108 『メイドトランスファー』
サツキを乗せた担架を運ぶ医療班に、ミナトは質問した。
「腕は治るでしょうか?」
「我々には治せません」
キッパリと断言されてしまい、ミナトはちょっとだけ驚いた。
「いやあ、そこをなんとか。なんて……言っても困らせてしまいますね。それで、サツキはどこまでなら治療ができるでしょう?」
「止血をしたら、あとはとある医者に任せることになります。その方次第です」
「そうですか……」
残念そうにするミナトに、医療班の青年が言った。
「でも、大丈夫だと思いますよ。とても腕の良い方ですし、腕自体はほとんど元の状態まで治せるでしょう。『
「ああ。そうだな。早くあの二人を呼ぼう。今日来ていてくれたのが幸いだ」
と、四十歳くらいの男性が言った。
「あの二人……?」
ミナトが疑問に思ったところで、通路を抜けた先に、数人が待っていた。意外な人物たちにミナトは声を上げる。
「おや。ルカさん。リディオくんとラファエルくんもいるね」
「ミナト。お疲れ様。まずはおめでとう」
ルカに続けて、リディオも「おめでとう! ミナト兄ちゃん!」とお祝いの言葉を言って、ラファエルも「おめでとうございます」とミナトを上から下まで見る。
――この人、本当に傷一つない。あんな命がけみたいな試合をしておいて、なんて人だ。レオーネさんとロメオさんを除けばあれほど強いバディーもそうそういないっていうのに。
疲れた様子さえ見えないミナトに、ラファエルは頼もしさ以上に恐ろしさも覚えた。
「聞いているかもしれませんが、ここからはボクたちが引き受けます」
「おれたちの友だちの医者のところで治してもらうんだぞ! サツキ兄ちゃんを治せるのはその人くらいだからな」
「ミナトさんは、お疲れでしょうし休んでいても結構です。昼食もいただいてください」
そう言いつつ、ミナトがお疲れには見えないラファエルだった。
あとからクコたちもやってきて、ミナトは微笑してみせる。
「みんなサツキが心配のようだ」
それから、みんながミナトを労ったりサツキを心配していろいろ聞いたりしている中で、医療班は軽くサツキの止血をしてやった。
そのあと、ナズナはサツキにそっと顔を近づけ、優しく歌った。
――《
ナズナはサツキの右手を取り、傷口に息を吹きかける。これもまた、ナズナによる治癒力を高める魔法効果が乗せられていた。
そのとき、突然少女が現れた。
ちょうどリディオの目の前に出現し、にこりと微笑んでミナトたちにお辞儀をした。
「まずは決勝進出おめでとうございます。サツキ様の治療のため、ルーチェが参上致しました」
少女は、ヴァレンの『メイド秘書』
「ルーチェ姉ちゃん! ありがとな!」
リディオがルーチェを見上げる。
ニコニコしながらルーチェはリディオの頭を撫でてやった。
「素早い報告、偉いですね。リディオちゃん」
「おう!」
ルカが口を開く。
「つまり、ルーチェさんのワープで連れて行っていただけるのね」
「僕もついて行ってもいいかな?」
ミナトがルーチェとリディオとラファエルの三人に聞くと、リディオが答える。
「おう! もちろんだ! ファウスティーノさんにはそのつもりで連絡してあるぞ。休んでいてもいいってのに、ミナト兄ちゃんは元気だな! ははは」
明るく笑うリディオといっしょになってミナトも「はは」と笑った。
ルーチェはミナトとルカに言った。
「準備はよろしいでしょうか?」
「はい」
とルカが答えて、ミナトも笑顔で応じる。
「お願いします」
「皆様は、しばしゆっくりしていてください。ワタクシはまたヴァレン様のお仕事に付き添うのでこちらには戻りませんが、次はお兄様がサツキ様とミナト様をお連れ致します」
クコが「どうか、よろしくお願います」と言って、ルーチェは「はい」と微笑む。
「ミナト様、ルカ様。ワタクシの身体に触れてください。ワタクシの《
これは、《
言われた通り、ミナトとルカはルーチェの腕に手を触れた。ルーチェは「ありがとうございます」とお礼を述べると、またクコたちに向かってお辞儀をした。
「それでは失礼致します。《
最後、サツキに触れて魔法を唱えると、ルーチェの姿はその場から消えてしまった。
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