一昨日ぶり

 5限までの授業を終え、へとへとになりながら帰宅する。もうベッドに飛び込んで眠ってしまいたかった。けれどスマホの通知が鳴り、らろあが『今日の夜は配信する!』とツイートしているのが目に入る。


 朝かららろあのことで勝手に振り回されているのに、それでもまだ配信を見たいと思うのだから自分の精神はどれだけ強いのだろう。いいねを押し、『やったー! 楽しみにしてる』とリプライを送った。


 厄介ちゃんのアカウントを開き、検索履歴に残った花音のアイコンをタップする。午前10時に、呑気な『おはよう』というツイートがされていた。リプライ欄にらろあのアイコンはない。


 らろあに関する匂わせもなかった。案外ちゃんとした人なのかもしれない。もしくは、わざわざ名前を出してツイートをする彼がおかしいだけだったのか。花音は彼のツイートをいいねすらしていなかった。


 今日の配信で花音が現れたらどうしよう、なんて心配をしたけれど、この様子だと杞憂だったかもしれない。らろあがリプライを送っている相手に何回か花音の名前が出てきたことはあったが、それもらろあから送ったものばかりだった。


 『らろあが一方的にすり寄ってるだけだったらウケるな』と打ち込み、誰もいないタイムラインにつぶやく。


 22時を回って、いつも通りに配信が始まった。たった1日見ていないだけで、なんだか久しぶりと言いたくなってしまう。そう思うくらい、彼の声を聞いている時間が多かったのだけれど。



「昨日はごめんねー、ちょっとね、お友達さんとゲームしててね」



 お友達さん、という言い方になぜだかぞわりとした。画面の中のらろあはやたらとへらへらしていて、なんだか気味が悪い。2桁にも満たないリスナーに、配信ができなかったことを謝っているのも変な心地がする。



「花音ちゃんって子と一緒にゲームしてもらってさ。配信者さんなんだけど、すごいゲーム上手くて……」



 らろあはへらへらした顔のまま、『お友達さん』と名前を濁していたのも忘れて花音の名前を出した。そもそもツイートで書いていたのに配信ではぐらかしているほうがおかしいのだ。


 彼は一緒にゲームができる友達が増えて嬉しいのか、それとも単に裏で女配信者と遊べる自分に浸っているのか、終始にこにこしていた。配信の合間合間に花音との通話での話を入れてきてモヤモヤする。


といってもその内容はゲームに関するアドバイスをもらった、みたいなものばかりだった。それくらいまともな会話がなかったのか、らろあがよっぽど下手だったのか。


 モヤモヤしているのはどちらかといえばらろあに対してだった。花音だってこんな風にわざわざ裏でのエピソードをペラペラ話されるのは嫌だろう。


 毎晩通話している私との話はみじんも表に出さないのに、花音との話はぼろぼろ出てくるのが不愉快だった。せいぜい数時間通話しただけのことを、よくもそんな大層に話せるものだ。


 けれどそう思っているのが伝わらないように、なるだけ冷静なコメントを送る。淡々と相槌だけを送るコメント欄の裏で、厄介ちゃんのアカウントの方が饒舌になっていた。


 配信が始まってから1時間経っても、花音は配信に現れなかった。やっぱり杞憂だったらしい。ふと気になって彼女のアカウントを覗くと、花音も今配信しているらしかった。



「じゃあ今日はこれくらいにしよっかなー、お疲れ! おやすみ!」



 ぼんやりと彼の声を聞きながら、厄介ちゃんのアカウントに愚痴を打ち込んでいると、突然らろあがそんな風に配信を切り上げた。慌ててコメント欄へ戻り、『おつかれさま』と打ち込む。動揺して変換すらできなかった。

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