140 『リトルプラネット』
ヒヨクは、手の中にも《
今構えを取ってみせたヒヨクに、無策で近づくのは望ましくない。
サツキは慎重だった。
――《
それはミナト相手に実証済みだ。
――柔術使いのヒヨクくんは、相手をつかむ技を駆使する。相手に近づけば引き寄せられるのだから、バトルスタイルともかなり噛み合いのいい魔法だ。
今までは気づかれずに使ってきたことだろう。
この魔法を知らない相手は、手を払えばいいと考えて、手に近づくリスクは計算しない。それゆえ、紙一重の差で発動することで、確実に相手を引き寄せてつかむことができる。相手は技を決められても、それはヒヨクの柔道技術と思うばかりで、この魔法の正体には気づけまい。
――ヒヨクくんは視線誘導もうまい。ツキヒくんの凶悪な《シグナルチャック》のおかげで気が抜けないし、すぐにそちらを意識させられてしまう。こんな中で手の中に仕込んだ《
仮に《
サツキは右の拳に力を込める。
「刀は使わなくていいのかい?」
確かに、刀のほうが有利に戦えるだろう。しかし、サツキには試してみたいこともある。
「俺も素手でいく」
「無理しなくていいのに」
余裕の微笑みを口元に浮かべるヒヨク。
「いや。無策ならこう言わないさ」
「それもそうだね。見せてもらおうか、サツキくんの力を」
「うむ」
「さあ、ぼくも見せてあげるよ。《
「……」
ヒヨクもまた、無策でそんなことは言わないだろう。
つまり、《
――本当の力、か。もっとすごいことができるのか。おもしろい。
サツキは狙いを定め、ヒヨクと体術勝負に出た。
双方の距離が近づき、サツキの突きと蹴りがヒヨクを襲う。しかし、ヒヨクもサツキの攻撃を払い、つかみかかってくる。
――なるほど、引き寄せられる! なかなかの力だ!
思った以上に、磁石的なパワーを持つ引力である。
右腕をつかまれそうになって、サツキは抵抗してみる。
――まるで本当の星だ。人間が地球の重力に逆らって浮いていられないように、ある一定以上の範囲に入ってしまうと、逃れることはできない。吸い付く。
ヒヨクの手の中に吸い付くようにサツキの右腕が引き寄せられて、つかまれてしまった。
しかし、サツキは左手で自分の身体に触れる。
これによって、《
つかまれた右腕を力任せに引くと、
「なんてパワー」
ヒヨクがつい手を離してしまった。
「サツキ選手、逃れたー! 一度つかんだら離さない驚異的な握力を持つヒヨク選手から逃れ、腕を引いた! すごいぞ!」
クロノがしゃべったあと、ヒヨクが言った。
「そのパワー、例の《波動》の力だね。本当にすごいや」
「そっちこそ、俺の《波動》でも振り払うのはギリギリだった」
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