6 『グラティテュード』
九月五日。
夜。
サツキに連れられ、遅れて大広間にやってきたクコ。大広間は、お祝いの催しのための飾り付けがされていた。
「おめでとう!」
サツキに続けて、みんなもお祝いの言葉を述べた。
アキとエミがクラッカーを鳴らす。
「お祝いだよ!」
「楽しもーう!」
「わぁ! みなさんにお祝いしていただけて、わたし、とってもうれしいです! ありがとうございます!」
クコは、子供のように目をキラキラ輝かせて笑顔になる。まぶしいくらいにピカピカした部屋の真ん中には、大きなケーキもある。
「みんなでクコちゃんを迎えたかったから、サツキくんにはちょっとだけ時間稼ぎをしてもらったんだ」
「喜んでもらえてよかったよ」
アキとエミがうれしそうに言った。
「だから一度サツキ様のお部屋に寄ったんですね」
とクコは納得した。
妹のリラといとこのナズナが前に出て、クコの手を左右から引いてケーキの前に連れていく。
「お姉様、いつもありがとうございます! 素敵な十四歳になりますように!」
「クコちゃん、これからも、優しくてわたしの大好きなクコちゃんでいてね」
二人にそう言われて、クコはもう感激していた。「リラ! ナズナさん!」と抱きしめている。
リラはくすぐったそうに、
「お姉様ったら」
「クコちゃん」
とナズナは幸せそうだった。
チナミがナズナの横で言った。
「このケーキは、私たち参番隊で作りました」
妹のリラといとこのナズナは、クコの誕生日をお祝いして喜んでもらいたい気持ちが士衛組の中でも特に強い。だから、二人の所属する参番隊でクコへの誕生日ケーキを作ることになったのだ。
「ナズナとリラが頑張ったんですよ。よろしければ食べてください」
「まあ! 参番隊で? すごいです!」
改めてケーキを見ると、クコは息を呑むようにまじまじと見つめた。笑顔だったのがちょっとハッとしたような顔になる。
気になってリラがクコの顔を覗き込む。
「お姉様?」
「なんだか、このケーキを見ていたら……わからないんですが、士衛組のみんなと旅してきた日々の記憶、その一つ一つがぱぁーっと思い出されてきたんです」
「よ、喜んで、くれた? クコちゃん」
と、ナズナがクコを見上げる。
「もちろんです!」
再び笑顔を咲かせて、ちょっと涙ぐみながらクコは答えた。
「ででーんっと大きくて、最初はただびっくりしてしまったんですが、このケーキにはいろんな思い出や気持ちが詰まってるように思うんです! 懐かしくて、楽しくて、うれしい、最高のケーキです!」
ケーキについて、チナミが説明をする。
「たぶん、ナズナとリラがクコさんのためにあれこれ試行錯誤して、いっぱい考えたからです。あと、サツキさんにもアイディアをもらったり」
十日ほど前、
士衛組が『幻の秘境』と呼ばれる島にやってきた翌日、ナズナは参番隊がもっと仲良くなって結束力を高めるために、サツキにどうすればいいのか相談した。そこで、ナズナが率先して行動できる得意分野・お菓子作りをすることになった。
お菓子作りは大成功に終わり、その晩、寝る前に参番隊は次の計画を立てていた。
「リラちゃん、チナミちゃん」
「なに? ナズナちゃん」
窓から星空が見える部屋で、布団に並んで横になりながらリラが聞いた。
「あのね、今日はお菓子作りも、うまくいったし、次は、クコちゃんのお誕生日に、ケーキをいっしょに作りたいんだ」
「いいねっ」
「賛成。あと一週間ちょっとか。まだ時間あるね」
チナミはさっそく計算した。
――この日数があれば、準備に困ることはないと思う。イストリア王国にも到着しているし、ケーキの材料を買うにも問題ない。
同じ部屋でヒナも寝ているため、起こさないように大きな声は出さないように気をつけて、リラが言った。
「うん。それで、どんなケーキにするかだね。リラはお姉様に喜んでもらえるのがいいな」
「まあ、それはマスト。ナズナは?」
「わ、わたしは、素敵な思い出に、なってほしいな」
「そうだね。となると、あとは具体案。ケーキの見た目や味、種類はどうするかとか。クコさんの好みも大事」
そう言ってチナミが二人から意見を聞こうとすると、リラとナズナはうれしそうに教えてくれた。
「お姉様はなんでもよく食べるかな」
「甘い物も、ごはんも、もりもり食べるね。ケーキは、大きいと喜びそう……だよ」
「うん、確かに。種類にこだわらなくてもいいけど、大きいのにしたいね」
「そういえば……クコちゃん、お父さんやお母さんと過ごすお誕生日じゃないのって、初めてだよね。寂しい、かな?」
「うーん、そうかもしれないけど、それだけじゃないかも。リラはいつも通りいっしょにいるし、ナズナちゃんもいて、チナミちゃんもいて、サツキ様たち士衛組のみんながいるんだもん」
「そ、そっかぁ。だったら、士衛組で過ごすお誕生日を楽しんでもらいたいね」
「せっかく士衛組で旅をしてるんだもんね。それいいよ、ナズナちゃん」
二人の会話を聞きながら、チナミはジト目で言った。
「具体案はないってこと?」
「あ、そうだった……」
「ごめんね、チナミちゃん。具体的に考えないとだよね、うん」
参番隊のリーダー・リラがこの調子だし、ナズナも抽象的だし、自分がしっかりしなきゃと思うチナミだった。
「まとめると、クコさんに喜んでもらえて、思い出になるケーキで、大きいものにする。あと、士衛組で過ごすお誕生日を特別に想ってもらえたらなおよしって感じ?」
「うん。リラはそうしたい」
「わ、わたしも」
「よし。じゃあ、明日からクコさんに喜んでもらえるケーキ作りの調査開始だね。ポイントはさりげなく聞くことだよ」
「わかった。あ。リラちゃん、かけ声やろう?」
「やろっか。お姉様のお誕生日大作戦、頑張るぞー。参番隊っ」
三人は鬨の声を上げる。
「えい! えい! おー!」
「うるさーい!」
横で眠っていたヒナがガバッと起きて叫んだ。
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