ剣はサツキをタダでは逃がしてくれず、肩に当たる。
当たっただけに過ぎない。
そこに切れ味はなく。
それが剣の大きさと落下運動によってダメージを与えたに過ぎないのである。
西洋剣らしく切れ味はそれほどではない。
だが、サツキのマントや上着の丈夫な生地をすべて破り、肩口を切って、少しの血が出るのは必然だった。
しかも攻撃は続く。
「れあッ!」
剣での突きが腹部に刺さる。
「かはっ!」
口からは血が出る。
巨大化の速度に防御が追いつかなかった。
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