第二章『ついて回る影との上手な付き合い方』
回想:未練とチャンス
最悪の人生だった。
『恥の多い生涯を送って来ました』と表した文豪になぞらえれば、『絶望の多い生涯を送って来ました』と言えるほどに、己の人生は実に最悪だったと彼は述懐する。
幼い頃から運動は苦手だったが勉強は得意で、ただ足が速くて球技が上手いだけで持てはやされる愚か者を尻目に、中高一貫の名門校に受験し、見事合格した。
……そこから、なめらかに回っていたはずの歯車が狂い始める。
段々と、勉強についていけなくなった。だが高校は気楽なエスカレーター式だ。不安がる必要はない。その間アニメやゲームといった娯楽に興じたが予想通り、その先の大学受験も無事合格してキャンパスライフが始まった。
なのに、なのにだ。サークル活動も合コンも、なに一つ上手くいかない。大学が合っていなかったせいだと気づいてからは、せめて損した分は取り戻そうと、その先の就職活動に向けて専念した。
なのに、なのにだ!
就職説明会へと向かう最中、車に撥ねられて、呆気なく死んでしまった!
まだ二十歳もそこそこだ。仕事を頑張って稼ぐことも、誰かと恋に落ちることもなく、没頭したかった作品もそのまま放置して死んでしまった。こんなに絶望的なことはないだろう。
……そうして、あの世とも思えない空虚な暗がりの中に、『それ』は現れた。
「ワタシは 『かみ』です」
「神……?」
神、神といったのか、このモヤモヤとしたものは。
ということはあれか? かの有名な転生ものよろしく、若い身空で死んでしまった哀れな子羊を、望みの世界へ生まれ変わらせてくれるのか?
「アナタを つれていくには 『みれん』が おおすぎます」
「ああそうだ! 未練だらけだ! やりたいこともいっぱいある!」
そうして神を名乗るこの存在に、切に訴えかけた。
せめて、別の世界でやり直させてくれ――と。
「アナタの 『みれん』は どんなセカイで なくせますか?」
「そうだな……あの世界がいい。ストーリーは好きだけど、どっちのルートでもヒロインが片方死ぬとかクソだから、原作知識で介入して結末を変えてやる」
かくして、彼の願いを神は叶えた。
それが――どういう末路をもたらすのかも知らずに。
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