陰祷流転草子

ナツミカン

序幕

 太古より、この日ノ本には、怨念や妖怪の類が存在ていた。


 怨み、嫉み、怒り、憎しみ。


 それらを抱いて死んだ霊達が怨念となり、やがてその化身たる妖怪を産む。


 産まれた妖怪はこの世に災いを為し、そしてまた、新たな怨念を生んでいく。


 時の移ろいとともにもたらされ続けてきた、太古より続く輪廻の流れ。


 だが、そんな災いから人々を守護する者達もまた、太古より存在していた。


 力を持って穢れを祓い、妖怪を滅する彼らを、人々は祈祷師、あるいは陰陽師と呼んだ。


 時代とともに、陰陽師たちはその在り方を変えていったが、いつの世においても、人々の平穏のためその務めを果たしていった。


 ところが戦国の時代、歴史上に異色の陰陽師が登場する。妖の力を利用する者達が現れたのだ。


 陰陽師でありながら妖の力をも操る彼らは、各地を旅し、多くの怨念を祓い、妖怪を滅した。


 その存在は、江戸時代の始まりとともに歴史上から姿を消した。以降、歴史に記されることがなかった彼らを、当時の人々はこう呼んでいたという。


 影なる陰陽師、陰祷師いんとうしと。

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