▽……記憶はここで途切れている。/お題:俺は部屋

 ぱち、と不意に目を覚ます。真っ暗。道路からも音がしない。深夜か?深夜だろうな。

 寝付きは良い方だと思い込んでいたが、久々に深夜に目が覚めてしまった。

 催している感覚もないが、暖房をつけて寝ていたからだろうか、喉がやけに乾いている。


 水でも飲もう。なんの気無しにのそのそと起き上がり、寝室を出る。

 一人暮らしな分同居人を起こす心配をしなくて良いのは何よりだが、深夜帯の静かなリビングというのは、見慣れているはずなのになんだか不気味だ。

 さっさと電気をつけてキッチンに向かえば、がた、と物音が耳に届く。

 なんだろう。窓に鳥でもぶつかったかな。振り返っても、影はない。

 それに、音が聞こえたのはもっと違う方向だったような。


 心霊現象は信じない主義なんだ。自分で自分に言い聞かせながら、さっさと水を汲んでごくりと一気に飲み干す。

 冷たい水が喉を落ちていく感覚が全身に染み渡って、動揺していた体が少し和らぐ。

 その一方でその冷たさにただでさえ覚めていた意識がより覚醒してきた。しまった。眠れるだろうか。


 うーん、と思案したタイミングで、また、かた、と今度は控えめに音がした。

 ……ほぼ物置にしてる部屋の方から、音がした。そういえば、さっきもあの部屋から音がしたような。


 ………いや、気のせい。気のせいに決まっているじゃないか。

 積み上げていた箱でも落ちたのだろう。もしくは、俺が目を覚ます直前軽い地震でもあったとか。目を覚ました理由も地震に起こされたんなら説明がつくし。

 きっとそうだ。なら、まあ、一応雪崩になっていないかだけ確認して、そのまま寝よう。


 怖がるな、確認するだけだ。

 自分で自分にそう言い聞かせながら、俺はドアノブを慎重に捻る。

 かちゃり。ぎい。

 リビングの灯りのみが差し込む部屋はやはり真っ暗で、重い瞼で確認できるのは物のシルエットくらい。

 それでも幸いぐらついているものだとか、明らかな雪崩の後だとか、そういうものは見当たらなくてホッと胸を撫で下ろす。

 まあそんなもんだよな。幽霊なんて、居るわけないし。


 ……うん?棚の脇にあるあの箱、なんだっけ。あんな大きな物をこの部屋に置いていた記憶はないが。まあ、どうせこんな深夜に目が覚めたせいで寝ぼけてるだけだろう。明日の冴えた頭で改めて確認すればいい。

 そうして僅かな違和感はそのままに、あくびをしながらゆっくりと踵を返す。

 背後で影が何かを振り上げたことにも気付かずに、俺は部屋

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る