第35話 猫が来る
あらすじ
玲子の妹の愛優(あゆ)は、憑依体質で動物霊を使役できる。神社の巫女から眷属の子狐を借りて仲良く暮らす。
「おねえちゃん」妹が戻ってくる。玄関から入ると箱を持っていた。嫌な予感しかしない。「なにを拾ってきたの?」私は眉をひそめながら愛優(あゆ)の顔をみつめる。Amazonの空き箱を見せる。妹は平気な顔で「猫」というと箱を開けて見せた。中には猫が居る。よくいるキジトラだ、「猫は……ダメよ」元からこの家では動物は飼わない。父親が若干アレルギーがあるので、家族会議で決めた事だが愛優は動物を飼いたがっている。
猫をよく見ると子猫ではない、かなり歳の猫だ。「愛優、この猫は単に箱の中で寝てただけじゃないの?」捨ててあるわけじゃなくて、地域猫を拾ってきた?「だめよ、返してきて」愛優が口を尖らせているが、成猫なら自立している。「大人の猫なのよ、一人……一匹で生きてけるわ」「猫ちゃんかわいいのに」妹が玄関に戻ろうとした時に、猫は箱から飛び出ると台所の床を歩く。愛優がびっくりしたように「逃げた」そら猫だから動き回るだろう。
私は逃げるキジトラの胴をつかむ。猫は私の顔を見ると、ひょいっと首が抜けた。「きゃあああああ」梅図かずお先生の漫画の少女のように私は悲鳴をあげると腰をぬかす。お尻を床につけたまま、ずりずりと後ろに下がった。猫の首はごろんと転がるとゆっくりと一回転をして戻る。体の方は四つ足で置物のようだ。猫が「にゃーん」と鳴くと、首からたれている肉のようなものが、蠢く。肉は鳥のささみのような色で、肌色の筋肉質だ。猫の首は、その筋肉を使って起き上がると、胴体に向かってジャンプする。体の穴?に筋肉質のそれをいれると、首がはまる。キジトラが座っている。
「夢?幻覚?」私は現実逃避で常識的な判断をしようと頭をぐるぐるしていた。ふと隣にミカン色の頭の少女が立っていた。「橙狐(だいだいきつね)!」愛優の守り神として常に居る、子狐の眷属だ。「これは、ぬけ首ですね」少女がキジトラを見ながら、面白そうにしていた。「なによそれ?」私は立ち上がると椅子に座る、愛優が猫を見て触りたがっているので、私は妹を抱いて制した。この子はアレを見てもまだ猫に触れたいのか。
橙狐は説明をしてくれた。ぬけ首は元は中国の妖怪で飛頭蛮と呼ばれる人間の首が独立して動く話だ。頭には飛行するために耳が翼のようについている。その耳を使って自由に飛べる。「これは動物のぬけ首ですね、めずらしいです」「これ……危険じゃないの?」私はこれでも耐性があるが、普通の人が見たら心臓発作の可能性すらある。「人間のぬけ首は人を襲いますね、血を吸います、まぁ吸血コウモリみたいものでしょう」橙狐が猫に近づくと「ならば、この猫は襲ったとしても猫でしょうね、人を襲わないと思います」疑わしいが妖怪を退治できるような力は私には無い。「判ったわ、愛優その箱ちょうだい」私は恐る恐る猫を箱の中に入れる。大人しい猫なのか暴れない。
愛優と一緒に猫が元に居た場所まで来ると、私は箱を置いた。愛優が「猫ちゃんバイバイ」と言いながら手をふる。猫は箱から出ると、ぶらぶら歩き出す。目で追ってると道路に出たキジトラに猛烈なスピードでキックボードがぶつかる。
運転していた若い男性は横転して頭からアスファルトに突っ込んだ。私は急いで駆け寄ると男性の具合を見る。呼びかけをしても応答が無い。私は救急車を呼ぶことにした。騒然とする現場から離れると警察から話を聞かれて、小一時間は拘束される。
疲れを感じながら、愛優を探すと箱を見ている。中に猫が居た。体が潰れた猫はもう死んでいるのだろう。「猫ちゃん……」妹は、お墓を作りたがった、庭に埋める事にする。本来は届け出て焼却処分なのだが妖怪なので、供養する事にした。もう夕方で暗くなる庭に園芸用のスコップで穴を掘る。「あ!猫ちゃん」私はふりむくと、猫は体から出ると筋肉質の尻尾で顔だけの状態で立っていた。「蛇…猫……」それは蛇の体に猫の頭をつけた生物にも見える。ただ胴体の部分は異様に短い。
「生きてたの…」キジトラは「にゃーん」と鳴くと、動き回る。「良かった猫ちゃん」でも胴体はどう見てもダメそうだ。橙狐もそばに来ると「体はダメみたいですね、しばらくすると体も再生するでしょう」私たちは蛇猫を飼うことにする。さすがに母親には隠せない。状況を説明すると猫用のエサで飼育する事にした。父親には内緒だ。母親は責任者として私を指名した。
夕飯時に「にゃーん」と二階から声がする。父親が「猫か?家の周りで猫でも飼ったのかな」と暢気にしている。蛇猫は私の部屋に居る。最近は胴体が伸びてきたのか、本当の蛇のようだ。今でも蛇猫の奇怪な姿に馴れないが、ペットができた妹は喜んでいる……「自分の部屋で飼ってよ」(涙目)
終わり
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