ケース2 『メイドのモノローグ』

 物語はどこからでも楽しめるか?

 最近、それが気になっています。

 ワタクシがあの方々と出会ったのは、それぞれが別のタイミングでした。

 そして、皆様それぞれが別の物語を生きているのです。

 仮にワタクシがあの方々の物語にプロローグを設定するとしたならば、それはサツキ様とクコ様の出会いになると思います。



 どこにでもいる普通の少年であったはずのサツキ様は、クコ様という少女によって異世界から召喚されたのです。

 サツキ様は今年十三歳になる少年、クコ様は十四歳になる少女です。

 二人共、身長はあまり変わらないくらいですね。

 ご存知の通り、この世界は世界樹という特殊な大樹によって、人々は魔法を創造することができます。

 いわば魔法の根源であり、特に魔力が高まる場所とされています。

 ワタクシの魔法も例に漏れずそうです。

 その世界樹の根本で、クコ様は自らの目的のために勇者様としてサツキ様を召喚されました。

 こうして、二人は出会ったのです。



 物語の始まりを、この少年と少女の出会いと仮定しましょう。

 クコ様はもちろん、サツキ様に召喚の意図を話します。

 一国の王女であるクコ様は、父君である国王様が体調を崩されたことで、大臣に国の支配権を奪われてしまいます。

 その大臣の目的は、世界樹を奪うことによる世界の掌握にありました。

 ゆえに、王女様は家庭教師であります博士の助言により、世界を救うため異世界から勇者様を召喚するための旅に出たのです。

 過去にも召喚された勇者様が世界を救ったという伝説があったようですね。そのため、サツキ様の召喚はアルブレア王国の奪還のみならず、世界平和のためのものだと言えましょう。

 当然、召喚は魔法の力で行われました。

 無事に出会えた二人ですが、すぐにクコ様をつけ狙うアルブレア王国騎士に遭遇してしまいます。

 世界樹を中心とした、世界樹ノ森へと二人は逃げ込みました。

 クコ様の魔法は精神系のもので、手をつなぐと声を出さずに会話ができる《精神感応ハンド・コネクト》です。それによって、騎士に見つからずに森を抜け出すための行動を開始します。

 中には、《とうフィルター》といって物体を透かして見ることができる魔法の使い手や、地面に潜り込める《潜伏沈下ハイドアンドシンク》なる魔法の使い手もいます。

 夜の暗い森を、クコ様が持っていた魔法道具《あんぐすり》で視野を確保しながら、見つからないように注意深く逃げました。

 しかし、緊張状態の逃走劇は、だれにも出会わずに済むものではありませんでした。

 最後の最後、森を抜け出る直前に、敵と再会してしまいます。

 そこで、サツキ様は自ら魔法を創造したのです。

 それは瞳の魔法でした。

 サツキ様とクコ様は必死の戦いにより、なんとか敵を倒し、世界樹ノ森を抜け出すことができました。



 世界樹に近いことから『かいさいて』と称された星降ノ村で、サツキ様には特別な出会いもありました。

『トリックスター』と呼ばれているお二人です。

 アキ様とエミ様といいます。

 若作りなためまだ十代の半ばに見えますが、今は二十歳、今度二十一歳になるようです。

 つまり、ワタクシのお兄様と同い年になりますね。

 この『トリックスター』は、クコ様が遠いアルブレア王国の地から晴和王国を目指す旅で出会ったお二人でした。

 サツキ様は友好の印として『トリックスター』に帽子をもらいます。

 帽子は、《どうぼうざくら》。

 魔法道具になっていて、八つの効果を持つといいます。帽子の『ぼう』に掛かった効果で、帽子の中身が四次元空間になって様々な物を収納できる『房』や、膨らませて反発させる『膨』などがあり、まだ聞けていない効果もあるようです。

 続いて、武器屋で刀を手に入れたサツキ様は、宿を決めると、クコ様にいろいろなお話を聞きます。

 クコ様の精神系の魔法《ハートコネクション》には、《精神感応ハンド・コネクト》以外にも、相手の額に手を当てると記憶を見せられる魔法《記憶伝達パーム・メモリーズ》があり、これによって自身の記憶を映像として見せたのです。

 その記憶では――

 宿敵、ブロッキニオ大臣のこと。

 妹、リラ様のこと。

 いとこ、ナズナ様のこと。

 クコ様を旅立たせてくれた博士のこと。

 など、クコ様を取り巻く状況を説明しました。

 さらに、世界地図はサツキ様のいらっしゃった世界と酷似しているそうです。

 サツキ様の住んでいた国が日本、この世界における晴和王国です。世界樹の場所は、その中でも栃木県の日光市に相当するといいます。

 また、クコ様のアルブレア王国は、サツキ様の世界でいうイギリスという国になるそうです。

 そして、サツキ様とクコ様は仲間集めを開始するのです。

 同時に、クコ様の妹・リラ様も旅立ちを決意します。



 ここからは、王都の物語の序章のお話です。

 サツキ様とクコ様の次の目的地、『おうおくしき』と呼ばれる温泉街には、仲間にしたい相手がいるそうです。

 クコ様の旧友で、お医者様の娘さんになります。

 のちに『ぐんしん』と呼ばれるサツキ様にとって、参謀となるべき聡明なお方ですから、彼女の持つ強力な魔法を抜きにしても、ぜひとも仲間にと思っていたことでしょう。

 王都へ行くまでに、彼女の獲得は大きな課題となります。

 そして。

 サツキ様とクコ様が仲間を増やして組織を作るのも、この王都の物語。

 空を飛ぶ希少な魔法を持ついとこのナズナ様も、王都に住んでいます。また、王都には『ばんのうてんさい』と呼ばれるお方もおりますし、のちのサツキ様の相棒で『しんそくけん』の異名をとるお方もちょうど来ているところですから、王都でサツキ様の世界は一気に広がるといえるでしょう。

 僭越ながら、ワタクシがあの方々の物語に登場するのもこの序章のお話になります。



 物語を楽しむには知識が必要なこともあるかもしれません。しかし、サツキ様とクコ様とリラ様の冒険については、少しだけ彼らに寄り添っていただけたら、彼らといっしょに楽しめるものだとワタクシは思っています。

 最後になりますが、サツキ様とクコ様、そしてリラ様の物語を、温かく見守っていただけたら幸いです。

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