第4話 170光年≧の惑星には生存権がない

 そして遥かな年月が流れ、外宇宙に進出した人類は文明の転換点を迎えようとしていた。


 直径170万kmを誇る恒星ジャッターは恒星としての寿命を迎え、恒星系の惑星を呑み込み始めた。


 惑星ルバックもあと170日の間に生命体が生存不可能な状況になると推定されていたが、惑星全体を支配する独裁者は人民の避難を認めていなかった。



「総統! なぜ我々を避難させてくださらないのですか、植民惑星には全国民が避難可能な場所と資源が確保されています」

「ああ、君の意見はもっともだ」


 処刑される危険性を承知で異議を申し立てた大臣に、独裁者は全てを達観した表情で答えた。


「だが考えてもみたまえ。我々人類は母なる惑星から逃れ、こうして外宇宙に生存圏を確保したが、それでも戦争をやめられなかった。母なる惑星である地球には身長が低い男性を差別する因習が残っていたとされるが、今の我々は別の差別を生み出しただけでヒトという種族は何一つ進化していない。それに……」


 玉座を模した座席で膝を組み、独裁者は続ける。


「恒星ジャッターが寿命を迎えたということは、隣接する恒星系もそう長くは持たないということだ。科学者たちはあと170年もすれば恒星ジャッターは恒星系全てを呑み込み、その影響で植民惑星の全ての生命も死滅すると予測している。その未来を逃れるには170光年以上離れた惑星へと再び落ち延びる必要があるが、我々の文明にはもはやそのような余力はない。我々は既に生存権を失ったのだ」

「総統……」


 独裁者が述べた恒星系の未来は大臣も既に理解していた事実だった。


「それならばあと170日の間、惑星全体で楽しく生きようではないか。それが私たちの生命の歴史の終幕を飾る祭典となるのだ」


 独裁者はそう言うと、懐に隠し持っていた光線銃で自らの頭部を撃ち抜いた。



 身長170cm以下を転機とする生命の歴史は、170光年を超えられずにその終わりを迎えたのだった。

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