第25話 地下室のダンゴムシ

「愛優(あゆ)ちゃん、何を見ているの?」

窓から校舎の裏を見ていると同級生が近づいてきた。

「ううん、なんでもないよ」

キツネやイヌさんと一緒になってからは感じるようになった。


校舎裏にはポンプ室があって地下への階段がある。

そこに何か居ると判る。

「どうしよう、おねえちゃんに頼むかな」

みんなには見えない子狐が

「どうかしましたか?」と聞く。


「あの地下室が、なんか変なの」

子狐も窓から眺めると「変な気はありますね」

と、のんきそうに返事する

「まず観察しましょう」


「えー怖いなぁ」

でもいつまでも姉に頼るのも悪いと思えた。

いざとなったらキツネさんにも頼もう。


放課後に校舎裏に行くとポンプ室へ向かう。

階段の下には鉄の扉が見えた。

コンクリの階段を降りるとドアに手をかける。


開いた、鍵もかかっていない。

中を見ても真っ暗だ。灯りがないか手探りで壁を

なでるとスイッチがパチンとなると蛍光灯が点灯する


地下室はがらんとした空間があるだけで何も置かれていない。

用途も判らない部屋からは、気配は感じない

「変だなぁ、何も無いよ」

子狐に声をかけるが返事が無い

「あれ?子狐ちゃんどこ?」

いつも居る筈なのに姿も無い、扉から出ようとすると

後ろから気配がする


後ろを振り向くのが怖い、怖いが何が居るのか

わからない方がもっと怖い、顔だけ後ろを向ける。


丸い何かが部屋の中央にある

とても大きくて人の背丈くらいある

表面は毛が生えてないが、生き物の皮膚に見えた

大きさが尋常じゃない、そいつはゆっくりと丸まった

体を開き始めた


悲鳴を上げると同時に、背中から何かが抜け出る

犬神だ

「ひさしぶりの贄(にえ)か」

丸い何かにぶつかるように突進をすると、

犬神は顎(あぎと)を大きく開けて食い破る

あまりの凄惨さに体がすくむが、冷静な自分がいる

のも自覚していた。


たいらげると、犬神が近寄ってくる。

「俺が怖いか?」

にやにやと笑いながら、口を開けて見せる

血のにおいが充満する


恐怖よりも飼育している動物に躾けをする義務感がある

この犬を野放しにするのは危険だ

「お、おすわり」

かすれた声で命令をすると犬神は、忌々しそうな

顔で薄れて消えた。


ドアを開けると急いで家まで戻る。

「おねええちゃん」

部屋に飛び込むと姉の胸に抱きつく。

姉は、私の頭をなでると優しく抱きしめた。


子狐が「大丈夫でしたか?」と聞いてきた。

「どこ行ってたの」

肝心な時に居ない子狐に怒りを向けようとすると

姉が

「まって、神社の巫女の美成(みなり)さん

 が指示してたの」

申し訳なさそうに姉が謝る。


この学校にも霊障はある、ポンプ室の地下は用具入れ

だったが事件が起きた。子供を狙う事件で現場は封印

された。犯人は逮捕されたが罪の重さでこの現場で自

殺をしていた。


「何年もしてからその男の霊障が始まりそうだったのよ」


逆恨みなのだろうか子供達に影響を与える前に退治する

命令が、子狐経由で愛優に伝えられた

姉は事後に子狐から知らされた。


「まったくいきなりハードな命令を出すとか」

姉は怒っていたが、私が除霊?をできて安堵しているようだ


子狐が

「大丈夫です、この件で学校からお金出ます」

姉がちょっと嬉しそうに「いくら出るの?」と聞くが

「眷属の維持のお供え物代になりますよ」

と子狐は事務的に語る。


ずっこける姉を見て私は笑い出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る