137 『オリジナルセオリー』
前回戦ったときにも、サツキはヒヨクの足元の魔力を見た。
《
そう思っていた。
だが、ただ魔力を足元に集めたのではなく、魔力は球体状になって足裏にあったのだ。
ヒヨクは今も足裏の球体に乗っていた。
端から見れば、ヒヨクは漠然とした魔法の力によってただただ空中に浮いている。だが、そこには術者独自の理論があり、創造力があるのだ。
そして。
魔力の球体にヒヨクの足が乗っているとわかるのは、魔力を可視化できるサツキと術者のヒヨクしかいない。
空中約五十センチほどの高さを足場にヒヨクが浮いており、トリッキーな足場のおかげで距離を詰めてサツキの右腕をつかみ、まるで地面が斜め四十五度になっているような角度で空中で踏ん張り、サツキを投げ飛ばす態勢に入った。
――これを待ってたんだ!
サツキは左手でヒヨクに触れた。
――よし。
左手にはめた《
「おっと!」
ヒヨクは、重力的には不可能な斜め四十五度の前のめり状態の足場を持っていたため、正面に倒れそうになる。
――やってくれるね、サツキくん。
この隙にも、サツキはつかまれていた右腕をふりほどいた。ヒヨクの手から逃れると、背中を蹴って距離を取った。
うつ伏せに倒れかかったヒヨクだが、あえて手から地面につき、前転して衝撃を和らげて、すぐに後方にいるサツキに身体を向けて起き上がる。
「投げ飛ばせなかったー! ヒヨク選手、綺麗にサツキ選手の腕をつかんで投げる直前までいきましたが、サツキ選手の《
にらみ合うサツキとヒヨク。
サツキが聞いた。
「もう《
「ただの《
「残念だけど、俺はもう気づいたぞ。《
これを受けて、ヒヨクより先にクロノがリアクションする。
「なんとサツキ選手、《
ヒヨクはサツキに手を向ける。アイドルらしく爽やかにかっこよく、その動作で促した。
「どうぞ。言ってごらん」
「みんなの前でも構わないのかね?」
「うん。こんなに早く気づかれるなんてびっくりだけど、ぼくの魔法を《
クロノが興奮して、
「さすがはヒヨク選手です! なんたる堂々たる振る舞いでしょうか! かっこいいぜ! さあ、サツキ選手! 聞かせてください!」
サツキは小さく息を吸って、思い切って言った。
「先にひとつ聞かせてほしい」
「なにかな?」
「キミは、地球などの星には引力があることを知っているのか? 引力とはすなわち、磁力のように物体を引き寄せる力と考えてくれればいい」
この世界では、ヒナの父・浮橋教授が地動説の証明をしようとしているように、科学レベルはその時代の推移に合わせたところにあり、まだ引力があまり知られていない可能性もある。だからサツキは引力についても説明を加えた。
ヒヨクはくすりと笑う。
だが、馬鹿にしたような感じもなければサツキが的外れなことを言ったことをおかしく笑ったようにも見えない。
「うん。やっぱりサツキくんはいろいろ知っていてすごいね。リョウメイさんの言う通りだ。キミは普通じゃない」
「……」
「ああ、ぼくは天体にも興味があってね。太陽と惑星の間には、ある種の磁力のような力が存在するってことを知っている。ミゲルニア王国の学者がそんなことを論文に記していたんだ。キミたちが協力する、浮橋教授の地動説にも興味があるし、ぼくは地動説を支持している」
ヒナの父・浮橋教授の名前も挙がって、サツキは驚いた。しかも、地動説を支持していること、そしてそれをこれだけ大勢の前で言えてしまう大胆さにも驚かされてしまった。
意外なところで度肝を抜かれたサツキに、ヒヨクは言葉を続ける。
「魔力の見えるキミだ。そんなことを聞いたからには、本当にもうわかったんだね。じゃあ、名前だけはまず言っておこう。《
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